女性の方が男性よりウルトラマラソンに向いている?

女性の方が男性よりウルトラマラソンに向いている? DO

女性の方が男性よりウルトラマラソンに向いている?

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ウルトラマラソンの人気が世界中で高まっています。そもそもマラソンという呼称は、紀元前450年の「マラトンの戦い」が由来、戦場のマラトンから約40km離れたアテネまでを完全装備のまま走りぬき、「Nike!(勝利)」と叫んだ直後に、地面に倒れて息を引き取ったフィディピディスの故事にちなんだものです。

第1回オリンピックでは、マラトンーアテネ間約40キロを走るレースが競技に加えられました。その後いくつかの紆余曲折があり、現在の42.195キロに落ち着いたのが現在のマラソン、正式にはフルマラソンです。

ウルトラマラソンとは、そのフルマラソンの距離である42.195キロ以上の距離を走るレースのことです。南アフリカで行われる「Comrades」(90キロ)、米国カリフォルニア州で行われる「Western States」(161キロ)、フランス、イタリア、スイスのアルプス山岳地帯を走る「UTMB」(170キロ)が世界3大メジャーレースと呼ばれ、日本のサロマ湖100キロも有名です。

100キロ走の世界記録は男女ともこのサロマ湖で日本人ランナーによって樹立されました。男子記録は、風見尚さん(2018年)、女子記録は安部友恵さん(2000年)です。他に12時間や24時間といった一定の時間を連続で走り続けて、走行距離を競うタイプのレースもあります。

こうした尋常でない距離や時間を走破するウルトラマラソンのレースは、人間が持つ耐久力の極限に挑むものだと言ってよいでしょう。

それと同時に、ウルトラマラソンは、男女が、同じ場所で、同じ時間に、同じ条件で、競技を行う数少ないスポーツでもあるのですが、最近になり、女性ランナーが男性を抑えて優勝するという出来事が立て続けに起きています。

男性の方が、女性より体力がある、というのが今までの常識でしたが、ひょっとしたら耐久力に関してはそうではないのかもしれません。それが今回のテーマです。

2019 Big Dog’s Backyard Ultra

2019年10月19日に米国テネシー州で行われたこのレースは、ユニークな形式で知られています。一斉にスタートしたランナーたちは6. 7キロの周回コースを1時間以内に1周しなくていけません。

残りの時間は休みをとり、ちょうど1時間後に2周目がスタートします。仮に40分で1周したら20分休み、55分で1周したら5分しか休めません。このサイクルを繰り返し、1時間内に1周できなくなった時点でそのランナーは失格となります。最後に残ったランナーが唯一の勝利者になります。

2019年度のこのレースに挑戦した72人のウルトラランナー(男性62人、女性10人)のうち、女性として史上初めて優勝を飾ったのが39歳のマギー・グテルルさんです。彼女はこのコースを60周し(つまり60時間!を連続で走り続け)、約400キロを走破しました。

ちなみに最年長ランナーは、リサ・アマッドソンさんで59歳。彼女の記録は24周(160キロ)です。

2019 Green Lakes Endurance Run 50K

2019年8月10日に米国ニューヨーク州で行われたこのレースの距離は50キロ。ウルトラマラソンとしてはもっとも短い距離です。逆に言えば、スピードが重要な要素になる距離で、男性の方が圧倒的に有利なはずでした。

ところが、このレースを制したのはエリー・ペルさんという女性でした。彼女のタイムは3時間58分37分。2位の男性に8分近い大差をつけての勝利でした。このレースも参加者の人数では男性の方が多く、女性は37人、男性は53人でした。

2017 Moab 240 Mile Endurance Run

2017年10月15日に米国ユタ州で行われたこのレースの公式距離は238マイル(約383キロ)です。こちらは数あるウルトラマラソンのレースの中でも最長の部類に入ります。

完走率約70%のこのレースで優勝したのはコートニー・ダウルターさんです。彼女のタイムは57時間55分。なんと2位の男性より約10時間も速い、圧倒的な勝利でした。

ダウルターさんは2018年には「Western States」、2019年には「UTMB」というメジャーレースの女子部門でも軒並み優勝を飾っていて、史上最高のウルトラランナーとの呼び名もあります。

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2019 Montane Spine Race

2017年1月16日に行われたこのレースの距離は約431キロ。イングランドからスコットランドまでを結ぶ長大な距離もさることながら、真冬に行われることもあって、別名「英国連邦でもっとも過酷なレース」と呼ばれています。

このレースを女性として初めて制したのがジャスミン・パリスさんです。ランナーは7日間(168時間)以内にゴールしなくてはいけないのですが、パリスさんが樹立したコース最速記録は83時間12分53秒。2位の男性より15時間も速いタイムでした。

さらに驚くべきことに、35歳のパリスさんは14か月前に長女ローワンちゃんを出産したばかりのママでもあったのです。

ウルトラマラソンで女性が男性を凌駕する日は来るか

フルマラソンの世界記録では、男女の差は未だに約14分の差があります。その差は縮まりつつありますが、今世紀中に逆転することは多分ないでしょう(絶対にないとは言い切れません)。同じように、ウルトラマラソンも歴史的には男性優位のスポーツでした。

優勝者たちがいつも男性だっただけではありません。そもそも、ウルトラマラソンのレースに参加するランナーの数は圧倒的に男性の方が多かったのです。その傾向は弱まっているとは言え、今でも人数で比較すれば、女性が少数派であることは変わりません。

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それにもかかわらず、女性がウルトラマラソンのレースを制することが、もはや例外的なケースだとは言えなくなってきました。そこには様々な理由が考えられます。

女性の方が体内に貯蔵する脂肪の量が多く、一方で筋肉量が少ないため、長時間の運動をする際にエネルギーを効率的に使用できるのだとする説があります。

女性にしかできない出産という大仕事のために、遺伝子レベルで耐久力が備わっているのかもしれません。さらには心理学的に、男性は、長時間を一定のペースを保って運動することに適していない(つまり自惚れが強くて飽きっぽい)という、ステレオタイプ的な結論を述べた学術論文*¹が2016年に発表されています。

これらの説が的を射ているどうかはともかくとして、私たち、あるいは歴史的な転換期を迎えているのかもしれません。

*¹ Gender differences in marathon pacing and performance prediction.
Hubble, C. et. al., 2016
https://content.iospress.com/articles/journal-of-sports-analytics/jsa0008

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