オリンピアン松本弥生さんが振り返る、世界水泳2017

オリンピアン松本弥生さんが振り返る、世界水泳2017 WATCH

オリンピアン松本弥生さんが振り返る、世界水泳2017

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ロンドン、リオと2大会続けて400m自由形でオリンピックに出場した松本弥生さん。ブダペストで今年7月開かれた世界水泳では、Twitterで「松本の勝手に世界水泳実況」というタグで選手達へ送る熱いエールが話題になりました。出場選手のことをよく知る松本さんだからこそ知る水泳界について、話を聞きました。

バスケに明け暮れた少女が、水泳の道へ進む決意をした理由

松本さんは5歳から習い事として水泳を始めました。その頃は水の中で遊ぶのが、ただただ楽しかったと言います。小学校3年の頃から大会を目指すコースに入りましたが、地区大会に出る程度で、その後オリンピックに出ることになるとは周りも、自分自身も想像していませんでした。

中学に入り、入部したのはバスケットボール部。放課後、バスケ部の練習をこなし、19時ごろから21時まで水泳、という部活との両立の生活をしていました。

当時は、チーム競技であるバスケ部の活動の方が楽しく、水泳に行かなくなった時期もありました。しかし、在籍していた中学のバスケ部はあまり強くなかったため、結果を残せる水泳での大会出場は続けていました。


中学時代はバスケに明け暮れていました。

バスケ少女だった松本さんは中学3年生時に、アテネオリンピックで金メダルを獲得した北島選手の活躍を見て、徐々に水泳への思いが強くなっていきます。水泳に気持ちが傾いてきた頃、その後の水泳人生を決める大きな転機が訪れます。それは県大会での出来事でした。

ゴールした時に壁をタッチしたのに、計測装置が壊れていて、きちんとタイムが記録されませんでした。手動計測の結果、全国出場タイムに届きませんでした。映像を見て計ってみると出場タイムには届いている。後から抗議しても判定は覆らず、お母さんも泣いていました。試合で優勝はしたけれど、全国大会に行けなかったのが、それまでの水泳人生で一番悔しかったです。その時の悔しさを晴らすために、水泳一本でやっていく覚悟ができました。

高校は水泳の強豪校に入学しました。練習は過酷なものでしたが、水泳一本に絞った松本さんはタイムがどんどん伸びていきます。その手応えのお陰で、辛い練習にも耐えられたと振り返ります。

肌で感じた、オリンピックで国を背負う重さ

日本体育大学進学後、19歳の松本さんは世界水泳ローマ大会で初めて世界の舞台を経験します。女子400mリレーで日本新記録は出たものの、結果は11位でした。

日本代表に選ばれ、日本記録も出すことが出来たことから、レース直後は満足していました。けれど日本に帰ってきた時、結果を残せなかったね、と周りから言われて、もっと大会で上位を目指せる選手になりたいと思いました。

その後悔しさをばねに練習を重ね、2010年の日本選手権で初めて優勝します。

そして松本さんは2012年ロンドン、2016年リオと2大会連続でオリンピックに出場します。ロンドンオリンピックでは女子400mリレーで7位ではありましたが、44年ぶりの決勝進出だったため、達成感は感じることができたそうです。逆にリオオリンピックでは、決勝で予選よりタイムを落としたこと、自身の手応えよりも低い順位である8位だったことから、悔しい思いは残ったそうです。

五輪マークのリングに笑顔の松本さん

そんな松本さんは、実はロンドンオリンピックで引退する予定だったそうです。

小さい頃から良きライバルの山口美咲選手と一緒に色々な試合に出て戦ってきました。けれどオリンピックだけは2人で出られていなくて。ロンドンオリンピックに山口選手が行けなかったことから、ロンドンで引退せずに2人でリオに出よう、と約束しました。

しかし、ロンドンからリオの4年間はきついことの方が多かったと語る松本さん。女性水泳選手のピークは大学生と言われるなかで、リオへの再出発を誓ったのは大学院の1年次。体力も落ち、今まで出来ていたことができなくなるという状態が続き、苦しむことばかりでした。リオが終わった後、もう二度とあんなに苦しい思いをしたくないと思い、2020年を目指すかの結論はまだ出ていないそうです。


リオで共に戦ったメンバーと。

松本さんが見た、世界水泳2017

オリンピックや世界選手権の舞台で、皆で揃って応援するなど、水泳は男女が仲がいいイメージがありますが、実際に松本さんに話を聞くと、「練習も食事もいつも一緒で、男女問わずみんな仲がいい。」とイメージ通りでした。そんなトビウオジャパンの仲間たちの2017年世界水泳での戦いについて、松本さんに振り返ってもらいました。

メダル総数歴代2位でしたが、今回は金が1個もなかったのが残念、というのが正直な感想です。メダルはもちろん大事ですが、金メダル1個の重みは、他のメダルとは全く違います。

今回特に注目していたのは、200m、400m個人メドレーの大橋悠依選手。成長著しい選手で、今季世界ランキングが1位だったこともあり、200m個人メドレーで2位ではあったものの、「得意の400m個人メドレーでメダルをとれなかったのは悔しかった」、と松本さんは語ります。

印象に残った試合にあげたのは、小関選手と渡辺選手の男子200m平泳ぎです。この2選手は、過去の世界大会でも期待されていましたが、2人揃っての成績を残せていませんでした。そのため、「2人でメダルをとれて良かった」、と松本さんは語りました。

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男子200m平泳ぎの小関選手と渡辺選手

もう1つの印象的なレースに、男子200m個人メドレーを挙げていました。優勝したアメリカのカルシュ選手は、リオオリンピックで萩野公介選手に負けた悔しさをバネに、今回1位を獲得しています。萩野選手とは、国内外で良いライバル関係である瀬戸大也選手との三つ巴の戦いが、2020年の東京オリンピックでも見られることに期待しているそうです。
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お互い高め合う良きライバル、萩野選手と瀬戸選手

一方で、池江璃花子選手に関して不安に思う点があるようです。

池江選手は、中学生で日本記録をいくつも叩き出したけれど、高校生になって体の変化に泳ぎがついていけてない状態です。今まで結果を残してきたからこそ、彼女は本当に苦しいと思います。女性スイマーは10代後半になると体の変化に合わせて泳ぎ方や練習の仕方を変えていくことが求められます。今は我慢して、自分の体の変化に適応し、土台ができている状態で東京オリンピックにもっていければ、結果を残せるはずです。

と先輩として、エールを送りました。

今後注目の選手として松本さんのイチオシは、長谷川涼香選手。200mバタフライのオリンピック銅メダリストの星奈津美さんの後に続くはず、と推していました。現在高校生の今井月選手も今季調子が良く、大舞台に強い選手という印象です。
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バタフライの期待の星、長谷川選手

松本さんは自身の今後について、「2020年のオリンピックへの覚悟はできていないから、もう少し考えたい」と話します。一方で、オリンピック選手や実績のある選手が指導の側にいく人が少ない、と感じることが多いようです。そのため、今後の水泳との関わり方として、水泳の普及活動をして盛り上げていきたい、と語る松本さん。

2020年東京オリンピックでのメダルラッシュが期待される競泳日本。これからの3年間に大いに期待したいと思います。

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