ロシアワールドカップ・躍進イングランドの現地記事ウォッチング

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スポーティ

“We finished in the top four, deservedly in this tournament, helped by the draw. But we’re not a top four team yet. And we know that.”
「自分たちはその力にふさわしくトップ4で終わることができたが、多分にドロー(組み合わせ)に助けられた。まだ、世界のトップ4といわれるチームではない。みんなわかってはいるが…」

(メイン写真 Photo by Кирилл Венедиктов)

4強進出は果たしたが、世界のトップ4ではない

冒頭のガレス・サウスゲート監督の言葉に、多くのイングランド人が共感したのではないでしょうか。

フランスが2度めの優勝を遂げたFIFAワールドカップロシア大会は、低迷していたイングランドが28年ぶりに準決勝進出を果たした大会でした。この結果を受けて、サッカーの母国のメディアは、自分たちのチームをどう評価しているのでしょうか。

冒頭の指揮官のコメントを紹介したのは、「インデペンデント」。政治的中立を主張するネット専門のニュースメディアは、ワールドカップ7試合で挙げた12ゴールのうち、9ゴールがCK、FK、PKだったチームについて「セットピースの重要性を証明した」と評価しています。

ただし一方で、「ハイレベルなゲームでは、ミッドフィールドを支配できない」と、チームの課題に言及しています。「ハリー・ケインやラヒム・スターリングは、彼らのクラブでエリクセン、ダヴィド・シルヴァ、デブライネのフィードを受けている。No English midfielder comes close.(イングランドのMFは近づいていない)」と指摘。サウスゲート監督についての総評も「イングランド代表は変えたが、イングランドのサッカーはまだ変えられていない」と、やや辛めです。


負傷もあり、スウェーデン戦のゴールしかハイライトがなかったデル・アリは、次回に期待!(PHOTO by Tomasz Baranowski)

トリッピアーとピックフォードが高評価

「BBC」は、「World Cup 2018: Were England good, lucky, or a bit of both?(イングランドはよかったのか、幸運だったのか、あるいはその両方か)」と題した記事で、代表チームの足跡をデータで検証しました。ワールドカップレコードとなった9本のセットピースからのゴールや、チュニジア、アイスランド、ペルーより少なかった90分あたりの枠内シュート数3.5本などの数字を紹介。

ファイナルサード(ピッチを3分割した際の、相手ゴール側の1/3のエリア)におけるパス本数74本(32チーム中17位)、オープンプレーからのクロス8本(同24位)といったデータから、「敵陣でインパクトを与えるのに苦労した」と分析しています。

こちらも、中盤の創造性の欠如を弱点として挙げ、「リンガードやデル・アリのエネルギーやランニングパワーが、攻撃において期待通りの効果があったかは疑問」としています。誰も期待していなかったトップ4進出を称賛し、「BBCの評論家全員が、未来は明るいと考えている」としながらも、内容についてはもの足りないというのが本音のようです。

「BBC」のチーフフットボールライター、フィル・マクナルティ氏の採点では、FKやクロスが素晴らしかったキーラン・トリッピアーとビッグセーブ連発のGKジョーダン・ピックフォードが9.0で最高ポイント。パナマ戦でCKから2ゴールを叩き込んだジョン・ストーンズが8.5、スウェーデン戦で先制のヘディングシュートを決めたハリー・マグワイアが8.0、カイル・ウォーカーは7.0と、後方の選手に高い数字が並んでいます。

前線をみると、7.0がついているのは、得点王のハリー・ケインと、パナマ戦でミドルシュートを右隅に収めたジェス・リンガードのみ。デル・アリとスターリングは5.0、エリック・ダイアーとダニー・ウェルベックは4.0という低い数字が付けられていました。


国じゅうの評価を集めたトリッピアーと、人気急上昇のマグワイアが今大会で最大の発見(PHOTO by Кирилл Венедиктов)

あの「ザ・サン」もわが代表の奮闘に感動!

「イングランドが誇り高く偉大であり、楽観的になれる66の理由」という記事をUPしたのは「テレグラフ」。最も大きな理由として、若い選手の台頭を挙げています。相変わらずなのは「ザ・サン」で、不適切な発言を咎められてイングランド代表監督を67日で解任となった前監督を追いかけ、「サム・アラダイスは、ロンドンのパブでハンバーガーを食べながらイングランドVSパナマを観戦」。

そんなゴシップが大好きな悪名高きタブロイド紙も、セミファイナルを戦ったスリーライオンズには感動したようで、クロアチアに敗れた直後も「私たちは、誰もがこんな素晴らしいチャンスを手に入れられると思っていなかった」「最後のステップに進めなかったことには失望しているが、すごい体験だったし、何も恥じることはない」「人々は、イングランドはチャンスを逃したというかもしれないが、われわれはチャンスをつかんだのだといおう」と、かなり興奮気味でした。


「決勝トーナメントで失速」といわれた得点王ハリー・ケインですが、主将としてチームを牽引したとほめるメディアも(PHOTO by Кирилл Венедиктов)

西野ジャパンと同様に、大会前は低評価だったイングランド代表ですが、勝ち進むにつれて称賛の声が増えていきました。「本田は要らない」と主張していたファンが、同点ゴールを見て「素晴らしかった」などというと、日本では「掌を返した」と非難されたりしますが、イギリスはファンもメディアも常に是々非々。悪い時は叩き、勝つとほめちぎるのは当たり前のことなのです。

結果にこだわる彼らは、まずはトップ4に食い込んだチームを絶賛し、2022年が楽しみと希望を語ります。そのうえで、「優秀なプレーメイカーがいなければステップアップできない」と冷静に分析していました。

われわれも、もっと無邪気に喜んでいいのではないでしょうか。ゴールが決まった瞬間、タイムアップの笛が鳴った直後こそ、フットボールにおける最高のエクスタシー。普段はゴシップな斜に構えた記事が多い「ザ・サン」が、情熱的なレポートを載せているのを見て、違う代表チームを応援していたこちらまで胸が熱くなるのであります。