女子サッカーを文化にするために カナダW杯決勝の衝撃から学べること 第3回 U-23米女子代表シム・マレアナ選手に聞くアメリカ国内リーグの今

第3回 U-23米女子代表シム・マレアナ選手に聞くアメリカ国内リーグの今 WATCH

女子サッカーを文化にするために カナダW杯決勝の衝撃から学べること 第3回 U-23米女子代表シム・マレアナ選手に聞くアメリカ国内リーグの今

スポーティ

苦戦をするなでしこリーグ
不安を抱えながらプレーする選手たち

「2011年にW杯優勝して以降、たくさんの方に注目していただきながらも、日本の国内の女子リーグでなかなか観客が増えない現状があります。私たちは結果を出し続けなければすぐに皆さんが離れていってしまうという不安を抱えながら戦っています」
(JFATV:https://www.youtube.com/watch?v=gsRDyPoCWSE

カナダW杯の帰国会見で、なでしこジャパンのキャプテン・宮間あや選手は、代表選手が主戦場である国内リーグを観てほしいと訴えました。

なでしこリーグは2011年のW杯優勝後は観客数を約5倍に伸ばし、8月6日に行われたな新潟対INAC神戸戦で2万4546人のリーグの最多観客動員数を記録しました。しかし銀メダルを獲得した2012年のロンドン五輪以降は徐々に減らし、カナダ大会前には一試合の平均入所者数が1400人にまで落ち込んでいました。

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宮間選手の訴えに応えるように、カナダW杯後最初の試合となった7月12日の岡山湯郷対INAC神戸戦には、4998人の観衆が美作に詰めかけましたが、残念ながらその関心も長くは続きませんでした。

女子サッカー大国・アメリカの国内リーグはどうなのでしょうか。今回は、ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ(NWSL)のポートランド・ソーンズFCに2013年から所属し、伊賀FCくノ一に期限付き移籍していたシム・マレアナ選手にお話を聞き、なでしこリーグを盛り上げるためのヒントを探ります。(2015年12月17日取材)

「99年W杯チームが勝つところを見て、サッカー選手に憧れた」

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Q:サッカーをはじめたきっかけを教えてください。
私は1999年のW杯チームを見て育ちました。私はミシェル・エイカーズとジュリー・ファウディーが本当に好きでした。もちろんミア・ハムやクリスティン・リリーも。彼らがW杯や五輪で優勝するところを見て、私も彼らのようになりたいと夢を抱き、5歳の時にサッカーを始めました。

Q:日本ではまだまだ少女たちがサッカーをする環境が十分に整っているとは言えません。アメリカでは少女たちの競技環境はいかがですか?
多くのアメリカの少女は小さい頃からサッカーを始めます。サッカーは最もオーガナイズされたスポーツのひとつなので、アメリカの少女の多くはいずれかの時期にサッカーを経験しています。ある時大学の友だちと食事をして、その場にいた10人中10人がサッカーを経験していたということもありました。それほど人気があるスポーツです。

家族も少女たちをサポートします。両親はピクニックに行く感覚で試合に連れて行ったり、自らコーチをしたり、家族のイベントとして楽しんでいます。

Q:シム選手は女子のチームでプレーしていたのですか?
アメリカでは男子とほぼ同数の女子チームがあります。5歳からリーグがあり、ほとんどの少女が女子チームでプレーします。

私も普段は女子のチームに所属していましたが、女子のチームでは一番上手くて、より上手くなりたいと思っていたので、男子のチームでも練習していました。男子の方がより早くて強いのですし、少しでも多くプレーをしたかったので、チームを掛け持ちしていました。

Q:高校卒業後は、名門サンタクララ大学に進学しました。
大学にはサッカーのスカラシップで入りました。大学リーグのレベルも高いですし、大学での4年間はほとんどお金がかからないこともあり、アメリカではトップ選手の多くは奨学金をもらって大学でサッカーをして、その後プロリーグに行きます。

私の大学では25選手中10人くらいがスカラシップでした。その10人の中にも、全額奨学金をもらえる選手と一部だけもらえる選手がいます。これはサッカーだけでなく、アメリカンフットボールや野球等の他のスポーツでも同じです。

大学では、もちろん勉強もしなければいけません。朝は6時からトレーニングをして、その後午前中の授業に8時から11時まで出席します。お昼にもう一度練習をして、午後の授業が15から19時まであります。とてもハードです。

スカラシップは国籍関係なく受けることができるので、世界各国から選手が来ています。男子チームでは2人の日本人選手が奨学金を受けプレーをしていました。アメリカの大学には英語やその他のことを学びながらサッカーができる良い環境が整っているので、日本の選手ももっと挑戦すればよいと思います。

「NWSLは身の丈にあったリーグ。とても上手くいっている」

Q:アメリカ国内リーグの競技環境はいかがですか?
私が所属するポートランドはとても恵まれています。大きなスタジアムがあり、ロッカールームも美しいし、セキュリティも完璧です。200人くらいのスタッフがいて、用具や水等のメンテナンス、身体のケアも完璧に行ってくれるので、選手はサッカーに集中できます。

ファンにも恵まれていて、ホームゲームには平均1万3千人くらい※の観客が観に来てくれます。

※ 2015年のポートランドホームゲームの平均観客数は15,639人。リーグ平均は5,046人。

Q:リーグ戦で1万以上、すごいですね!アメリカの観客は少女とその家族が多いと聞きましたが、ポートランドはいかがですか?
少女やそのファミリーも多いですが、私のチームのファンは30代40代の方も多く、お酒を飲んで大声で騒いで楽しみます。地域の方を招待したりもします。

特に宣伝をしているという訳ではないのですが、アメリカではサッカーをする、見るという文化が根付いているので、多くの方が観に来てくれます。

テレビでは一部の試合しか放送されませんが、ネットでは全試合を見ることもできます。

Q:そのような環境から伊賀に来て、とても驚いたのではないですか?
いいえ、そんなことはありません。私たちのチームは恵まれていますが、観客が2000人くらいのチームもありますから。

ただ、コンディション調整には少し戸惑いました。というのも、アメリカでは、土曜日に試合が行われるのですが、木曜日に移動し、試合後は1泊して翌日の日曜日に飛行機で移動することがほとんどです。伊賀では5、6時間かけて試合に行き、試合後すぐにとんぼ返りをする。アメリカではそういった経験がなかったので、難しかったです。

Q:その他、日本とアメリカのリーグで違うと感じた点はありますか?
やはり選手が働いているというところが最も違う点ですね。先ほども話した通り、常勤のスタッフの数も違います。アメリカでは、自分たちでゴールを準備したり、掃除をしたり、用具を管理することはありません。選手はサッカーで魅せることに集中できる点が大きく違います。

Q:シム選手がポートランド・ソーンズFCに加入した2013年から、現在のナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ(NWSL)がスタートしました。アメリカの国内リーグにはこれまでにもWUSA、WPSの2つのリーグがあり、いずれも財政難等を理由にわずか3年で休止に追い込まれましたが、今のリーグは上手くいっているのでしょうか。
これまでのリーグは、選手に多くの給料を支払いすぎたり、スタジアムが立派過ぎたりして、それに見合うだけの観客が集まらず上手くいきませんでした。現在のリーグはこれまでとは違うモデルで運営され、とても上手くいっています。試合会場となるスタジアムも小さく、協会が代表選手の給料を支給して人件費も抑えられています。身の丈にあったリーグです。

Q:アメリカでは代表選手が各チームに振り分けられていることも、なでしこリーグと違う点ですね。
日本ではINAC(神戸レオネッサ)に代表選手が集中していますが、アメリカではアロケーションと言って、代表クラスの選手は各チームに振り分けられます。リーグ全体を盛り上げるために、どのチームのファンも代表選手を見ることができるようにと配慮されています。これはサッカーだけではなく、バスケットボールも、アメリカンフットボールも、野球も、プロフェッショナルスポーツはみな同じで、トップ選手はチームを選ぶことはできません。

私はカレッジドラフトでポートランド・ソーンズに加入しましたが、アメリカではほとんどの有名選手は大学に行くので、カレッジドラフトで選ばれることが一般的です。もし私が将来代表に選ばれることになったら、アロケーションで移籍することになるかもしれません。

「プロフェッショナルリズム」と「プライド」

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Q:なでしこリーグで3ヶ月プレーをして得たものはありますか?
私は日本のプレースタイルがとても好きです。どの選手も技術がとても高く、ボールを回してゲームを作り、動きもパススピードも速い。私は身長があまり高くなく、体格的には日本人選手に近いので、そういった日本の選手の動きを学びたいと思って来ましたが、お互いに良いところを学び合うことができたと思います。チームメイトもスタッフもとても好きですし、伊賀というまちも居心地が良かったです。

Q:この3ヶ月間、シム選手のプレーを見たり、お話を伺ったりする中で、「プロ意識」の高さがとても印象に残りました。
私たちはチームや大学で、プロフェッショナルリズムという教育を受けます。プロとして結果を出すこともそうですが、例えば、メディアにどのように応えたら良いか、カメラの前でどのように自分をプレゼンテーションしたら魅力的に見えるか、ソーシャルメディアでの振る舞い方やスポンサーやファン等への対応の仕方なども含めて、プロとしての心構えを学びんでいるからだと思います。

Q:日本の女子サッカーには「あきらめない、ひたむきさ」が“なでしこ魂”として受け継がれてきましたが、アメリカの女子サッカーに受け継がれているスピリットは何でしょうか?
「プライド」と言うことができるかもしれません。国を代表しているというプライド、多くの女子サッカー選手を代表しているというプライド、そして世界チャンピオンであり続けているというプライドです。

「ちょうど今、アビー・ワンバック選手のラストマッチが行われているんです」(シム選手)


取材を行った12月17日は、アメリカ女子サッカーの“第2章”が終えようとしていた日であり、奇しくも日本女子サッカーを牽引してきた澤穂希選手が引退会見を行う日でした。

なでしこリーグにもNWSLにもそれぞれ良い部分があります。

スター選手がピッチを去り、迎える2016年、日米の女子サッカーにとって勝負の一年になることでしょう。