クロストレーニングのススメ。アメリカに万能型アスリートが生まれる理由

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クロストレーニングのススメ。アメリカに万能型アスリートが生まれる理由

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現在メジャーリーグではロサンゼルス・エンゼルス所属大谷翔平選手の投打二刀流における大活躍が大きな話題を呼んでいますが、アメリカのスポーツ界には複数ポジションどころか複数のスポーツで一流の成績を残すマルチ・アスリートが存在します。

アメフトと野球を掛け持ちしたボー・ジャクソンやディオン・サンダースや、バスケットボールの神様マイケル・ジョーダンがマイナーリーガーとして野球に挑戦したこと(メジャー昇格はならずバスケットボールに復帰)はよく知られています。

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マイケル・ジョーダンは子供の頃の夢と亡き父親との約束を果たすために野球に挑戦した。

最近でもカイラー・マーレイという選手が、MLBのオークランド・アスレチックスからドラフト1位指名を受け、さらに大学アメフト選手との両道を進むことが報じられました。

あるスポーツの有名選手が、学生時代は他のスポーツでも優秀な成績を残していた例は、他にも数多くあります。

現役選手で言えば、NBAのスーパースター、レブロン・ジェームズは、高校時代バスケットボールの他にアメフトを、MLBのスーパースター、マイク・トラウトも高校時代は野球の他にバスケット・ボールを、とそれぞれ別のスポーツでも活躍していました。

アメリカのスポーツはシーズン制、年間を通しては行わない

複数スポーツをこなすのは、こうした超一流のプロアスリート達だけに限った話ではありません。アメリカでは誰もが子供の頃からなるべく多くのスポーツを経験し、高校生になっても複数のスポーツを行うことが奨励されています。

アメリカのスポーツ部活動はシーズンごとに分かれているので、意志さえあれば複数スポーツを経験することが可能になります。

私は、カリフォルニア州のある私立高校でクロスカントリー部の監督を務めています(クロスカントリーとはよくスキーと混合されますが、ここでは陸上競技の一種で野山を走る長距離走のことです)。

地域や学校によって多少の違いはありますが、一般的にカリフォルニア州の主な高校各スポーツ部のシーズンは以下のようになっています。

秋(8-11月)
フットボール、クロスカントリー、女子バレーボール、女子テニス、など
冬(12-2月)
バスケットボール、サッカー、レスリング、など
春(3-6月)
陸上(トラック)、水泳、男子バレーボール、男子テニス、ラクロス、など

*夏休み期間中(6-8月)はどのスポーツも公式戦は行われず、サマーキャンプと称してオフシーズンのトレーニング期間になります。

オフシーズンは別のスポーツを行い、本シーズン中も週1、2回はクロストレーニング

このように、どのシーズンも2、3か月程度の長さでしかありません。選手は一つのスポーツに専念することも、複数のスポーツに参加することも、制度上可能なのです。

私が指導するクロスカントリー部の例ですと、夏休みから練習を開始します。これをプレ・シーズンとも呼びます。秋の本シーズンはほぼ毎週レースに参加し、練習日の主な目的はレース調整になります。冬と春はオフシーズンで、その期間中選手たちには以下の3つの選択肢があります。
1)クロスカントリー部のオフシーズン練習に参加する
2)別のスポーツチームに入る
3)スポーツは何もせずに過ごす

オフシーズンの過ごし方は完全に選手達の自己判断に任せられていますが、チーム指導者としては、2)別のスポーツチームに参加する、を選手に強く奨励しています。専門のスポーツ以外に多種目のトレーニングをとり入れる方法をクロストレーニングと呼びますが、オフシーズンに別のスポーツを行うことが、絶好のクロストレーニングになると考えるからです。

その考えに従って、オフシーズンの練習でも筋トレや水泳など走る以外のトレーニングを主にします。本シーズン中でさえ、走るのはレースを含めて週4~5回までに留め、クロストレーニングの日を週1~2日は取ります。

これは、アメリカでは特に珍しい考え方ではありません。どのスポーツの指導者も、自分達のチームの選手が別のスポーツを経験することを奨励しますし、クロストレーニングを否定する指導者にも会ったことはありません。

大学スポーツのスカウトがある選手を評価する際に、その選手の専門スポーツでの成績は勿論ですが、他にどんなスポーツをやっていたかを重視するとも聞きます。

クロストレーニングはケガのリスクを減らし、専門スポーツの能力もアップさせる

クロストレーニングのメリットは何かと考える際には、逆に特定のスポーツのみを行うデメリットを考えるとわかりやすいかもしれません。あるスポーツに特化すればするほど、特定の動きを特定の身体の部分を使って繰り返し行うことになります。

例えば野球のピッチャーは片腕だけでボールを投げる動作を繰り返します。ピッチングに限らず、どんなスポーツでもある技術の上達には反復練習は欠かせませんが、度が過ぎてしまうと、特定の筋肉や関節に疲労がたまり、ひいてはケガのリスクを増やしてしまいます。

同じことを長期間にわたって繰り返すことによる精神的な飽きも避けられません。技術的にも体力的にも上達が足踏みし停滞期に陥ることもしばしばあります。

そこで、あえて専門とは異なる動きのスポーツを積極的かつ計画的に取り入れることで、普段行っているトレーニングで欠けている部分を補い、身体能力の向上とスポーツ障害の予防を同時に目指すのがクロストレーニングなのです。

日本のスポーツは武道的な精神修養の一面が強調されるあまり、一つのことに打ち込むことを良しとする土壌があります。そしてそれが高いレベルの技術を生み出すことがあります。少年野球でもサッカーでも、世界的に見て日本の子供達の競技レベルは非常に高いです。

その一方で、高校、大学と年齢が上がるにつれて、燃え尽き現象やスポーツ障害などの弊害が数多く発生していることもまた否定できません。

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リトルリーグ世界大会で優勝した日本チーム。この中の何人が野球以外のスポーツをやっているだろうか。

何よりも大切なことはスポーツを楽しむこと。アメリカのスポーツ文化にはその考えが根底にあるので、複数のスポーツに挑戦したり、専門外のスポーツをレクリエーションのように楽しみながら行うクロストレーニングが推奨されるのだと思います。

クロストレーニングのメリットは以下のように挙げることが出来ます。
•飽きがこない
•天候や施設の空き状況に柔軟に対応する
•全体的な運動能力が向上する
•全身のコンディションが改善する
•怪我のリスクが軽減する
•ある筋肉を休めている間に別の筋肉を鍛える
•ある部分の疲労を回復しながら、基礎体力を維持する
•専門とするスポーツからは上達しない身体能力が高まる


競技アスリートに限らず、健康と楽しみのためにスポーツを行う一般人にもクロストレーニングの考え方は有効です。時々は普段行っているスポーツとは違うことをやってみるだけで、より長く、より楽しくスポーツを楽しめるようになります。