アスリートの暑さ対策。高温多湿での競技が避けられない場合の準備

アスリートの暑さ対策。高温多湿での競技が避けられない場合の準備 DO

アスリートの暑さ対策。高温多湿での競技が避けられない場合の準備

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もうすぐまた暑い夏がやってきます。一般的には暑い季節の運動は朝や夜の涼しい時間帯に行うことが勧められます。炎天下での運動には熱中症の危険がありますし、大変辛いことなのはあえて言うまでもないでしょう。ところが、どんなに暑い夏でも屋外での競技を避けられないスポーツがいくつかあります。

有名なところでは、高校野球の甲子園大会は、猛暑の時期に連日デーゲームが行われ、トライアスロンやウルトラマラソンなどの耐久系レースは、日照時間が長い時期に行われることが多くあります。そうした競技のアスリートは高温多湿の環境でいかにパフォーマンスを発揮するかの対策が必要になります。 

天候要因はどれだけパフォーマンスに影響するか

フランスの国立スポーツ生物医学的および疫学的研究所(IRMES)が2012年に発表した研究*¹によれば、同じランナーが同じマラソンコースを走ったと仮定して、気温25°Cの状態では、ランナーの平均ペースは気温10°C以下の状態と比べて10%程度落ちると言うことです。

さらにレースの棄権率に目を向けると、もっと顕著な違いが明らかになりました。気温25°Cの状態ではランナー全体の棄権率は気温12°Cのときと比べて約8倍になるそうです。

亜熱帯化しているとも言われる日本の夏は気温25°Cよりはるかに過酷となることを覚悟しなくてはなりません。

■参考文献:*1. Impact of Environmental Parameters on Marathon Running Performance.
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0037407

暑さに順応するための対策とは

それでは暑い日でも自分の競技パフォーマンスを維持するにはどうすればよいのでしょうか? ストレングス&コンディショニングの世界ではそのための課題を”Heat Acclimatization” (順化、または馴化)と呼び、アスリートが暑さに慣れていくための様々な方法論が試行錯誤されています。

まずは誰でも容易に考えつくことでもありますが、暑さに体を順応させるためにもっとも単純で効果的な方法は、あらかじめレースと似た気候の中で練習をすることのようです。

スポーツ学術雑誌『Sports Medicine』では暑さに順応するための対策として以下のガイドライン*²を推奨しています。

•暑い日に競技をする予定があるアスリートは、高温下での運動に順応する必要がある。
•順応するには、1日当たり60分以上の運動が必要とされる。
•順応するには、なるべく本番と似た状況下で運動することが望ましい。
•順応効果は最初の数日から徐々に現れる。最大効果を得るためには、順応に要する期間は1~2週間。

しかし、このガイドラインを実際に実行するのは、かなり困難な作業になります。予定されたレースの予想最高気温が仮に35°Cだとして、それと同じ気温でのトレーニングを1~2週間続けたとしたら、暑さには慣れることができても、その前に体を壊してしまうかもしれません。

■参考文献:*2. Consensus Recommendations on Training and Competing in the Heat.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4473280/

サウナを活用した暑さ対策

そこで、もっと短期間に効率よく高温に体を順応させる方法としてサウナを活用するアスリートがいます。世界的に有名なウルトラマラソン・レースであるウェスタンステイツ100(160キロ)はレース中の気温が35°Cを越えることはめずらしくありません。

この耐久レースで2017年に優勝したキャット・ブラッドレイ選手は、その暑さ対策としてサウナを活用しました。レース前の数週間に渡って毎日サウナに入り、体を高温に慣れさせたそうです。

2015年に『ヨーロッパ応用生理学ジャーナル』に発表された研究*³は、サウナ入浴には暑さに慣れるだけではなく、さらにアスリートの心肺機能を向上させる効果もあることを指摘しています。

この研究では、7人のサイクリストに練習直後に30分間87 °Cのサウナに入ってもらいました。すると、わずか4日後には血漿量が17.8%増加するという顕著な結果が得られました。理論的には、血漿量の増加は心血管の機能を強化し、体内の冷却効果を高めることに繋がります。

■参考文献:*3. Effect of sauna-based heat acclimation on plasma volume and heart rate variability.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25432420

暑さ対策は高地トレーニングに通じる

この高温対策によって起こる心血管の機能強化は高地トレーニングで心肺能力が向上するメカニズムと非常に似ています。

高地では酸素が薄いので血中の酸素濃度が低下する → 体は環境に適応して、体内の赤血球数やヘモグロビン濃度が増加する → 心肺能力が飛躍的に向上する

上記がその高地トレーニングのメカニズムを簡単に説明していますが、高地トレーニングとは効果があることは分かっていても、一般人にはなかなか実行することが困難な方法です。

なぜなら高地トレーニングで効果を出すためには、高度2100~2500メートルの地点で最低3週間以上のトレーニングが必要だということが現在のほぼ定説だからです。この条件を満たすことができる人はさほど多くはないでしょう。

しかし、日本国内で夏を過ごす人ならば、誰でも暑さ対策をしながらトレーニングをすることは可能だと考えることもできます。サウナを利用できる人も多いでしょう。たとえ効果がそれほど大きくなかったとしても、ただ暑くて不快だと思いながらトレーニングをするよりはずっとマシです。

暑い日のトレーニング実践例

筆者が指導する高校クロスカントリーでも暑い日にレースが行われることがあります。シーズンは9~11月なのですが、ここ南カリフォルニアではその時期でもときには40°C前後にまで気温が上がる日が必ず何日かあります。

あまりにも暑すぎると、学区から運動禁止令が出るのですが、そうでないときは練習を行います。もちろん生徒たちは文句を言いますが、「クロスカントリーとは全天候型のスポーツだ。もし今日みたいな日にレースがあったらどうするつもりだ」と言い聞かせています。その上で、暑くなることが分かっている日の練習では以下のようなアドバイスを生徒たちにしています。

•24時間前から水分補給に気をつける
•運動中も小まめに水分補給を行う
•色の薄い、体を締め付けない衣服を着用する(男子はシャツを脱いでもOK)
•体調の変化に注意する(体調に変化を感じたら日陰で休む)
•過度な水分の摂りすぎにも注意する

高校生でなくても、無理なトレーニングは身体を痛めつけてしまいますので逆効果ですし、それどころか健康や生命に危険が生じることもあります。慎重に自分の身体との対話を重ねて、過度なストレスを避けながら、暑さ対策をしていきましょう。

トレーニング 暑さ対策