彼女がマラソンを走ったら。新作映画『Brittany Runs a Marathon』で見る米国ランナー事情

彼女がマラソンを走ったら。新作映画『Brittany Runs a Marathon』で見る米国ランナー事情 WATCH

彼女がマラソンを走ったら。新作映画『Brittany Runs a Marathon』で見る米国ランナー事情

スポーティ

30歳を目前にした太り過ぎの独身女性がニューヨーク・シティ・マラソンを走る。まるで村上龍の小説みたいな話ですが、それよりもずっとマイルドなテイストでありながらも、同じニューヨークを舞台に走るランナーと現代社会を描いたコメディ映画が米国で封切られました。

8月23日にニューヨークとロサンゼルスで公開された『Brittany Runs a Marathon』*¹。

一般公開の前に優れたインディペンデント映画を対象としたサンダンス映画祭に出品され、観客賞(米国ドラマ部門)を受賞した作品です。

*¹:https://www.instagram.com/p/B1eAqdcHDEv/?utm_source=ig_web_button_share_sheet

あらすじ

パーティー好きの主人公ブリタニーは、ある日病院を訪れます。彼女の目論見は、精神的な不安を訴えて、医者からアンフェタミン系の薬品アデラールを処方してもらうことでした。

しかし、そこでブリタニーは、太り過ぎを指摘され、このままダイエットをしないと健康に深刻な問題が生じると警告されます。168センチ、体重90キロに近かったブリタニーは、25キロ痩せなくてはいけないと言う医者の言葉に仰天し、まずは近所をジョギングしてみようとします。

それまで走ることに縁がなかったうえ、不健康な食生活に慣れ親しんでいた彼女は、様々な挫折を味わいます。そんな彼女がランニングを通じて出会った新しい友人たちとニューヨーク・シティ・マラソンを目指すというストーリーです。 

ランとダイエットに励むブリタニーの姿を軸にして、この映画には離婚、親権争い、同性愛カップル、異人種間結婚、育児放棄、セックスレス、処方箋ドラッグ、SNS中毒、アルコール依存といった様々な現代の家族の姿と問題が描かれています。登場人物の人種も多岐に渡ります。 

エピソード

ブリタニーを演じた女優のジリアン・ベルは、撮影中に毎日走り続けて、実際に20キロ近い減量をしたそうです。映画の中でも彼女の体型が劇的に変わっていくのがよくわかります。

脚本と監督を務めたポール・ダウンズ・コライッツォは、元々シナリオライターです。コライッツォ氏にとって、この作品が監督してのデビュー作となりました。

コライッツォ監督は、ブリタニー・オニールさんというかつてのルームメイトをモデルにしてこの作品のストーリーを作りました。映画のエンド・クレジットには、モデルである現実のブリタニーさんが実際にマラソンを走っている写真が紹介されています。

クライマックスとなるレース場面の撮影は、2017年のニューヨーク・シティ・マラソンで行われました。主人公ブリタニーがレース中に苦しむ場面では、撮影が行われていることを知らない多くのランナーや観客が彼女に助けの手を差し伸べてくれたそうです。

コライッツォ監督も主演のジリアン・ベルも、このエピソードこそが撮影中に起きた最も美しい出来事だったと振り返っています。

「あちこちですすり泣く声が聞こえました。素晴らしかった。だけど、どうかフレームから出てくださいと叫びたくもありました」とは監督の言葉です。

ニューヨークのラン事情

映画の舞台となったニューヨークは言わずと知れた大都会です。ジョギングを始めたブリタニーも街中で多くの人をかき分けて走らなくてはいけませんし、さらに多くの好奇の目にさらされます。少なくとも彼女はそう感じてしまいます。アスファルトに囲まれ、車の排気ガスに満ちた環境も、お世辞にもランナーにとって快適とは言えません。

段々と走ることに慣れてきても、都会ならではの誘惑もまた多く、ブリタニーのランもダイエットもなかなか順調には進みません。そうした紆余曲折がドラマになっているわけでもあるのですが。その点、この映画は彼女のランナーとしての成長ぶりよりも、むしろライフスタイルの変化にフォーカスを当てているとも言えるでしょう。

彼女が目標に定めたニューヨーク・シティ・マラソンはエントリーすることがとても難しいレースの1つでもあります。約10倍以上とも言われる東京マラソンほどの倍率ではなくても、一般抽選枠はかなりの狭き門ですし、チャリティー枠で参加するには数十万円の資金が必要になります。

ブリタニーが、どのようにして参加権を得るかは映画の主要ストーリーにもなっていますので、ここでは触れません。ただ、走りたいと思っただけでは走ることができないレースなのだよということを知っておくと、この映画の背景がよく理解できると思います。

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日本での公開は?

現在のところ、この映画はスパイダーマンやスターウォーズのようなメジャー作品を上映する映画館ではなく、米国内の各都市で限られた数の映画館のみで公開されています。

日本語のタイトルも未定です。ですが、この映画を配給する権利をアマゾン・スタジオが買い上げていますので、同社のネットサービスに登場するのは、それほど遠いことにはならないと思われます。

鍛え上げられたアスリートではない一般人がマラソンを走ろうと決めたとき、ランナー1人1人にはそれぞれの背景とドラマがあります。そのことは男女を問わず、あらゆる世代のランナーに共通しています。この映画はそんな世界中の市民ランナーからの共感を得るでしょう。

マラソン人口の多い日本でも大いにヒットする可能性があると思います。ひょっとしたら、アメリカ以上に受けるのではないか、とさえ思います。


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