シーズン前に自転車チームが集まる「アリカンテ地方」って、どんなところ?
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シーズン前に自転車チームが集まる「アリカンテ地方」って、どんなところ?
1月から2月にかけてのシーズンイン直前、多くのプロの自転車チームが合宿をしているスペインのアリカンテという地方があります。しかし、サグラダ・ファミリアやアルハンブラ宮殿のような有名な観光地があるわけではないので、日本から来た観光客が好んで行く地域ではありません。
では、サイクリストがアリカンテ地方に集まる理由とは、どのようなものなのでしょうか。
TOP写真:アリカンテ地方のベニドルムにて。自転車の集団に足止めされるキャンピングカー。Photo by Yukari TSUSHIMA.
アリカンテはどこにある?
アリカンテ地方にある海沿いのリゾート地・ベニドルムの夕暮れ。Photo by Yukari TSUSHIMA.
まず、アリカンテ地方はスペインのどこにあるのでしょうか。スペインの首都・マドリードはイベリア半島のほぼ中央にありますが、そのマドリードから見て南東の方角にあるのが、アリカンテ地方です。行政区分としてはバレンシア地方の一部で、カスティリャ-ノと呼ばれる一般的なスペイン語と同じくらい、バレンシア語という独自の言葉が話されている地域です。
また、アリカンテ地方はバレンシア地方の最も南に位置し、隣にはムルシア地方が広がります。ちなみに、アリカンテ地方は地中海に面していますが、地中海の向こうはアフリカ大陸です。
このアリカンテ地方に住む住民の人口は約200万人(2025年)。しかし、夏のバカンスシーズンになると、スペイン国内外から観光客が殺到し、人口が一気に膨れ上がります。
このアリカンテ地方をはじめとするスペインの地中海沿いの多くの地方は、1960年代にスペイン政府が観光業振興のため、大規模なリゾートホテルの建設を積極的に許可したことから、産業化が始まりました。気候が温暖な地域であったため、スペイン国内はもちろん、北ヨーロッパをはじめとする観光客がこの地域に集まることになりました。その結果、ヨーロッパでも有数の一大リゾート地となったのです。
ロードレースの元日本チャンピオン・與那嶺恵理さんが語るアリカンテ地方
アリカンテ地方のバールで話す與那嶺恵理さん。Photo by Yukari TSUSHIMA.
では、このアリカンテ地方のどのような点が、サイクリストに好まれているのでしょうか。
かつてプロの自転車選手としてヨーロッパを中心にレースを走り、2024年末で引退。現在はアリカンテ地方のとある町に住んでいる與那嶺恵理さんに、サイクリストから見たアリカンテ地方と、地元に住む人にとってのアリカンテ地方を語っていただきました。
――サイクリストにとって、そして自転車チームにとって、アリカンテでトレーニングするメリットとは、どのようなものでしょうか。
與那嶺恵理さん(以下、敬称略)「最大のメリットは、サイクルツーリズムが浸透していて、自転車を受け入れるために作られているホテル等が非常に多いことだと思います。
もちろん、天気の良い日が多いとか、気温が高いといった気候面のアドバンテージもあります。でも、気温だけなら今の時期(1月中旬)、アンダルシアの方が暖かいですからね。
アリカンテ地方は自転車専用ガレージがあるホテルも多いですし、その専用ガレージの隣で自転車を洗えるようになっているところもあります。そうしたホテルではセキュリティもしっかりしているので、自転車を盗まれる可能性も低くなります。また、チームバスやトラックのための大きな駐車場があったりするので、自転車チームが合宿をするのに非常に都合が良いんです。
また、ホテルによっては、泊まっているだけで高地トレーニングできるレベルまで酸素が薄くなる部屋を備えているところあるので、そうした意味でもプロ選手対応のホテルは多いと思います。」
――與那嶺さんは、現役時代にもトレーニングのために何度かアリカンテ地方に来ていて、今はこの地方に住んでいますよね。最初にトレーニングに来ていたころと比較して、今のアリカンテ地方でサイクリストの環境について、何か変化を感じることはありますか。
「私が知っているのはこの4~5年くらいのアリカンテ地方ですが、マチュー・ファン・デル・プール やレムコ・エヴェネプールといった世界のトップクラスのサイクリストがこの地方に自分の家を購入してから、状況が変わってきたような感じがします。
世界チャンピオンでもある若いサイクリストの2人がアリカンテ地方に家を購入して、『アリカンテ地方って、自転車乗る人にとって本当にいいところなんだ』と改めて多くの認識されるようになった感じでしょうか。とは言っても、レムコもマチューも住んでいるのは超高級住宅エリアで、アリカンテ地方にはもっと庶民的なエリアもたくさんありますが。」
――最近、スペインのニュースでアリカンテ地方に住む地元の人が、この時期プロのサイクリストが大勢この辺りで合宿していることに関して迷惑だと思い始めているという報道がありました。今、與那嶺さんはアリカンテ地方に住んでいるわけですが、地元の人が持っているサイクリストに対する感情は変わってきていると思いますか。
「例えば、趣味で自転車に乗っている地元の人は、この時期にたくさんのプロのチームがこの地域で合宿していることを喜んでます。でも、自転車に乗っていない地元の人にとっては、サイクリストって少々めんどくさい存在なんですよね。私も最近このあたりで車を運転するようになって気が付いたのですが。
サイクリストがいたら、彼らを追い抜くために車はスピード落とさなくてはいけないから、渋滞が起こりやすくなります。この辺りは特に海辺の細い道がその町の幹線道路になっているところも多いので、そこにサイクリストがいるともっと渋滞が起こりやすくなるんです。
地元自治体や警察なども、交通整理をしたりしてくれているのですが、その結果、今度はサイクリストが交通違反の切符を切られたりしています。
私の住んでいる町の近くで交互に片側一方通行をしなくてはならない場所があるのですが、ある日そこをフランスのプロチームの選手が20人くらい、自分たちの順番を待たずに、勝手に通って行ったそうです。その結果、そのチームの選手は全員1人100ユーロくらいの罰金を払ったと聞いています。ほかにもプロはもちろんアマチュアのサイクリストも含めて罰金を払った選手が多数いると聞いていますので、最近はこのあたりでもサイクリストを見る目が厳しくなっているのかもしれませんね。」
アリカンテ地方は、国際的な自転車レースも多く開催されている地域。写真は2026年ベニドルムで開催されたシクロクロス・ワールドカップで優勝した、マチュー・ファン・デル・プール。Photo by Yukari TSUSHIMA.
アリカンテ地方は、サイクルツーリズムが浸透しており、ホテルなどのインフラも自転車で来る人に対応したものになっているため、年間を通じて多くのサイクリストが訪れています。その一方で、自転車に乗らない地元の人は、現状に対していろいろと思うところがあるのかもしれません。
現在日本でもサイクルツーリズムを推進している地方自治体がいくつかありますが、そうした日本の都市から見ても、アリカンテ地方の現状は興味深いケースのなるのではないでしょうか。

