雨と強風の中で18日間のレースがスタート。ブエルタ・エスパーニャ2020前半戦レースレポート

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雨と強風の中で18日間のレースがスタート。ブエルタ・エスパーニャ2020前半戦レースレポート

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新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、10月20日に開催した今年のブエルタ・エスパーニャ(Vuelta a España)。今年の第1ステージは、フランス国境に近いバスクの街のイルン(Irún)がスタート地点になりました。さまざまな変化の中で開催された今年のブエルタ・エスパーニャの様子をお送りします。

TOP写真: 第1ステージのスタート前、チームメートのゼッケンを貼りなおすクリス・フルーム選手(Chris Froom/ INEOS Grenadiers)。Photo by Yukari TSUSHIMA.

強風の中、初日からの上りゴールで総合優勝候補が直接対決

第1ステージスタート前のチーム・ジュンボ・ビズマ。Photo by Yukari TSUSHIMA.

今年は、10月下旬に開催されることになったブエルタ・エスパーニャ。通常であればブエルタの第1週目に設定されるプロローグのタイムトライアルやスプリンター向けの平坦ステージがなく、いきなり第1ステージからアラッテ(Arrate)の登りゴールが現れました。

第1ステージのスタート地点は、「イルン」。レース当日は、雨を含んだ強風の中でのスタートとなりました。スタート地点には観客をまったくいれず、報道陣かレース関係者等だけがサイン台前に行くことができました。

この日のコースの前半は、海辺を走るものであったこともあって、終始強力な風邪が選手たちに吹き付けます。瞬間最大風速が時速100kmを超えた瞬間もあり、この日のレースを追っていた大型バイクのドライバーが「風でバイクが倒れるかと思った瞬間が、何度かあった。」とレース後に語ったほど、厳しい気象条件でのレースとなりました。

この日のレースも、後半に選手たちが内陸部に入ると雨脚が強まり、その結果、落車が発生し始めます。この日のレースだだけで3回の落車があったことが後日明らかになりました。

最後のアラッテの上りを一番最初に駆け上がってきたのは、今年の優勝候補筆頭のプリモ・ログリッジ選手(Primož Roglič/ Team Jumbo-Visma)。その他の優勝候補も上位でゴールし、初日から優勝候補が直接対決したステージとなりました。

新型コロナウイルス感染防止策は厳格

顔認証中のNTTプロ・サイクリング。Photo by Yukari TSUSHIMA.

今年から、あらゆるスポーツイベントは、新型コロナウイルス感染防止策を徹底することが必要となりました。もちろん自転車レースの大会もその例外ではありません。多くの自転車レースでは「バブル方式」が採用され、選手やチームスタッフの外部との接触が厳しく制限されるようになりました。

直前にイタリアで開催されていた「ジロ・デ・イタリア」で、選手はもちろん大会関係者に到るまで新型コロナウイルスの感染者が発生したため、今年のブエルタ・エスパーニャでは感染防止策が徹底的に実施されています。

マスクの着用が義務化されているのはもちろんのことですが、報道陣が選手にインタビューするときも、ミックスゾーンで事前の申請が通った記者だけがインタビューすることを許されます。同時に選手とマスコミ関係者とのソーシャル・ディスタンスの確保が徹底されており、両者が近づきないように大会関係者が目を光らせています。

マスクに毎日自分でイラストを描いてスタート地点に立つカルロス・バルベロ選手(Carlos Barbero/NTT Pro Cycling)。Photo by Yukari TSUSHIMA.

そして、今回のブエルタ・エスパーニャは選手たちがスタート前に出走前に「サイン」する代わりに、顔認証システムを活用し選手を確認をしています。この顔認証システムは、ブエルタの開催前日にすべての出走選手の顔写真を登録したものを使用しており、マスクしたままでもほぼ問題なく本人特定ができるようになっています。

そして、ほとんどのスタート地点で観客の姿を見ることはありません。基本的にレース現場で観客の応援は禁止されており、TVでブエルタを観戦するように大会側が放送しています。とはいえ、小さな町の中からスタートするときなどは大勢の観客がスタート地点に集まりますが、そうしたときでも選手たちと直接観客が触れ合うことがないようにソーシャル・ディスタンスは十分に確保されています。

ブエルタ・エスパーニャのノベルティグッズを販売するようなお土産屋さんも今年はまったく見られず、レース前にコース上を走って雰囲気を盛り上げるキャラバン隊も今年のブエルタでは中止されました。

もちろん、選手をはじめとするチームスタッフそして大会関係者はレース前とブエルタの期間中に2回ずつのPCR検査が義務付けられています。また報道陣もPCR検査の陰性証明を提出する必要があります。

このように徹底した新型コロナウイルス対策の影響を受けて、今年のブエルタでは、直前にスタート地点やゴール地点が変更されることもすでに何度かありました。

選手の地元がスタート・ゴールに。しかし…。

地元ウエスカからスタートするフェルナンド・バルセロ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

ブエルタ第1週目後半の舞台となったアラゴン地方は、ピレネー山脈の麓に位置する緑豊かな地方です。そして今回のブエルタではこの地方出身の2人のサイクリストが出走していました。

ウエスカ(Huesca)出身のフェルナンド・バルセロ選手(Fernando Barceló/ Cofidis)とサビニャニゴ(Sabiñanigo)出身のホルヘ・アルカス選手(Jorge Arcas/Movistar)です。そしてこの2選手の出身地が今年のブエルタ第5ステージのスタートおよびゴール地点となりました。

通常、ある選手の地元がスタート・ゴール地点となったときには、その選手の家族や親戚そして友人たちが大勢あつまり、大応援団を結成してスタート地点を訪れます。

地元TVの取材を受けるホルへ・アルカス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

しかし、このときアラゴン地方の市町村には新型コロナウイルス感染防止策の行動制限が発令されており、地元の人は住んでいる市町村から出ることができない状況でした。そしてこの第5ステージのスタート地点は、バルセロ選手の地元であるウエスカ市の外に設定されていました。

そのため、バルセロ選手の家族や友人たちは、地元にいながら彼の姿をTVで見ることになってしまったのです。ウエスカでアンダー23の自転車チームを率いる、バルセロ選手のお兄さんが悔しそうに語ります。

ブエルタ・エスパーニャのような大レースで、現役選手の地元がスタート地点になるようなことは意外とあまりないんです。それにウエスカのような小さな街が次にブエルタのスタート地点となるのは、いつかわかりませんし。

異例尽くしの今年のブエルタ・エスパーニャ。このレースに関わる人の願いはただひとつ、11月8日のマドリードのゴールへ無事にたどり着くこと。その日に向けて、レースが続きます。