電動アシスト自転車は「伝統的な」自転車よりヘルシー?
DO電動アシスト自転車は「伝統的な」自転車よりヘルシー?
自転車にモーターがついていて、人がペダルを漕ぐパワーを補助してくれる。いわゆる電動アシスト自転車はすっかり一般的になりました。
従来の、と呼ぶべきか、あるいは伝統的と呼ぶべきか、人力だけに頼ったシンプルな自転車に比べると、電動アシスト自転車での移動はとても楽です。停止した状態からの加速や坂道を登るときなどは、その恩恵をとくに強く感じます。
その一方で、電動アシスト自転車に乗ることをよしとしない、昔気質のサイクリストも存在します。自転車に電気のチカラを借りることを「ズルイ」とか「サボリ」とか「ヘタレ」とかに感じる人たちです。
実は私もかつては秘かにそう考えていました。運動を仕事とする身でありながら、自力でペダルを漕がないのは恥ずかしいのではないかと。
ところが、電動アシスト自転車に乗る人は人力だけの自転車に乗る人よりかえって身体活動量が多くなる。そんな意外な事実をある研究結果(*1)が示唆しています。
*1. Physical activity of electric bicycle users compared to conventional bicycle users and non-cyclists: Insights based on health and transport data from an online survey in seven European cities.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S259019821930017X
スイスのチューリッヒ大学、英国のオックスフォード大学など、ヨーロッパの名だたる大学の研究者たちによるこの共同研究は、アントワープ(ベルギー)、バルセロナ(スペイン)、ロンドン(イギリス)、オレブロ(スウェーデン)、ローマ(イタリア)、ウィーン(オーストリア)、チューリッヒ(スイス)の7都市に在住する、述べ10,000人以上のデータを解析したものです。
自転車大国オランダの首都アムステルダム。
電動アシスト自転車に乗る人は、人力だけの自転車に乗る人よりサイクリングごとの平均走行距離が長くなり、かつ自転車で出かける回数が増えるのだそうです。さらに興味深いことに、まったく自転車に乗らない人と比べても、電動アシスト自転車乗りと人力の自転車乗りとの間では身体活動量の増加量はほぼ同じ程度だということです。
電動アシスト自転車の心理的原因と効果
電動によるアシスト(補助)があることで、自転車で移動する時間と距離がより長くなる。億劫さが減るので、結果として自転車に乗る機会が増える。そういった理由が考えられます。
ある限られた時間ごとの身体活動量で比較すれば、間違いなく人力で自転車を漕ぐ方が多いでしょう。しかし、電動アシスト自転車のそれもゼロになるわけではありません。より長く、より頻繁に繰り返すと、合計の量では逆転してしまうこともあるらしいのです。
筋トレに例えると、重いモノを少数回だけ挙げるより、軽いモノを数多く挙げる方が、結果としてより多くの負荷を筋肉に与えられることに似ています。
塵も積もれば山となる、というわけですが、それを後押ししているのは「電動アシストがあるから」という心理的な安心感ではないでしょうか。
千葉県印西市内のシェアサイクル乗り場。
自転車に乗ることそのものを目的としたサイクリングは無論のこと、通勤や通学あるいは買い物といった日常的な移動手段を自転車に置き換えることは心身双方に大きなメリットがあります。
米国マイアミ大学の科学者による研究(*2)では、通勤程度の走行距離を3マイル(約4.8㎞)とし、それを電動アシスト自転車か人力のみの自転車で走行した場合の心肺機能における効果を比較しました。
*2. Metabolic and Cardiovascular Responses to a Simulated Commute on an E-Bike.
https://journals.lww.com/acsm-tj/Fulltext/2021/04150/Metabolic_and_Cardiovascular_Responses_to_a.5.aspx
心拍数やVO2Maxといった指標は、人力だけの自転車の方により大きな向上が見られたものの、電動アシスト自転車も「穏やかな強度」の有酸素運動に等しい効果があると評価しています。
論文著者らは次のように述べています。
「実験に参加したほとんどの人が電動アシスト自転車に乗ることに対して肯定的でした。通勤に電動アシスト自転車を利用することが「より簡単」で「楽しい」といったコメントが多くありました」
米国カリフォルニア州アーバイン市で車道を自転車に終日開放したイベント「CicloIrvine」。
電動アシスト自転車で旅に出よう
さらに、私は電動アシスト自転車が新たな旅のツールとしても大いに評価されるべきだと考えています。
日本で地方都市を旅行すると、大抵は鉄道の駅舎に観光案内所があり、そこでレンタサイクルが用意されています。私自身もよく利用します。そこで電動アシスト自転車を選ぶことが多くなりました。以前なら諦めていただろう長距離や標高差があるルートでも躊躇することなくサイクリングができるからです。
一例を挙げます。サイクリスト憧れのコース「しまなみ海道サイクリングロード」です。広島県尾道市から愛媛県今治市まで島伝いに結ぶ約70㎞は、自分の脚力だけに頼って1日で走破するのはかなり勇気と根性が求められるルートです。少なくとも私にとってはそうです。そんな私でも楽しく旅をできたのは、レンタサイクルに電動アシスト自転車という選択肢があったおかげです。
しまなみ海道サイクリングロード。
自転車は車よりのんびりできます。電車やバスより自由で、歩くよりは行動範囲が広がります。この利点は電動アシストがあってもなくても同じです。
自転車に乗ることは手段であり、あくまで旅そのものを目的とする場合、ヘトヘトに疲れるよりは、スイスイと移動できる方がはるかに嬉しいことは言うまでもありません。そんなニーズにばっちりと応えてくれるのが電動アシスト自転車なのではないでしょうか。
ガチガチのサイクリストなら異なる感想を抱くかもしれませんが、そうではない多くの人におススメしたい旅のスタイルです。