高校生ランナー達の合宿に参加。1週間の高地トレは市民ランナーに効果があるか?

高校生ランナー達の合宿に参加。1週間の高地トレは市民ランナーに効果があるか? DO

高校生ランナー達の合宿に参加。1週間の高地トレは市民ランナーに効果があるか?

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数多くの有名なマラソン選手が行っている「高地トレーニング」を耳にしたことがある人は多いと思います。高橋尚子選手が、シドニーオリンピック前に、コロラド州ボルダーで長期間トレーニングを積んだことは有名ですし、ケニアやエチオピアの選手が、あれほどマラソンに強いのは、彼らが元々高地に住んでいるからだと言う説もあります。

高地では酸素が薄い> 血中の酸素濃度が低下する> 体は環境に適応して、体内で赤血球数やヘモグロビン濃度を増加させる。
簡単に言えば、この理屈で心肺能力が飛躍的に向上するということになっています。

それでは市民ランナーも高地トレーニングさえすれば、マラソンの自己記録を更新できるのではと思うのは、自然な流れなのですが、ことはそれほど簡単な話ではありません。

NSCA (全米ストレングス&コンディショニング協会)の研究によると、高地トレーニングの効果を出すには、2100~2500メートル地点で最低3週間以上のトレーニングを積むことが望ましいとされています。3週間以上の長期休暇をとって、高地まで出向いてトレーニングが出来る市民ランナーがどれだけいるでしょうか?人にもよりますが、普通は1週間程度が限度ではないでしょうか。

幸いなことに、私はこの夏、ある強豪高校クロスカントリー部の夏合宿に参加する機会に恵まれました。毎夏恒例のこの合宿はカリフォルニア州北部の山地リゾートMammoth Lakesで7日間に渡って行われます。海抜2400メートル地点(富士山6合目ぐらいの高さ)にベースキャンプを構え、毎朝12~20キロのラン、午後は山歩きという毎日です。

私は51歳。フルマラソンのベストは3時間30分のごくごく平均的な市民ランナーです。その中年市民ランナーが現役高校生ランナーに混じって、1週間の高地トレーニングをすれば、果たして効果はあるのか? その前にそもそも練習についていくことは出来るのか? 

私が実際に体験した高地トレーニング合宿の様子とその結果をご紹介します。

テントで雑魚寝。練習は1日2回、食事も1日2回。


合宿中の7日間はずっとテント生活で、食事は全て自炊です。朝走った後に、朝食兼昼食を食べ、午後の練習の後に夕食を食べます。選手達は、1テントごとに6~7名のグループに分かれて、全て自分達で食事の用意をします。トレーニング内容は日によって異なるわけですが、基本的には、下の時間表に沿って、毎日が繰り返されます。

6:30~7:00 起床、準備
7:00~10:00 RUN(メイン練習)
10:00 ~13:00 食事、休憩
13:00 ~ 17:00 ハイキング、または自由時間
17:00 ~ 19:30 食事、休憩
19:30 ~ 21:00 ミーティング
21:30 ~ 就寝

この合宿には、男子24名、女子6名のランナーが参加しています。誰でも来れるわけではなく、100名以上の部員の中から、練習についてこれるだろうとコーチが判断した選手だけが選ばれています。つまり、私から見れば、皆が皆、とても速いランナーです。同時によ~いどんで走り始めても、私はすぐに最後尾になってしまい、どんどん離されていきます。

低地と同じ距離を走っても、高地での疲労度ははるかに大きくなります。コーチのアドバイスは、合宿中は、1日4000カロリー、普通の倍ぐらい食べろとのことです。とは言え、1日2回の食事でそれだけのカロリーを摂れているかどうかは疑問です。ましてや料理などしたこともない高校生たちですので、栄養バランスなどを考えることも出来ません。缶詰やパスタなどでとりあえずはお腹を満たしているようです。

私も普段と同じかそれ以上の量は食べていましたが、きちんとした料理は無理と言うか、始めからあきらめて、缶詰、プロテインバー、ナッツ、それとバナナ、リンゴなどの果物をのべつなしに口に入れていました。

7日間の走行距離は約80キロ。距離より過酷な内容

1日目
朝6時に学校を出発し、キャンプ地に着いたのが午後1時。それからテントを設営して、早くも午後4時には、1回目のランが行われました。約10キロのコースです。まずは、高地の薄い空気に慣れることが目的だから、ペースは気にせずにゆっくり走れというコーチの指示がありました。

言われた通り、普段のジョグより遅いぐらいのペースで、走り始めたのですが、それでも呼吸がとても苦しいです。あくまで感覚的に言えば、普段の1.5倍増しで苦しいと感じました。この日の約10キロ走、私は1時間15分ほどかかりました。ゴールした時は、既に選手達のほとんどがクールダウンまで終えたところでした。それでも何人かに聞けば、普段とは比べ物にならないほど苦しかったよということでした。

2日目
近くで起きている山火事のために、空気が悪いので、予定されていた朝のランは中止。その代わりに、2時間ほど山道を歩きました。午後になり、風向きが変わって、付近の空気が良くなると、もともと予定されていた12キロのトレイルランが行われました。コース内にいくつか激しいアップダウンがあります。

昨日より、少し呼吸が楽になった気もしますが、それでもペースを少しでも上げると、途端に苦しくなります。感覚的には脚が重くなるのも普段より早いようです。

3日目
この日の朝ランは、林道を12キロ。途中で2キロほどだらだらと続く坂道を上下します。徐々に高地に慣れてきたのでしょうか、呼吸のきつさは少し減ってきた気がします。その分、脚の筋肉疲労が溜まってきたようです。

前夜、就寝中に左ハムストリングスが攣りました。テント内で転げまわって耐えるしかなかったわけですが、なんとか朝には、走ることが出来るようにまでは回復していました。午後は湖まで往復2時間程度のハイキング。湖では高い岩から飛び降りたりして楽しみました。

4日目
この日のランも約12キロ。最初の7キロほどはさほど高低差がない景色のよいトレイルでしたが、最後の5キロがだらだらと続く上り坂。今までで一番きついコースでした。疲れ切ったのは私だけではなかったようで、若い選手達もさすがに堪えたようです。コーチの判断で午後のハイキングは中止になり、皆キャンプ場でゴロゴロして、体力回復に努めました。

5日目
この日のランは、3キロ走を4回のリピート走でした。選手を走力レベルによって、2つのグループに分け、グループごとに一斉にスタート。1回目が終わると、そのグループのトップランナーがゴールしてからきっちり5分後に2回目がスタート。それを4回繰り返すやり方です。つまり、グループ内で1番速くゴールしたランナーは5分休めますが、遅ければ遅いほど休む時間が短くなります。

私は勿論、遅い方のグループで走りましたが、それでも最後のインターバルは1分ぐらいしか休憩時間がありませんでした。前日までとは違い、ペースを上げざるを得ないのですが、呼吸の苦しさはかって経験したことがないほどでした。

心拍数が上がって酸素が必要なのに、その酸素が薄いのですから、苦しいのは当然と言えば当然なのですが。午後は滝がある場所まで往復2時間ほどのハイキング。滝つぼは非常に冷たい水で、ここで子供のようにはしゃいで遊んでいるうちに、アイシング効果で随分体が楽になった気がしました。

6日目
この日は合宿のハイライト、最長の20キロ走。たった20キロで最長?と思うかもしれませんが、コース途中に2か所、山頂まで登る山道があります。

山道の傾斜がきつい部分では少し歩きましたが、何とか2時間半ほどで完走できました。もちろんフラフラです。ただ、薄い空気には大分慣れてきたようです。ゆっくり走っている分には、呼吸は普段と同じように感じます。6日目にして、ようやく高地に適応してきたようです。それでも私がへばってしまったのは、ただ単にこの日のコースの高低差が私の脚にはきつかったというだけです。

この日の午後も予定されていたハイキングは中止になりました。選手達の疲労度もかなりのものだったようです。

7日目
合宿最終日、最後のメニューは2マイル(3.2キロ)のレース、それだけでした。ある湖の外周、ほぼ平坦なコースです。40分ほど入念にウォームアップを行い、その後でよ~いどんで全員が一斉にスタートしました。

コーチによれば、この高地でのタイムは平均して1マイル30秒ぐらい普段より遅くなるとのこと。実際、少しでもペースを上げるだけで、とても息苦しくなります。もちろん連日の走り込みのせいで脚も重く、私は実感としてフルマラソンのペースでも走れませんでした。

結局、私は17分ほどでゴール。トップ男子は10分30秒ぐらいとのことでした。

高地トレーニング、その効果は?

こうして7日間の高地トレーニングをなんとか終了することが出来ました。その効果を確かめるために、私は合宿期間の3日前と3日後に3マイル(4.8キロ)のタイムを測ってみました。3マイルは高校クロスカントリー競技の正式レース距離です。出来るだけ同じ条件で比較するために、同じコースを同じ時刻に走りました。結果は以下の通りです。

合宿前のタイム:21分25秒
合宿後のタイム:19分48秒

やはり、高地トレーニングの効果はあったようです。自己記録を更新しましたし、走っている間もかってないほど楽に感じました。もっとも、タイム向上の理由は、低酸素適応による心肺能力の向上なのか、走り込みによる筋力強化のためなのか、はっきりと区別することは出来ません。合宿から帰ってくると2キロほど痩せていましたので、そのせいかもしれません。

さらに言えば、高地トレーニングの心肺能力への効果は、下山後数日から1週間でピークに達し、その後は元に戻ってしまうそうです。心肺能力への効果を正確に判断するには、VO2Max(最大酸素摂取量)を測定するなどの科学的な検証方法もあるでしょうが、市民ランナーには無理な話ですし、それをする必要性も私にはあまり感じられません。

実感としては、僅か1週間の高地トレーニングで、かなり速く長く走れるようになりましたし、私としてはそれで充分です。

 


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