萩原麻由子選手と與那嶺恵理選手が出走。クラシカ・サンセバスチャン・ドノステアコ・クラシコア

萩原麻由子選手と與那嶺恵理選手が出走。クラシカ・サンセバスチャン・ドノステアコ・クラシコア WATCH

萩原麻由子選手と與那嶺恵理選手が出走。クラシカ・サンセバスチャン・ドノステアコ・クラシコア

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スペインの夏に開催される名物自転車レースの一つが、このクラシカ・サンセバスチャン・ドノステアコ・クラシコア(Clásica San Sebastián Donostiako Klasikoa)です。

昨年までは男子のレースだけでしたが、今年から同日に女子のレースも開催され、日本から萩原麻由子選手と與那嶺恵理選手の2選手が出走しました。美食の街として有名な、サンセバスチャンで開催されたレースの様子をレポートします。

TOP写真:萩原麻由子選手所属のエネイカット・ぺカフェル・サイクリング(左)と與那嶺恵理選手所属のアレ・チッポリーニ(右)。Photo by Yukari TSUSHIMA.

初の男女同日開催


Team Movistar のプレゼンテーション。Photo by Yukari TSUSHIMA.

毎年8月第1土曜日に開催されるクラシカ・サンセバスチャン・ドノステアコ・クラシコア。今年が39回目の開催となります。しかし、これは男子のレースに限った話。

今年から同じ日に女子のレースも開催されるようになりました。男子のレース距離は例年同様227kmなのにに対し、今回の女子のレースの距離は126.7km。共にバスクの山岳が舞台となります。

レース前日には、全チームのプレゼンテーションが行われました。男女両方のレースに出走するチームのプレゼンテーションでは、全てのサイクリストが一緒にステージに上がります。


CCC のチーム・プレゼンテーション。Photo by Yukari TSUSHIMA.

また今回このレースでは、男女のレースの賞金が同額であることが話題となりました。ヨーロッパの自転車界では、プロの女子選手がレースで獲得する賞金は、プロの男子選手と比較すると、かなり低い額であることがほとんどです。

しかし、この数年こうした男女の賞金格差が問題として取り上げられるようになり、少しずつですが男女差をなくすための改善策が見られています。

今回のサン・セバスチャンで男女の賞金が同額になったのも、そうした男女間の格差の是正の動きに沿ったものです。レースに参加した男子選手は、152名(22チーム)、女子選手は89名(16チーム)、総勢241名が選手バスクの地を疾走しました。

日本人2選手の出走


女子の優勝者のルーシー・ケネディ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

今回この女子のレースに、日本人サイクリストの萩原麻由子選手と與那嶺恵理選手が出走しました。エネイカット・ぺカフェル・サイクリング(Eneicat Pecafer Cycling)所属の萩原麻由子選手は6月からこのチームに合流。

今季すでにスペインでのレースを経験済みであることに加えて、このサンセバスチャンでのレースの直前にナバラ地方で開催された2日間のレースに出走。すでにチームにも、十分溶け込んでいる様子でした。


スタート前の萩原選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

一方、アレ・チッポリーニ(Alé Cipollini)所属の與那嶺恵理選手も、萩原選手と同様にナバラ地方で開催された2日間のレースに出走。このスペインでのレースの前に数日のバケーションを過ごしてきたこともあり、リフレッシュした状態でレースに臨みました。


スタート直後の與那嶺選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

今回女子のコースは1級山岳を1カ所、2級山岳を2カ所超えるハードなもの。特に2カ所目の2級山岳がゴールまでわずか6㎞の場所に設置されており、この最後の登りが勝敗を決める重要なポイントとなると予想されていました。

この第1回目の女子のクラシカ・サンセバスチャンを制したのは、ルーシー・ケネディ(Lucy Kennedy/Mitchelton-Scott)選手。レース中にタイヤがパンクするアクシデントに見舞われましたが、最後は独走で優勝しました。

このレースで、與那嶺選手はケネディ選手から4分23秒遅れの23位でゴールし、萩原選手は途中棄権という結果でした。レース後、與那嶺選手にこの日のコースの感想を伺ったところ、返ってきた言葉が、“登りしかない、典型的なスペインのレース。”というものでした。

この日の女子のレースの平均速度は34.8km/h、完走したのはわずか67人。加えて例年より高い気温が、選手たちを苦しめたレースとなりました。

自転車界の新しい流れとラスト・ラン


男女一緒に表彰式でシャンパンを開けます。Photo by Yukari TSUSHIMA.

今年の男子のレースを制したのは、19歳のレムコ・イヴェネプール(Remco Evenepoel/Deceuninck-Quick Step)選手。

同チームのエースであったジュリアン・アラフィリップ(Julian Alaphilippe)選手のリタイアによる作戦変更にも素早く対応した彼は、最後は数キロを独走して優勝を飾りました。

第2位はベテランのグレッグ・ヴァンアーベルマート (Greg Van Avermaet/CCC) 選手。第3位は若手のマーク・イリスチ(Marc Irschi/Sun Web)選手が表彰台に登り、若手選手の台頭が目を引いた男子のレースとなりました。


優勝したレムコ・エべネポール選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

そしてこの日、現役最後のレースを迎えたバスク人サイクリストがいました。彼の名前はマルケル・イリザール(Markel Irizar/Trek-Segafred)。かつて癌を宣告され、手術と化学療法を経てプロのサイクリストになった彼が、この日15年間の現役生活に別れを告げました。

表彰式の後、イリザール選手のための引退式が執り行われました。この引退式の間、彼の表情からはいつもの笑顔が消え、涙が見られました。


引退式でのマルケル・イリザール選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

今回のクラシカ・サンセバスチャンは、女子のレースの開催や若手選手の台頭など、自転車界の新しい流れが見られたレースとなりました。

ヨーロッパの自転車界は来年のチームやレースシステムの改定に向けて、大きな変化の時を迎えています。各チームや選手たちも変化を何とか受け入れようと、いろいろ模索している状態です。そのような中で、多くの新しい試みや新しい選手が確実に現れるヨーロッパは、やはり自転車競技の本場であるということなのかもしれません。

なお、クラシカ・サンセバスチャンの女子のレースは、来年以降も継続予定です。実は今回のレースでは、後続集団にいた選手たちは先頭集団とのタイム差を知らないまま、レースを続けざるをえない状況に陥りました。

こうした細かい改善点はあるにせよ、ヨーロッパのトップクラスの女子サイクリストが集まるレースをスペインで開催できたという点で、高く評価してはいいのではないかと思われます。

真夏のスペインで男子と女子のトップサイクリストが集まるこのレースの重要性は、ヨーロッパの中でもかなり高いものなのです。