【ブエルタ・エスパーニャ2019】スペインを代表する激坂を制したのは誰?アストゥリアス・ステージ・レポート
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ブエルタ・エスパーニャの第2週目を締めくくったのが、スペイン北部のアストゥリアス地方。ここもバスク地方と同様に、熱心な自転車ファンが集まる土地です。今年はこの地方にある数々の有名な登りが、総合争いに大きな影響を与えました。アストゥリアス地方でのステージの様子をレポートします。
TOP写真:第16ステージのアルト・デ・ラ・クビーリャに向かう選手たち。Photo by Yukari TSUSHIMA.
オビエドから始まるアストゥリアス・ステージ
第14ステージを優勝したサム・ベネット選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.
アストゥリアス・ステージは、第14ステージのオビエドでのゴールから始まりました。この日は、数少ないスプリンターのためのステージで、ゴール地点が設置されたのは、オビエドの旧市街。ラスト1㎞から登りがあり、道幅も一気に狭くなります。
加えてこの日のステージは、カンタブリア海を右手に見ながら、海沿いを走るコース設定でした。常に海からの風を受けているため、意外と選手たちは体力を消耗します。
この日は、このラスト1㎞地点で大きな落車が発生しました。メイン集団の中央部分で起きたため、アレハンドロ・バルベルデ(Alejandro Valverde/Movistar)選手をはじめとする有力選手もこのに巻き込まれました。
その落車の影響を受けずに、この日のスプリントを制したのは、アイルランド人スプリンターのサム・ベネット(Sam Bennett/Bora Hansgrohe)選手。第2ステージに続いて区間優勝を手にしました。
スプリンターの1人であるフェルナンド・ガビリア(Fernando Gaviria/ UAE Team Emirates)選手は、残念ながらこの日も勝利はならず。初日のチーム・タイムトライアルでの落車による怪我は良くなっていますが、調子がいまいち上がらないままレースを重ねている様子でした。
フエルナンド・ガビリア選手(写真左)。Photo by Yukari TSUSHIMA.
一方、今年のブエルタのスプリントのステージで、確実に勝ち星を重ねるベネット選手。彼の最大の敵は、スペインの登りかもしれません。
ブエルタ・エスパーニャ初登場のアルト・デ・アセボ
地元アストゥリアス出身のダニエル・ナバロ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.
この日から、アストゥリアスの山々が、ブエルタの舞台となりました。この日は、アストゥリアスの有名な登りのひとつであるアルト・デ・アセボ(Alto de Acebo)がゴール地点です。
この登りは、今年がブエルタ初登場。9.4kmの距離で800m弱を登るこのコースの平均斜度は8%という難関。しかし、毎年開催されるブエルタ・アストゥリアスでは、必ずコースに入っており、スペインではおなじみの登りです。
スタート地点となったティネオ(Tineo)は、前日のゴール地点のオビエドからバスで1時間半ほどの距離にある山間の村。いつもは静かなこの村に、3000人近い選手やチームスタッフ、そしてブエルタの関係者が集まります。
そんなティネオで一番最初に出走前サイン台に立ったのは、エステバン・チャベス (Esteban Chaves / Mitchelton Scott) 選手。ブエルタの中盤戦が過ぎても、いいつもの笑顔で観客の前に姿を現しました。
エステバン・チャベス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.
この日の天候は朝から曇り模様。しかし、“今日は雨は降りません”と力強く言い切ったのは、地元アストゥリアス地方出身のダニエル・ナバロ(Daniel Navarro/ Katusha-Alpecin)選手。彼が姿を見せると、観客の声援がひときわ大きくなります。
そうした雰囲気のなか、若干の緊張感を持ってサイン台に現れたのが、ブルゴスBHのサイクリストたち。特に山岳賞ジャージを維持したいアンヘル・マドラソ(Angel Madrazo/ Burgos BH)選手には、このアストゥリアスでの2ステージは非常に重要なレースになります。
もちろん、マドラソ選手をはじめとするこのチームの選手はみな、アルト・デ・アセボの登りを経験済みです。その経験フル活用して、この山岳賞ジャージをキープしたいところでしょう。
アンヘル・マドラソ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.
この日のスタート地点は、出走前サイン台から200mほど坂を上った丘の上に設置されました。スタート前に早速、アストゥリアスの登りの洗礼にあった選手たち。そして「アルト・デ・アセボが怖いなぁ」と、思わずもれた選手たちの本音に、観客席から笑い声が聞かれました。
結局、その恐怖のアルト・デ・アセボを制したのは、アメリカ人のセプ・クス(Sepp Kuss/Jumbo-Visma)選手。道幅の狭いゴール前で、観客たちとハイタッチをしながらのゴールとなりました。
クス選手(左)。写真は翌日の16ステージのスタート前のもの。Photo by Yukari TSUSHIMA.
翌日のスタート前に、この観客とのハイタッチについて質問されたクス選手はこのように応えました。
同じ自転車競技でも、マウンテン・バイクのレースでは観客にタッチしながらゴールするのは普通のことなんだけど、確かにロードレースでは珍しいかも知れないね。でも、僕、ロードレースのファンって本当にすごいと思うんです。だって、選手を応援するために、何時間も前からコースで待ってくれるし、きつい登りでは選手の背中を押してくれる人だってたくさんいるし。そんなロードレースのファンに、昨日は感謝の気持ちを伝えたかったんです。
いつも明るいクス選手の人柄を垣間見ることができた、ゴールシーンと翌日のインタビューとなりました。
今年のブエルタの最高地点のアルト・デ・ラ・クビーリャ
サイン台でのルイス・アンヘル・マテ選手(右)。Photo by Yukari TSUSHIMA.
2回目の休養日の前日となった第16ステージ。この日の主役は、今年のブエル他の最高到達地点となるアルト・デ・ラ・クビーリャの登りゴールです。ゴール前30km地点から続く上り坂が、選手たちを待ち構えます。加えてこの日は、このアルト・デ・ラ・クビーリャの前に、2箇所の1級山岳を登るハードなステージです。
スタート地点は、プラビア(Pravia)という町。ちょうどこの日が、アストゥリアス地方の祝日だったこともあり、たくさんの観客がスタート地点に詰め掛けます。
この日のレース距離は、166km。距離が短いため、序盤から選手たちが飛び出し、20人ほどの先頭集団が形成されます。しかし、アルト・デ・ラ・クビーリャの目の前にして、逃げ続けていたこの先頭集団も崩壊し始めます。
まず、ゴールまで約40km地点で、ジェームス・ノックス(James Knox/Deceunink Quick Step)選手が飛び出しました。
ノックス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.
その後、4人の追走集団が形成されます。その追走集団のあと、ヤコブ・フルグサン(JakobFuglsang/Astana)を含めた選手たちが第2追走集団を形成します。
第2追走集団。先頭はヤコブ・フルサン選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.
メイン集団は、リーダージャージのジュンボ・ビズマがしっかりとコントロール。モービースターがそのあとに続きます。
Photo by Yukari TSUSHIMA.
最終的に、この日のステージを制したのは、先頭集団でレースを進めた、ヤコブ・フルグサン選手でした。今年のブエルタ・アンダルシアで総合優勝を飾った彼ですが、3週間のレースでステージ優勝をしたのは、この日が初めて。この意外な事実に驚く大会関係者も少なくありませんでした。
一方、リーダージャージのログリッジ選手は、2位のアレハンドロ・バルベルデ選手とのタイム差を広げることに成功し、この日のレース終了時点で、約3分のタイム差を手にします。
山岳賞ジャージは、マドラソ選手からジェフリー・ボチャード(Geoffrey Bouchard/AG2 La Mondile)の手に渡りましたが、そのポイント差はわずか6ポイント。マドラソ選手をはじめとするブルゴスBHチームは、ブエルタ最終週に全力で山岳賞ジャージを取り戻す意思があることをを表明しました。
リーダージャージが優勝への布石を確実なものにする一方で、ほかの特別賞ジャージに関わるチームのさまざまな思惑が入り混じった、ブエルタの第2週目となりました。