季節ごとに部活が変わる? アメリカで働くトレーナーの見た高校生スポーツ事情

季節ごとに部活が変わる? アメリカで働くトレーナーの見た高校生スポーツ事情
スポーツ大国アメリカ。学生スポーツに対する意識も高く、高校生の“部活”であってもところどころでプロスポーツと同じようなサポート体制が取られています。
カリフォルニア州エルセグンド市の高校で、アスレチックトレーナーとして勤めている阿部静さん。トレーナーとしての国家資格(Certified Athletic Trainer)を持ち、日々高校スポーツの現場で活躍している阿部さんに、アメリカの高校におけるクラブ活動について語っていただきました。
ーーそもそもアスレチックトレーナーとはどんな職業ですか。
スポーツの現場で選手がケガをしたときの容態チェック、処置、復帰までのリハビリトレーニング、ケガ予防の対策、健康管理などを行うトレーナーです。
アメリカは学校単位で専属のアスレチックトレーナーが勤めていることが多く、私も高校に勤務しています。その他プロチームで活躍する選手や、プライベートで専属的に契約している一般の方も対象です。
ーーアメリカと日本。高校のスポーツ事情に違いはありますか。
アメリカの場合はクラブ活動に入るとPE(physical education/保健・体育)の単位が得られます。ですので単位目当てで入っている人も多く、この学校では約6割の生徒がスポーツクラブに所属しています。
アメリカでは日本のように在学中ひとつのスポーツに取り組むのではなく、季節ごとに所属できるスポーツクラブが変わります。冬のシーズンはバスケットやサッカー、秋はアメリカンフットボールやクロスカントリー、春は陸上や野球などが行われています。
1年を通して取り組むことも良いのですが、若い人はストイックにすればするほど燃え尽きてしまう人も。季節ごとにクラブ活動を変えることは、楽しくスポーツができる良いシステムだと思います。
ーートレーニング内容の違いはありますか。
アメリカは筋肉トレーニングや走り込みなど基礎トレーニングが多い! 私自身の経験ですが例えば水泳の場合、日本でのトレーニングは水中でのトレーニングが中心でしたが、アメリカでは陸トレが多くてびっくりしました。
「見た目がかっこよくないと自分のプレーもよくならない!」と考える人も多く、高校生であっても筋トレの知識が豊富なのも特徴的です。
ーーアメリカのクラブ活動で驚いたことは?
私語が多いことですね(笑)。日本にいるときは話をせず黙々と練習するのが当たり前と思っていましたが、アメリカではあちらこちらで笑い声が。もちろん試合前は比較的まじめにしていますが、文化の違いを感じます。
また高校生であっても、“自分の見せ方”や“アピールの方法”をよく知っています。例えば日本では、自分の記録を過少評価して人に話すことが多い。しかしアメリカではベストスコアより良いものを人に話し、自分を大きく見せます。そうすることで上のレベルの人と競え、結果的に自分の記録が伸びることに繋がっています。日本的な“謙虚さ”はありません。
ーー高校生を取り巻くスポーツ環境の違いはありますか。
日本では学校単位でアスレチックトレーナーが勤めているところは少ないかと思います。数年前、ある日本の高校野球チームの方と話をしましたが「チーム的に必要性は感じる。しかし学校全体で雇うという認識はまだなく、予算的にも難しい」と言っていました。
スポーツは危険と隣合わせです。特に激しいスポーツの現場では、医療知識がない人の判断はリスクがあります。アメリカのフットボールの試合では、ルールにより必ず救急車かメディカルドクターが控えていないと試合が始まりません。そういう意味ではスポーツへの安全意識が高く、サポートされている国だと感じます。
日本とアメリカ、同じスポーツを愛する高校生でもその活動を取り巻く環境は違うようです。2020年に東京五輪を控える日本。将来のメダリストへの関心が高まる中、高校のクラブ活動における安全やシステムへの取り組みも重要な課題だと感じました。