マイナーリーグに初挑戦の日本人審判員

マイナーリーグに初挑戦の日本人審判員 SUPPORT

マイナーリーグに初挑戦の日本人審判員

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今春、日本人として2人目となるマイナーリーグの審判員が誕生しました。1年目となる今シーズンを紹介します。

ルーキーリーグとはどんなところか

今季、マイナーリーグの審判員となったのは、小石澤進さん、25歳。現在、マイナーリーグは、AAのイースタンリーグで審判員を務める松田貴士さんに次いで2人目です。


塁審を務める小石澤さん

小石澤さんが渡米したのは、今年1月2日。日本は正月真っただ中です。2つある審判学校の一つ、ハリー・ウェンデルステッド審判学校(もう一つは、マイナーリーグ・アカデミー審判学校)に入学するためです。この審判学校は、毎年1月初旬から5週間開校します。ここ卒業するだけでも至難の業。卒業できるのはたったの25人です。

そして、もう一つの審判学校の卒業生25人を合わせた50人の中から10人がマイナーリーグの審判員に採用されるのです。この段階で、選ばれしエリートと言ってもいい存在なのですが、メジャーリーグを目指すという意味ではここからキャリアをスタートさせることになるのです。

そんな小石澤さんは選手たちと同様に、スプリング・トレーニングに参加後、ルーキーリーグの一つ、アリゾナリーグからスタートすることになりました。アリゾナリーグは、アリゾナ州でスプリングキャンプを行うメジャーの球団によるリーグで1989年にスタートしました。

所属球団は、13球団ですが、その年のチーム編成により参加しない球団もあります。*¹レギュラーシーズンは、6月中旬から8月下旬までで、東地区と西地区に分かれていますが、*²ホームページによると、東地区、中地区、西地区の3地区制で18球団あります。カブスやインディアンズ、パドレスのように2つのチームを持っている点もルーキーリーグならではかもしれません。

さて、「メジャーリーグは飛行機で移動できるが、マイナーリーグはバスや自動車で長距離移動することも珍しくない。」という話を聞くこともあります。その点を小石澤さんに訊いたところ、審判員の宿舎となるホテルから自動車で移動するが、1時間くらいで球場に到着します。長時間かけて移動するといったこともなく「ラッキーでした」と小石澤さんは言います。

ただ、連戦も多く、過酷さはあります。降雨などにより試合が流れれば予備の日程が消える、もしくはダブルヘッダーなどが組まれるためです。今季、小石澤さんが担当した試合で、砂嵐が原因で試合が中断、サスペンデッドになったというケースもありました。

日本では、試合がサスペンデッドになるような事例は、近年プロ野球ではなくなりましたが、砂嵐はアリゾナが過酷な自然環境だと教えてくれます。

また、マイナーリーグはAAクラスまで審判員は2人制を採っています。ルーキーリーグももちろんです。小石澤さんが塁審を務めていたとある試合、球審が負傷し病院での治療が必要となったため退場、小石澤さんが急遽球防具を付けその試合の最後まで1人でジャッジをするといったこともありました。アクシデントに対応するため、たとえ塁審であっても毎試合、球審用の防具は用意します。

*¹『網島理友のアメリカン・ベースボールブック』 ベースボール・マガジン社 参照
https://www.baseball-reference.com/register/league.cgi?id=bd6133ce

四国アイランドリーグplusの先にあるもの

小石澤さんは、山梨県生まれの野球少年でした。小学生の頃にプレーを始め大学生まで続けました。卒業と同時に四国アイランドリーグplusの審判部へ入り、プロの審判員を目指し始めました。四国アイランドリーグplusで審判員としてのキャリアをスタートしてからNPBを目指し、毎年末に開催されているNPBアンパイア・スクール(今年で6回目となる)にもチャレンジしましたが、NPB採用は叶いませんでした。

しかし、これで諦めず、アメリカで一流を目指す道を選択しました。既に渡米しマイナー・リーグで審判員を務めている松田貴士さん(四国アイランドリーグplus出身)の活躍が大きな影響を与えたようです。

小石澤さんは、渡米するにあたって事前に英語を勉強しましたが、実際に渡米しシーズンを過ごしてみると英語でのコミュニケーションは大変だったと言います。しかし、試合のジャッジや両チーム監督とのコミュニケーションなどの能力は四国アイランドリーグplus時代に基礎ができていたからこそ、今季1年目のシーズンは乗り切ることができたのでしょう。

また、シーズン中は英語だけの生活となります。試合中はもちろん、日常生活でも同様です。渡米以前とは環境がガラリと変わりますが、小石澤さんは、あまりストレスを感じなかったと言います。同僚の審判員たちとの会話にも積極的に入るようにし、あまり内にこもらないように心がけたとも言います。こういった点からも小石澤さんの順応性は感じ取ることができます。

より上を目指して

8月終わり、ルーキーリーグを終えて、小石澤さんは帰国しました。9月に入り「古巣」の四国アイランドリーグplusで審判員を務めています。アメリカでのシーズンが終わったため、日本でのんびりと過ごしているかといえばそうでもないのです。

ルーキーリーグでは、マイナーリーグのスーパーバイザーから直接アドバイスを受ける機会がありました。その際に指摘された点を改善しようと小石澤さんは、常に前向きです。また、四国アイランドリーグplusに在籍する若い審判員にとっても小石澤さんは目標になることでしょう。

小石澤さんは、来季どこのリーグで審判員を務めるのか、現時点ではまだ決まっていません。今シーズンの評価が下されるのはこれからなのです。しかし、小石澤さんは、来シーズンが始まるまでに自身のスキルを上げることを考えています。

来シーズンを見据えて、シーズンオフはどのようなトレーニングを行うのかを現在、考えています。メジャーリーグの審判員を目指すという意気込みが伝わってきます。

プレイヤーとしてアメリカへ渡るという選択肢は、もはや珍しくありませんが、審判員としてアメリカへ渡るという方法も、これからは決して珍しくなくなっていくように思われます。実際に、四国アイランドリーグplusからアメリカの審判学校を経てマイナー・リーグを目指すという道筋ができつつあるからです。

日本では、NPBアンパイア・スクールがありNPBを目指す方法もありますが、年間3~4人程度が育成審判員として採用される現状を考えれば非常に狭き門です。同じ狭き門なら、メジャーリーグの審判員を目指すという選択肢もあった方がいいでしょう。

メジャーリーグを目指し「修行」する審判員にも注目です。