なぜFAカップではジャイアントキリングが満載なのか?

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なぜFAカップではジャイアントキリングが満載なのか?

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736クラブが参加する伝統のカップ戦

ウェストハム、ポーツマス、カーディフ、ポーツマス、ストーク、ウィガン、ハル・シティ、アストン・ヴィラ。ビッグクラブとは言えないこれらのチームに共通するのは何ですか?というクイズに即座にボタンを押せた方は、なかなかのプレミアリーグ通です。

答えは、「最近10年で、FAカップの決勝に進出したクラブ」。

これこそが、1871年に始まった世界最古のサッカー大会であるFAカップの醍醐味を端的に表していると言えます。
実力的に劣るクラブが、プレミアリーグのトップクラブを倒す「ジャイアントキリング」が多く、予想もしなかったクラブが破竹の勢いで勝ち進み、ウェンブリー・スタジアムで行われる決勝まで進んでしまうことが珍しくない大会なのです。

なぜ、FAカップはジャイアントキリングが多いのでしょうか。その答えを探るべく、まずは大会のシステムを紹介しましょう。

FAカップは、プロ・アマを問わず、FA(イングランドサッカー協会)に登録しているクラブならどのチームでも出場できるオープンなカップ戦です。
2015-16シーズンの参加クラブは736。8月に行われる予備選予選と予備選で、下部リーグに所属する約500クラブが、160クラブに絞られます。

予備戦を通過したクラブに、第3〜5シードの140クラブを加えて行われる9月〜10月の予選は4回戦まであり、これに参加するのはイングランドの5部リーグに当たる「カンファレンスナショナル」以下のクラブ。300あったクラブは、予選終了時には32に減っています。

11月、ようやくFAカップ1回戦がスタート。ここから、リーグ1(3部)とリーグ2(4部)に所属する48クラブが加わります。

予選を勝ち抜いた32クラブと合わせると、80クラブとなりますが、1回戦で40、12月の2回戦で20まで減り、年明けの3回戦からは、プレミアリーグの20クラブとチャンピオンシップ(2部)の24クラブが登場です。64クラブで3回戦を戦い、ここからはノックアウト方式で、5月の決勝まで進んでいきます。

アマチュアのチームでも国内チャンピオンがめざせる夢の大会ではあるものの、優勝するとなると、8月から14戦全勝が必要という長く険しい道のりなのです。

2006-07シーズンの決勝は、モウリーニョ監督のチェルシーがマンチェスター・ユナイテッドを撃破(PHOTO by Oyvind Vik)

2006-07シーズンの決勝は、モウリーニョ監督のチェルシーがマンチェスター・ユナイテッドを撃破(PHOTO by Oyvind Vik)

一発勝負の緊張感と過密日程が波乱を巻き起こす!

さて、いよいよ本題です。FAカップでジャイアントキリングが多い理由は、大きく2つです。

ひとつは「大会のレギュレーション」、そしてもうひとつは「イングランド特有の過密スケジュール」。FAカップは、チャンピオンズリーグなどで導入されているホーム&アウェイではなく、すべてのラウンドが一発勝負。しかも、どちらのホームで戦うのかも抽選によって決められます。引き分けだった場合は、ホームとアウェイを入れ替えてリプレイ(再試合)が行われ、それでも勝負がつかなければ延長戦、PK戦となります。

「両チームの合意があれば、初戦で延長戦、PK戦を行って決着をつけてもいい」というルールがあるのも独特で、これは遠征予算が少ない下部リーグのチーム同士の試合で、時折行われています。

一発勝負となると、格下のクラブが上位を食ってやろうと盛り上がります。2015-16シーズンのFAカップ4回戦では、チェルシーが本拠地スタンフォード・ブリッジで3部のブラッドフォードと戦い、2-1と勝っていた残り15分から3点を奪われまさかの逆転負けを喫しました。

マンチェスター・シティもプレミアリーグではほとんど負けないホームのエティハド・スタジアムで、チャンピオンシップのミドルスブラに0-2と完敗し、たった2試合で姿を消しました。プレミアリーグで首位を独走しながら足をすくわれたモウリーニョ監督は、こう言い訳したかったのではないでしょうか。「試合が多いから…」。
そう、この時期のプレミアリーグ勢は、忙しいのです。

3回戦が開催される年初は、ボクシングデー、年末と続くタイトなリーグ戦日程の直後。やっかいなのは、1月に準決勝のホーム&アウェイ2試合があるキャピタルワンカップで、昨季のチェルシーはこちらで勝ち残っていたために、中2〜3日が続く厳しい状況を強いられていました。

今シーズンは、やはり準決勝に勝ち残っていたリヴァプールが、4部のエクセター相手に若手中心のスタメンで臨み、敗戦寸前まで追い込まれています。上位のクラブが、厳しい日程のなかでメンバーを落としたり、よもや負けないと油断して、ここが勝負と気合が入った下位のチームにやられるのが、FAカップで繰り返されてきた歴史なのです。

2008年にポーツマス、2013年にウィガンが優勝する一方で、マンチェスター・ユナイテッドは11年、リヴァプールは9年、トロフィーから遠ざかっています(PHOTO by Carlos yo)

2008年にポーツマス、2013年にウィガンが優勝する一方で、マンチェスター・ユナイテッドは11年、リヴァプールは9年、トロフィーから遠ざかっています(PHOTO by Carlos yo)

FAカップを優勝したのに2部に降格したウィガン!

ここ数年のFAカップで、最も印象的だったジャイアントキリングは、ウィガン・アスレチックがマンチェスター・シティに勝った2012-13シーズンの決勝です。この年のウィガンは、プレミアリーグ降格ゾーンの18位と低迷。プレミアリーグにおける対マンチェスター・シティは7戦全敗で、1点も取ったことがないという一方的な戦績でした。

誰もがマンチェスター・シティが勝つと予想した試合は、0-0のまま終盤へ。残り6分でマンチェスター・シティのサバレタが2枚めのイエローカードを受けて退場となると、ウィガンが攻勢に転じます。決勝ゴールは追加タイム1分、マロニーが蹴ったCKに合わせたベン・ワトソンの美しいヘディングシュート。その瞬間、ウェンブリーの観客が絶叫し、大金星を挙げたクラブを大きな拍手で称える感動的な光景が繰り広げられました。

ウィガンにとっては、クラブ創設80年めで獲得した初めてのタイトルとなったのですが、この奇跡的な優勝には2つほど後日談があります。ウィガンは直後のプレミアリーグでアーセナルに完敗し、降格が決定。FAカップの勝者に与えられるヨーロッパリーグを、チャンピオンシップ所属のクラブとして戦うことになりました。

そして翌年、FAカップ準々決勝でマンチェスター・シティの本拠地エティハドに乗り込んだウィガンは1-2で勝利し、2年連続でジャイアントキリングを達成したのでした。

2015年3月、FAカップ準々決勝のオールド・トラフォード。アーセナルがマンチェスター・ユナイテッドに1-2で勝利

2015年3月、FAカップ準々決勝のオールド・トラフォード。アーセナルがマンチェスター・ユナイテッドに1-2で勝利

今季のFAカップの注目は、アーセナルの3連覇です。

昨季の準々決勝では、苦手としていた敵地オールド・トラフォードでのマンチェスター・ユナイテッド戦を、古巣対決となったウェルベックの決勝ゴールで勝利。これもまた、記憶に残る名勝負でした。

準決勝はチャンピオンシップ所属のレディング戦で、ジャイアントキリング寸前まで追い込まれながらも2-1でこれを下すと、アストン・ヴィラとの決勝は4-0完勝。アーセナルのFAカップ優勝12回は最多で、そのうち6回を勝っているヴェンゲル監督は歴代最多優勝監督です。1883〜86年のブラックバーン以来、130年ぶりとなる3連覇は実現するのでしょうか。

今季のFAカップ4回戦は1月29日〜2月1日に開催されますが、アーセナル以外のトップクラブがすべてアウェイゲームとなっており、ジャイアントキリングの香りが漂います。おそらくこのラウンドでは、何らかの事件が起こるでしょう。波乱含みのFAカップに、ぜひご注目ください。


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