自宅からできるウルトラマラソン、4x4x48チャレンジに挑んだわけ

自宅からできるウルトラマラソン、4x4x48チャレンジに挑んだわけ DO

自宅からできるウルトラマラソン、4x4x48チャレンジに挑んだわけ

スポーティ

4時間ごとに4マイル(6.4キロ)走って、それを48時間続ける。だから4x4x48。新型コロナウイルスの影響でほとんどのランニング・イベントが中止になり、様々なオンライン・イベントが盛んになっています。この4x4x48チャレンジもその1つです。

かなりハードな設定で、しかもユニークな形態の「チャレンジ」として、英語圏のランナーたちの間でよく知られています。元米国海軍特殊部隊兵士のDavid Goggins氏が呼びかけたもので、今年がその2回目になります。

世界中のどこからでも参加できるこのオンライン・イベントに筆者も挑戦してみました。

未知の体験ー寝ないで夜中に走ることはできるのか

午前2時。人も車も見なくなる。

6.4キロを12回走るわけですので、2日間で走る合計の距離は76.8 キロになります。フルマラソン(42.195キロ)よりやや短いだけの距離を2日続けて走るというわけですので、ウルトラマラソンというものをよく知らない人は驚くかもしれません。 しかし、実はこの世界ではたいしたことがない走行距離であり、制限時間なのです。

たとえば、有名なサロマ湖100キロの制限時間は13時間です。神宮外苑24時間チャレンジでは、参加ランナーのほとんどが100キロ以上を走破しますし、上位入賞者になると250キロを越えます。

レースではなく、チャレンジという言葉がイベント名に使われていることでもわかるように、他人とタイムや距離を競うわけでもありません。普通の人が挑戦することができるギリギリの範囲に収まり、ウルトラマラソンとしては初心者用のイベントと言ってよいでしょう。

ただ、4時間ごとに48時間連続という設定はあまり例がありません。当然、真夜中にも走ることになりますし、期間中の2日間はゆっくり眠る時間もありません。そんなことをしたら自分の身体にどのような反応が現れるのか、私の興味はそこにありました。

生活密着型チャレンジ

Goggins氏が呼びかけた正式なイベントは3月の第1週末に予定されていましたが、私自身は事情があってその1週間前の週末に行いました。金曜の午前10時に1回目をスタートし、その後は4時間ごとに、午後2時、午後6時、午後10時、午前2時、午前6時のサイクルを2回繰り返して、最終回のスタートは日曜の午前6時でした。
 
■コース
12回のうち10回は、自宅前からスタートしまた同じ場所に戻ってくる周回コースで走りました。事前にランニング・アプリで距離を計測して、ちょうど6.4 キロになるコースを、飽きがこないようにと3種類も用意しておいたのです。残りの2回は、私が部活指導員を務めている高校キャンパスの近くを走りました。初日の金曜日は午前中に野球部、午後にクロスカントリー走部の練習があり、そのどちらも休みにしたくなかったからです(理由は後述)。おかげで2つの高校を行き来する合間に走るということになりました。

■装備
夜間用装備

今回もっとも不安だったのは、午後10時と午前2時にスタートする回でした。普段の私は夜9時にはベッドに入るような、典型的な早寝早起きの朝型人間なのです。夜中に走るどころか、暗くなってから外出することすらほとんどありません。ただキャンプを時々するので、ヘッドランプは持っていました。それでも安心できなかったので、光を反射するベストとリストバンドを購入しました。今回のチャレンジで新たに用意したものはそれだけです。

■栄養
チャレンジ期間中の食事。基本的には肉と野菜が中心。米、パン、麺類は食べない。

私は「糖質制限」+「断続的断食」+「空腹時の長時間トレーニング」を組み合わせた”Sleep Low”と呼ばれる手法を数か月前から実践しています。具体的には、朝食前に走り、午前9時から午後5時までの8時間内にすべての食事をし、その内容は基本的には糖質制限食(朝食と昼食は少し糖質を摂る)という生活です。

この手法によって起こるはずの、脂肪をエネルギー源として活用するファット・アダプテーションの効果を試してみたいということも今回の動機の1つでもありました。

関連記事:ファット・アダプテーションその2-競技力を落とさずに糖質制限を行う方法

そのため、今回のチャレンジ前も実行中も、この基本姿勢を崩しませんでした。普段と同じ時間帯と内容の1日3食以外には、バナナを数本食べたくらいです。それでも、特に空腹感やエネルギー不足を感じることはありませんでした。

■睡眠
Fitbitに記録されたチャレンジ期間中の睡眠

回と回の合間にある4時間のうち走っている時間と食事をする時間を引いても3時間ほどは余ります。夜の間は次回スタート時刻の30分前に目覚まし時計をセットして、仮眠を取ることにしました。とは言え、心も体も興奮状態にあるからでしょうか、横になったからと言ってすぐに眠ることはできませんでした。寝入っても1時間くらいで目を覚ますことが続きました。

装着していたFitbitによると、2日間の平均睡眠時間は1日あたり2時間36分ということでした。それでも不思議にさほど眠いとは思いませんでした。もっとも、すべてが終わった日は12時間ほどぶっ続けで眠りましたが。

■回復
2回ほどフォームローラーを使ってセルフマッサージをした以外には、回復のために特別なことは何もしませんでした。と言うより、食べたり寝たりすることに忙しく、それ以外に何かをする気にならなかったのです。それでも、前回からの疲れや筋肉痛を感じることはほとんどありませんでした。これは自分でも意外でした。

さすがに回を重ねるごとに少しずつ脚が重くなる感じがありましたが、それでもマラソンレースを走るときほどではありません。最後まで足が動きました。それどころか、最終回を期間中最速タイムで走ることができました。

トータルの走行距離は同じでも、休息を挟みながら走るということは、ぶっ通しで走ることに比べると、身体への負荷はずっと軽くなるようです。

最終回のタイム32:14は期間中最速。それ以外の回は40~45分ぐらいで走っていた。

個人でもできるチャリティー・ラン

4x4x48チャレンジのもう1つの特徴は、参加するランナーの多くがクラウドファンディングでチャリティーへの寄付を呼びかけることです。

私は前回の記事「コロナ禍で改めて考えた高校生にとってのスポーツとは-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その14」で触れた少年少女のスポーツを支える「Let Them Play」運動の非営利団体への寄付を募りました。

米国内では、小中学生から高校、大学に到るまで、少年少女のスポーツは新型コロナウイルス感染拡大で大きな打撃を受けました。スポーツをする機会が失われたことで、子どもたちの身体的、そしてメンタルの健康に深刻な影響が出ています。スポーツ中断だけが原因ではないかもしれませんが、10代の自殺が増えているそうです。
 
仕事柄、そのことには普段から心を痛めていましたので、個人的なチャレンジに終始するだけではなく、この有り余ったヒマと体力が少しでも役に立てばいいかなあと思ったことも、このイベントに参加することを決めたもう1つの動機でした。

そのせいか、毎回走りながら、自分の息子が育っていった過程を思い出していました。そしてスポーツというものが彼の成長過程においてどれほど重要なものだったかを再認識しました。今日の子どもたちはそのかけがえのない機会を失っています。そして彼らの時間は後で取り返すことはできません。子どもたちにスポーツを取り戻し、そしてそれを持続させていくために何かをしよう。そう強く感じたことが、自分が走り続けるうえでの大きなモチベーションにもなりました。

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