マンチェスター・ユナイテッドは吉本興業?~サッカークラブの収益構造
WATCHマンチェスター・ユナイテッドは吉本興業?~サッカークラブの収益構造
この夏、日本代表のストライカー、岡崎慎司選手がドイツのマインツからプレミアリーグのレスター・シティに移籍しました。レスターが、岡崎獲得のために払った移籍金は700万ポンド(約13億6千万円)といわれています。
これを聞いて、「そんなにするの!?」と思う人もいるでしょう。しかし、プレミアリーグにおいてこの金額は平均よりやや高いぐらいで、上には上がいます。
昨シーズン、レアル・マドリードからマンチェスター・ユナイテッドに入団したディ・マリア選手の移籍金は、5970万ポンド(当時のレートで約101億円)。これが、現在のプレミアリーグ最高額記録です。こんな数字を聞くと、「ひとりの選手にそれだけのお金をかけられるなんて、サッカークラブはどうやって儲けているのだろう」と、興味が湧いてきませんか?
そこで今回は、プレミアリーグのなかでいちばん年間の収入が多いマンチェスター・ユナイテッドが発表している年次レポートをチェックして、サッカークラブの収益構造についてまとめてみました。
チケットなど試合日の収入は全体の1/4のみ!
プレミアリーグのシーズンは、7月から6月までとなっているのですが、2013年7月~2014年6月までのマンチェスター・ユナイテッドの年間売上は、4億3300万ポンド。当時のレートで日本円に直すと、約745億円となります。
数字を聞いてもピンとこないかもしれませんが、日本において比較的知名度が高い企業で同規模の会社を挙げるとすると、「餃子の王将」で有名な王将フードサービスが、2014年3月期の売上が758億円。日本の飲食業界でいえば、全国にひととおりお店がある準大手企業と同じ経営規模となります。
さて、サッカークラブの売上というと、何が思い浮かぶでしょうか。「試合のチケットをファンに売ってお金を得る」という手段を最初にイメージする人が多いと思います。
ところが、「マッチデイ収入」と呼ばれる、試合のチケット代や当日販売するユニフォーム、グッズ等の売上は、年間で約186億円と全体の1/4しかありません。
実はいちばん大きな収入源は、「商業収入」といわれるスポンサーからの広告費なのです。
年間326億円は、全体の約43%。マンチェスター・ユナイテッドにおける2大スポンサーは、2002年からユニフォーム契約を結んでいる年間約66億円のナイキ社と、ユニフォームの胸にシボレーのロゴを入れている年間約86億円のゼネラル・モータース社。この他にも、日本の日清食品、ヤンマー、東芝メディカルシステムズ、万田発酵など25社を超えるオフィシャルスポンサーがあり、スタジアムに広告看板を出したり、コラボ商品で話題作りをするなどの展開をしているのです。
ちなみにマンチェスター・ユナイテッドのユニフォームスポンサーは、この8月から始まる2015-16シーズンよりアディダス社に変わることが決まっており、年間の契約料は最低でも130億円と倍増!これにボーナスが加わる契約となっており、クラブの来期からの商業収入は大きく跳ね上がることになります。
ユニフォーム販売枚数、スポンサー料、チケット売上はナンバーワン
そしてもうひとつの収益の柱は、テレビの放映権料です。プレミアリーグでは、FA(イングランドサッカー協会)が「スカイスポーツ」「BTスポーツ」などのテレビ局と一括契約をし、成績や試合の放送回数などに応じて全20クラブに分配するシステムになっています。
マンチェスター・ユナイテッドの2013-14シーズンにおける放映権収入は、売上全体の31%にあたる233億円。ただしこちらについては、2014-15シーズンは前年の不振がたたって欧州ナンバーワンを争うチャンピオンズリーグに出場できなかったため、50~60億円ほどの減収が予想されています。この6月に締めた2014-15シーズンの決算はまだ発表されておりませんが、商業収入・試合日収入・放映権収入の比率は2:1:1になるのではないかと思われます。
胸スポンサーであるシボレーの86億円と、アディダスのユニフォーム契約料年間130億円は、それぞれぶっちぎりで世界一のお値段。約76000人を収容する本拠地オールド・トラフォードのチケット売上と、年間140万枚となるレプリカユニフォームの販売数はプレミアリーグ1位です。
2013-14シーズンのプレミアリーグの「ユニフォームが売れた選手ランキング」を見ると、1位ファン・ペルシ、2位ルーニー、3位香川真司とマンチェスター・ユナイテッドがTOP3を独占。このクラブが、いかに世界中にファンを抱えているかが、こんな数字からもわかります。
レアル・マドリードに次ぐ世界第2位の売上を誇るマンチェスター・ユナイテッドが、どんな形で収益を得ているのか、おわかりいただけたでしょうか。
支出の半分以上が選手の給料などの人件費
収益がわかったところで、ここからは支出について見ていきましょう。サッカークラブの支出で圧倒的に大きいのは、人件費です。マンチェスター・ユナイテッドは、売上の半分弱となる369億円を、選手やクラブのスタッフに給料として支払っているのです。
世界一の水準といわれているプレミアリーグの選手の平均年棒は約4億円ですが、マンチェスター・ユナイテッドのレギュラークラスともなると5億円~10数億円。主将としてチームを引っ張っているウェイン・ルーニーは、2014年2月に年棒が1560万ポンド(約26億5200万円)にUPしたと報じられました。
サッカークラブにとって、選手はいわば商品でもあり企業としての資産でもあるわけなので、ここには相当お金をかけているわけです。
人件費の次に多いのが、いわゆる営業経費で、オフィス費用、スタジアムや練習場のメンテナンス、遠征時の選手の宿泊費などが積み上がって152億円。745億円あった売上は、ここまでで200億円強にまで減りました。
そしてもうひとつ、クラブの収支を左右するものがあります。
冒頭で紹介した移籍金は、年によってプラスになったりマイナスになったりします。2013-14シーズンのマンチェスター・ユナイテッドは、獲得した選手の移籍金として95億円を払っています。会計ルールのお話になってしまうのですが、選手獲得の際の移籍金については、契約年数を加味した計算になります。
わかりやすく例を挙げましょう。冒頭で紹介したディ・マリア選手は5年契約ですので、レアル・マドリードに払った100億円は、この先の5年間、毎年20億円ずつを各年度の決算書に入れていくのです。マンチェスター・ユナイテッドが払った95億円は、その年獲得した選手の移籍金の一部と、これまでに獲得した選手の移籍金を合算したものになります。マンチェスター・ユナイテッドは、1年前に250億円の大型補強と騒がれましたが、2014-15シーズンの決算書には、そのなかから50数億円が乗る形となるはずです。
話を戻します。200億円以上あった利益は、選手の移籍金関連の支出で117億円ほどに目減りしました。マンチェスター・ユナイテッドには借金があり、以前は年間で180億円以上も返済していた年もあったのですが、直近は47億円におさまっています。2013-14シーズンのマンチェスター・ユナイテッドが、最終的に残した利益は41億円でした。
プレミアリーグナンバーワンのクラブの収益構造に近しい企業が、実は日本にあります。2010年に株式上場を廃止した吉本興業は、その直前の決算書を見ると、2008年3月の決算で500億円という売上でした。
この頃のマンチェスター・ユナイテッドも、平均すると500億円ぐらい。規模的に近しい2つの企業は、売上の柱も非常に似ています。吉本興業は、所属タレントのTVやCMへの出演料という「商業収入」が全体の50%以上。自社保有の劇場やイベント営業といった「試合日=ライブ収入」が20%弱。CDやDVD販売、Web放送の視聴料などのメディア収入が15%弱と、収益の取り方がそっくりです。
奇しくも両者とも、以前は無借金経営だったのに株式上場を廃止してから借金が増えてしまった企業(マンチェスター・ユナイテッドは再上場済み)。人件費の比率が高く、人気タレントと売れない芸人さんの年棒に大きな開きがあるところも共通しています。
サッカークラブは、タレントの育成と対外的アピールによってブランド価値を高め、広告スポンサーを獲得するメディア産業、エンターテインメントビジネスなのです。