新しい都市型ランニングイベント:階段垂直マラソンとは

新しい都市型ランニングイベント:階段垂直マラソンとは DO

新しい都市型ランニングイベント:階段垂直マラソンとは

スポーティ

2023年2月26日、ロサンゼルス・メモリアル・コロシアムで「Fight For Air Climb」という名のイベントが行われました。

最大収容人数77,500人の巨大なスタジアムの階段をフィールドレベルから最後列まで登り、またフィールドレベルまで降りる。それを横に少しずつ移動しながら何回も繰り返す、というものです。

なんてきつくて、そしてつまらなそうだなあ、と思うかもしれませんが、メモリアル・コロシアムは1932年と1984年のロサンゼルス・オリンピックで2回ともメイン会場になり、2028年には3回目のオリンピック開会式が開催されることが決まっている、アメリカでも屈指の歴史的建造物でもあるのです。

現在は大学アメフトの名門、南カリフォルニア大学(USC)の本拠地であるばかりでなく、コンサートやカーレースまで様々なイベントが行われています。空っぽのスタジアムに入ることのできる、滅多にない機会でした。

イベントの主催団体は「American Lung Association」。
肺がんなどの病気の予防と教育を目的とした民間ボランティア組織で、このイベントの収益金はすべてその活動に寄付されるとのことでした。


イベントには地元消防隊員たちもフル装備で参加した

東京タワー展望台を2往復分の階段数

主催者側の発表によると、コース全体の階段数は約2500段です。登り降りを含めた数字なので、その半分でも約1250段の登りということになります。

東京タワーの展望台までの階段は約600段、香川県金毘羅神社の階段は785段だということですので、このコース設定のきつさが想像できるでしょうか。

もっとも、レースと言っても、私自身はタイムを気にするレベルのランナーではありませんので、登りは走るのがきつくなると何回も歩きました。

降りるときも高いところではゆっくりと手すりに掴まって歩きました。これは肉体的にきついからというよりも、高所恐怖症のためでもあるのですが。

高さと傾斜から下りは恐怖心が先に立った

階段を走ることのメリット

映画『ロッキー』で主人公がフィラデルフィア美術館前の階段を駆け登ったように、階段を走ることにはずっと以前からモチベーションを上げるイメージがあります。

精神的な効果に加えて、ゆっくりでも階段を走ると、お尻、太もも、ふくらはぎなど、下半身全体の筋肉を満遍なく鍛えることができます。

私がレースで着用していたApple Watchのデータによると、移動距離は1.57キロ、タイムは29分17秒、累積獲得標高191メートルとのこと。平地で同じ程度の距離や時間をジョギングするときと比べると、やはり脚とお尻の筋肉痛はレベルが違いました。

さらに興味深かったのは心拍数の変動です。階段を登ると心拍数は上がり、降りるときには心拍数も下がります。それを繰り返すので、心拍数グラフがインターバル・トレーニングを行ったときとそっくりの形になっていました。つまり、階段を登り降りすることは心肺能力の向上に効果があるということです。


iPhoneに残されたApple Watchデータのスクリーンショット

階段登りの効果を数量的に証明した研究(*1)があります。それまでに運動歴があまりなかった15人の若い女性(平均年齢18歳)が、約200段の階段を約2分かけて登るエクササイズを週5回、8週間行ったところ、VO2maxの値が平均して17%も向上したということです。

*¹:Training effects of short bouts of stair climbing on cardiorespiratory fitness, blood lipids, and homocysteine in sedentary young women.
https://bjsm.bmj.com/content/39/9/590

日本国内で行われている垂直階段マラソンシリーズ

今回私が挑戦したのはスタジアムですが、高層ビルやタワーなどをコースにして階段を登るレースのことを”Vertical Running”、日本では「階段垂直マラソン」と呼ばれ、比較的新しいタイプの都市型ランニングイベントとして徐々に人気と知名度が上がってきています。

天候に左右されないことと、交通規制が不要というのは、開催側にとっては大きなメリットではないでしょうか。

日本でもいくつかのレースが行われています。
そのうちのひとつ、「YOKOMORI VERTICALRUNNING JAPAN CIRCUIT」のウェブサイトによると、名古屋テレビ塔(415段、90メートル)、東京スカイツリー(2552段、450メートル)、そして大坂あべのハルカス(1610段、288メートル)でシリーズ戦を行っているそうです。興味のある方は参加を検討してみては如何でしょうか。

日常生活のなかでできる階段トレーニング

そしてもちろん、レースに参加しなくても階段トレーニングはできます。とくに都会に住んでいれば、階段はどこにでもあるからです。

電車で通学や通勤をしている人は、駅でエスカレーターを使わずに階段を使うだけで、1日に最低2回のトレーニング機会を確保できます。自宅や職場がビルの高い階にあるなら、さらに選択肢は広がります。もし段数が物足りなければ、私がそうしたように何回も往復すれよいのです。

かのブルース・リーの著書『Tao of Jeet Kun Do』に、

「なるべく歩くようにしなさい。たとえば、目的地から数ブロック離れた場所に駐車するように。エレベーターを使わずに、階段を上りなさい」


という意味の名言(筆者訳)があります。

たとえトレーニングのための時間を割くことができないときでも、日常生活の中で心と身体を整える大切さをブルース・リーは私たちに説いていたのではないでしょうか。さあ、明日と言わず、今日から階段を歩くことを始めてみませんか。


筆者がよくトレーニングに使う約120段の通称『高橋階段』。亡くなった空手の師匠の名前から命名。

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