日本と文化が違う!…ゴシップ大好き英国マスコミのプレミアリーグ狂騒曲

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スポーティ

結局、いちばん信頼できるのはどこなの?

近年、サッカー専門サイトやニュースサイトで海外サッカー関連の記事が大量に配信されるようになりましたが、とりわけ選手の移籍関連情報などは、嘘か本当かわからない記事も多く、困惑している人もいるのではないでしょうか。

プレミアリーグのお膝元であるイギリスには、高級紙、大衆紙、地域紙などの新聞に加えて、「BBC」「スカイスポーツ」「Talksport」といったTV・ラジオ、「Goal.com」をはじめとするサッカー情報専門サイトと多彩なメディアがあり、それぞれが流すニュースの中身が食い違ったりします。「現地メディア〇〇によると…」と伝えられる情報をみるたびに、こう思う人もいるでしょう。「結局、いちばん信頼できるのはどこなの?」と。

このテーマについて、昨年の6月に、「101グレートゴールズ」というメディアが、

「101 Great Goals rank the most reliable English sources for transfer news(移籍関連ニュースについて、イギリスのニュースソースの信頼性をランク付けした)」

という記事を掲載。

彼らのランキングによると、1位は「BBC」、2位が高級紙の「ザ・タイムズ」と「ガーディアン」。3位に同じく高級紙といわれる「テレグラフ」が続き、4位は大衆紙「デイリー・メール」、5位が扇情的なゴシップ記事で有名な「ザ・サン」、6位が「デイリー・ミラー」。7位にタブロイド紙の「デイリー・スター」と「エクスプレス」が並び、最下位がイギリスの地下鉄構内で配布されているフリーペーパー「メトロ」となっています。「メトロ」は、暇つぶしで読む人も多いメディアなので、半ば確信犯でおもしろいゴシップを掲載しているのではないかと思われます。

このランキングには入っていなかった「スカイスポーツ」は、プレミアリーグの放映権を持っているメディアだけに「BBC」に次ぐ信頼性。この2月に新聞を廃止してデジタルのみで展開すると発表した「インデペンデント」は、2位相当といったところでしょう。

それぞれについて紹介する前に、イギリスの新聞業界について、簡単に触れておきましょう。

当地の新聞は、上級階級やビジネスパーソン向けの高級紙と、中流もしくはワーキングクラス向けの大衆紙の2つに分かれます。

前者の代表は、「ザ・タイムズ」「ガーディアン」「テレグラフ」など。後者は、タブロイド版といわれる日本の夕刊紙サイズの新聞(現在は高級紙もタブロイドが多い)で、前述のランキングの4位以下がこれにあたります。傾向としてあるのは、「信頼性は高級紙、スピードと情報の多様性は大衆紙」。国営放送の「BBC」や高級紙は、「飛ばし」といわれるゴシップ記事が少ないかわりに、信ぴょう性が高まるまでは報道しないことが多く、大衆紙の記事は玉石混交(多くは石!?)で、ゴシップ満載ながら情報は早く、時折大きなスクープを提供してくれます。

「BBC SPORTS」のゴシップコーナーには「ザ・サン」の1面の写真がデカデカと載っていたりします

「BBC SPORTS」のゴシップコーナーには「ザ・サン」の1面の写真がデカデカと載っていたりします

日本とイギリスで意識が違う「情報の正確性」

ひとつおさえておきたいのは、日本の新聞とイギリスの新聞は、情報の正確性に対する厳格さが違うということ。日本の新聞には、事実を正確かつ客観的に伝えるというスタンスが根付いているのに対して、イギリスで信頼性が高いといわれる「BBC」のサイトは、ユーモアのある柔らかい記事も数多く掲載。「BBC SPORTS」にはゴシップのコーナーがあり、「マンチェスター・ユナイテッドはアーセナルとのホームゲームの前にモウリーニョ監督と契約」といったイギリス各紙の怪しいゴシップをまとめて紹介しています。

「インデペンデント」などの高級紙にもゴシップ欄があり、「これは噂なんだけど…」「他紙が掲載していたんだけど…」という但し書きとセットで、大胆な移籍関連情報を掲載しています。情報の精度に定評がある「スカイスポーツ」も、10月に「メッシがプレミアリーグ移籍の準備を始めている」という先走り記事を掲載しており、これに乗っかって「アーセナル移籍!」とやってしまうのがタブロイド紙です。

日本の一般紙と総合週刊誌を足したのがイギリスの高級紙、夕刊紙や写真週刊誌のテイストが大衆紙といった感覚でしょうか。現地発の記事を読むと、ことサッカーにおいては、イギリス人は日本人がとても及ばないぐらいゴシップネタが好きなのだなと感心させられます。

侮れないタブロイド紙の底力!?

ゴシップばかりでなく、ゲーム分析やコラムも充実。「ザ・サン」のサッカー記事のボリュームには圧倒されます

ゴシップばかりでなく、ゲーム分析やコラムも充実。「ザ・サン」のサッカー記事のボリュームには圧倒されます

さて、ここまで読むと「タブロイド紙は信頼できない」という結論で終わってしまいそうですが、彼らの実力を侮ってはいけません。

昨夏までマンチェスター・ユナイテッドに所属していたディ・マリアのパリ・サンジェルマン移籍では、両クラブのキーマンが密会していたという情報から移籍決定間近と報じた「デイリー・スター」のスクープが話題になりました。今シーズンの開幕前に、ジェイミー・ヴァーディの日本人差別発言の動画をUPしたのは、地獄耳と怖れられる「ザ・サン」です。一方、移籍情報ではハズレも多いながらも、取材に基づいた中身の濃いレポートが充実しているのが「デイリー・ミラー」です。

「Arsenal improved their injury record by 25% in a year – this is the American coach who helped them do it(アーセナルはアメリカ人コーチに支えられ、年間の負傷者数を25%改善)」


と題された記事は、2014年にアーセナルに加入したトレーナー、シャド・フォーサイスさんが負傷者を減らしたプロセスを詳細に紹介。

「What next for Manchester United? 5 possible plans of action as pressure mounts on Louis van Gaal(マンチェスター・ユナイテッドは次をどうするのか。ファン・ハール監督にプレッシャーがのしかかる状況で、可能性がある5つの行動計画)」

では、スランプにあえぐマンチェスター・ユナイテッドの未来について、監督解任・続投のジャッジとその時期を5つのケースに整理し、メリット・デメリットをわかりやすく解説しています。タブロイドの大衆紙は、飛ばし記事やゴシップで読者を惹きつけようとする一方で、目の肥えた現地のファンをうならせるような記事も数多く掲載しており、さすがはサッカーの母国のメディアだと納得させられることも多いのです。

ガセネタとスクープは紙一重!?

もしかすると、メディアが流すゴシップに嘘が多いのではなく、移籍交渉自体がぎりぎりまでどうなるかわからない、エキサイティングなものなのかもしれません。

1月、「デイリー・メール」が、トッテナムのポチェッティーノ監督が語ったこんな言葉を掲載していました。

「サッカー界で、どれだけ多くの選手がクラブとの契約に近づいているか、あなたは知ってるのかな? 以前、おそらく多くのクラブがデル・アリとの契約に近づいた。しかし、彼は今ここ(=トッテナム)にいる。 私がエスパニョールにいた時、リオネル・メッシとの契約に近づいたんだ。信じられないかもしれないが本当の話だ。もう少しだった。サッカーには常に、『もし〇〇なら××が成立していた』という話が起こっているんだ」。

夏からウェストハムやエヴァートン、トッテナムへの移籍が囁かれていた本田圭佑。複数メディアが「移籍に近づいている」と報道

夏からウェストハムやエヴァートン、トッテナムへの移籍が囁かれていた本田圭佑。複数メディアが「移籍に近づいている」と報道

昨年7月には、アストン・ヴィラの公式サイトで残留を表明したファビアン・デルフが6日後にマンチェスター・シティへの移籍を発表。10月に「スカイスポーツ」のインタビューで、QPRに残ってクラブをプレミアリーグに昇格させると語っていたチャーリー・オースティンは、急転直下で1月にサウサンプトンに移籍しました。

何が起こるかわからないプロサッカーの世界で、「結果的にはガセネタ」が増えてしまうのは、メディアが売らんかなの記事を書いているからだけでなく、実際に日々状況が変わっているという面もあるのでしょう。

「正しい情報しか要らない」という人には「BBC」などの移籍決定コーナーだけを読むことをおすすめしますが、ゴシップ大好きなイギリス文化や移籍ニュースの裏読みなどを愉しみたいという人は、現地メディアのさまざまな記事に直接触れてみてはいかがでしょうか。

「日本代表の本田圭佑が、ウェストハムに移籍か!?」というネタをいちばん熱心に煽っていたのは「ザ・サン」ですが、今となってはガセネタに見えるこの情報も、本田圭佑がACミランで再評価される活躍を見せていなければ、極上のスクープになっていたのかもしれません。

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