コロラドロッキー山脈を6日間で120キロ走るTransrockies Run 2021挑戦記

コロラドロッキー山脈を6日間で120キロ走るTransrockies Run 2021挑戦記 DO

コロラドロッキー山脈を6日間で120キロ走るTransrockies Run 2021挑戦記

スポーティ

8月2~7日にコロラド州で行われたTransrockies Run 2021と呼ばれるレースに参加してきました。コロラドロッキー山脈を、テントで寝泊まりしながら、6日間かけて約200キロを走るレースです。

フルマラソン5回分に近い距離ですが、それを一気に走るわけではないので、厳密にはウルトラマラソンとは呼べないかもしれません。毎日違うコースを指定され、1日に走る距離は平均して約32キロです。

難関はむしろ距離よりも標高にあります。コースの殆どが標高3,000メートル以上の高地で行われ、そのなかには富士山より高い山に登る日もあるのです。

過酷と言えば過酷、物好きと言えば物好きな、この山岳レースは米国内だけではなく、世界中のトレイルランナーに人気があります。

>>レース公式サイト:https://www.transrockies-run.com/ 

新型コロナウイルスの影響は未だに続いているが

他の多くの例と同じように、このレースも2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止になりました。2年ぶりの開催となった今回ですが、その影響がすべてなくなったわけではありません。各国の渡航制限が続いているため、米国外からのランナーがほとんど参加できなかったのです。それ以前は日本からの参加者もいたそうなのですが、今年は300人を越える参加者のうち、私が唯一の日本人ランナーでした。

初日のスタート前。勝手に日本を代表することにした。

レースの前日、参加者はワクチン接種済み証明書か3日以内に受けたPCR検査の陰性証明書のどちらかを掲示することが求められました。いくら山中とは言え、6日間同じテント村で大勢が生活をするわけですので、当然と言えば当然です。

しかし、一旦、「入村」してしまった後は、誰もマスクをしない、大声で会話をする、ハグや握手は当たり前、という状況で、はっきり言って感染防止対策はユルユルでした。こんなことで良いのかなあと思わなくもありませんでしたが、幸いなことにクラスター発生という事態は起こりませんでした。私自身もレース翌週に受けたPCR検査の結果は陰性でした。

スタート前。嵐の前の静けさ。

役に立った高地トレーニングの経験

標高3,000メートル以上というと、富士山の8合目くらいから頂上までの高さを上り下りしながら走るということになります。当然ですが、空気は薄く、走るとすぐに息が上がります。低酸素に適応するまでの時間には個人差がありますが、大抵は3~4日ぐらいはかかるらしいです。つまり、6日間のレースだと、適応した頃にはほぼ終わっている、ということになるでしょう。本気で順位を狙うのなら、1週間くらい前に現地入りするべきなのでしょうが、それができる市民ランナーは多くはありません。私もコロラド州に到着したのはレース前日でした。

幸いなことに、私は以前に高校生長距離ランナーの夏合宿に混じって高地トレーニングをした経験がありました。標高2400メートルくらいの場所にベースキャンプを置き、朝にメインの練習をして、午後は山歩きをするという7日間を過ごしたことが2回あるのです。

関連記事:高校生ランナー達の合宿に参加。1週間の高地トレは市民ランナーに効果があるか?

高地では無理は禁物。しかしこれくらいの傾斜なら走っても構わない。

その時に私が体で学んだことは、とにかく高地では普段のペースでは走れない、無理に呼吸しようとすると余計に苦しくなる、という2点です。そのため、今回のレースでは意識してペースを落とし、なるべく心拍数を一定に保つことを心がけました。何よりも、心臓がパクパクする感覚を知っていたことの意味は大きいと思います。苦しくはあっても、パニックになることはありませんでした。

6日間を走り切るカギは走力より回復力

長距離ランナーたちが行う練習方法の1つにセット練習と呼ばれるものがあります。強度の強い練習、例えば30~40キロ走を、2日連続で行うことです。疲れた状態で走ることで耐久力を高めるわけです。私自身もレースの1,2か月前に何回か取り組みました。

前述しましたように、このレースは2日間どころではありません。1日平均30キロ以上の距離を6日間連続で走ります。当然ですが、日を追うごとに疲労は溜まり、筋肉痛も積み重なっていきます。1日だけをどれだけ速く走っても、翌日走れなくなったら、そこでレースは終わってしまいますので、いかにして次の朝までに体力を回復するかはすべてのランナーたちの重大な関心事でした。

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フォームローラーで太ももをほぐす筆者。もちろん、すごく痛い。

アスリートが回復を早めるための方法論は多くあります。今回の私自身に限ると、川や湖の水で足を冷やすことと、フォームローラーで行うセルフマッサージがとても有効でした。どちらも思わずうめき声が出るほど、冷たいか、あるいは痛かったわけですが、おかげで最終日まで足は動きました。

ファット・アダプテーションの効果を実感

レースは毎朝8時にスタートしました。速いランナーは3時間くらいでゴールしますが、私のような市民ランナーは毎回のように5~6時間以上かかりました。険しい山道のアップダウンが連続しますし、登山道のような部分は歩くので、どうしてもそうなります。

トレイルランと言うより登山のような局面も多かった。

それだけ長時間の運動を毎日行うわけですので、当然ですがお腹も空きます。コース上では大体10キロごとにエイドステーションが置かれて、そこでは水分補給の他に、バナナやスイカ、あるいはパンなどの食べ物も置いてありました。それでは不安なのか、エネルギー・ジェルやミックス・ナッツなどを大量に携帯して走るランナーもいました。

栄養補給に関しては、私は事前に心配していたよりはるかに簡単で済みました。エイドステーションでバナナを半分か1本食べるくらいで、ほぼ無補給で走り続けることができたのです。脂肪をエネルギーとして有効に活用する「ファット・アダプテーション」にずっと以前から取り組んでいた効果が出たのだと思っています。

関連記事:糖質ではなく脂肪をエネルギー源として使うファット・アダプテーションとは

大人のためのサマーキャンプ

このレースのキャッチフレーズは”Summer Camp for Big Kids”です。大変にきついレースであることは間違いないのですが、あまり過酷さは前面に出てきません。ランナーは精一杯楽しもうとしていましたし、スタッフは私たちランナーができるだけ快適に過ごせるようにという方向で運営してくれていたように思います。

もちろん、300以上のテントが並べられているわけですから、物理的な制約は多くありました。夜はあちこちから大小さまざまなイビキが聞こえますし、トイレに行くにはヘッドランプが必要です。シャワーはありましたが、あまり水量が多くないうえに、1人5分以内と決められていました。

ある日の夕食。紙皿に食べたいだけ肉と野菜を積み上げる。ビールはタダだ。

それでも朝と夜に出る食事はとても楽しみでした。そこでは全米各地からやってきたランナーたちと楽しく談笑することができました。さらにさらに嬉しいことに、テント村では毎日大きなクーラーボックスにビールが冷えていました。スポンサーのビール会社が大量に提供してくれたのです。

こうして過ごした6日間。最後のゴールが近づいてきたときには、やはりこみ上げてくるものがありました。走りながら、涙がこぼれそうになりました。大声を上げて両手を突き上げた私を皆が祝福してくれました。これだけ嬉しい顔でゴールするランナーも珍しいのか、その私の写真がレース写真ページのトップに使われていたのでした。
>>大会公式サイト:https://mailchi.mp/transrockies/trr_photos

Transrockies Run アメリカ トレーニング