HIITからHILITへ。2020年代のフィットネスを占う

HIITからHILITへ。2020年代のフィットネスを占う DO

HIITからHILITへ。2020年代のフィットネスを占う

スポーティ

2019年の終わりが近づき、2020年が間もなく始まろうとしていた頃、過去の10年間(decade)を振り返り、次の10年を占うという趣旨の記事が多くのメディアで掲載されました。

そのうちの1つ、ニューヨーク・タイムズ紙が12月25日付けで掲載した記事『A Decade of Fitness』(フィットネスの10年)では、2010年代に現れた最大のトレンドはHIITで、消えてなくなったトレンドは裸足ランであると述べていました。

2010年代に広まったHIIT

フィットネスに興味がある人なら、HIITという言葉を耳にしたことがあるでしょう。あるいは熱心に行っている人もいるかもしれません。

HIITとは”High Intensity Interval Training”の頭文字で、強度の高い短時間の運動を、セット間に休憩あるいは軽い運動を挟みながら繰り返す、インターバル形式のトレーニング方法です。

ジョギングに代表されるような長時間の有酸素運動と比べると、HIITはかかる時間が短くて済むうえ、脂肪燃焼効率が高く、心肺能力を向上させる効果もあるとする研究がいくつも発表され、HIITは瞬く間に人気のトレーニング方法になりました。

ちなみにそのHIITでも、もっとも有名なプロトコルは日本発祥の「タバタ」です。立命館教授の田畑泉氏が効果を科学的に証明したこのトレーニング方法は、20秒間の「強度の高い運動」と、10秒間の「休憩」あるいは「負荷の軽い運動」を1ラウンドとして、それを8ラウンド繰り返すというものです。

つまり合計で4分しかかかりません。この「タバタ」は米国中のどのジムに行っても、それだけで意味が通じてしまうほどフィットネス界に浸透しています。

2020年の新トレンドHILIT

しかしながら、HIITに興味はあっても、なかなか手が出せない人も少なからずいました。HIITという概念そのものは特に運動の種類を限定しているわけではないのですが、実際にはジャンプを含むプライオメトリクス系のワークアウトや、ダンベルやバーベルなどの重量を用いた筋トレで構成されることが多く、そのような負荷の高い運動は関節や靱帯に故障や不安を抱える人には敷居が高すぎたのです。

代わって最近人気を集めるようになったのが、HILITです。”High Intensity Low Impact Training” の頭文字で、HIITとよく似ています。

この両者は高強度の運動(High Intensity)をインターバル形式で行うという点では共通していますが、HILITは関節や靱帯などへの負担を和らげるために(Low Impact)、ジャンプ系や重い重量を用いないことが特徴です。固定自転車やロウイングなどがそれにあたります。


ロウイングは関節にかかる負担は軽い

簡単に言ってしまえば、HILITでは両足が地面から離れる瞬間はありません。クロスフィットなどでよく行われる悪名高いバーピーもありません。

HILITでも疲労困憊になるまで「追い込む」のは同じなので、ダイエットや心肺能力への効果はHIITと同様に期待でき、それでいて怪我のリスクがはるかに小さくなります。

前述したタバタはスピードスケートの日本代表チームが固定自転車を用いて行っていたトレーニングを田畑教授が研究し、1996年に発表した論文から生まれました。

つまり、タバタは元々からHILITだったわけですが、四半世紀近くが過ぎた今、2020年代のフィットネスで最新トレンドになる気配です。

急成長するホーム・フィットネスとの好マッチング

HILITではそれほど多くの器具や広い場所を必要とはしません。ダイエットが目的なら、難しいテクニックも必要ありません。そのため、Pelotonに代表されるようなホーム・フィットネスのサービスとも相性が良いことで、今後さらに人気が高まる可能性があります。

Peloton (https://www.onepeloton.com/) は、固定自転車(約30万円)と月ごとの定額制で無制限にストリーミングできるオンライン・クラス(約5千円)を組み合わせたサービスです。

2019年に上場し、瞬く間に時価総額が1200億円を超えたと言われています。固定自転車で始まりましたが、現在ではトレッドミルによるランニングやヨガ、筋トレなどのクラスを続々と登場させています。オンライン・サービスだけの利用もできます。


Pelotonが提供するストリーミング・クラスのスクリーンショット

Mirror (https://www.mirror.co/) と言う会社も壁に掛けるLCDパネルとストリーミングによるヨガやピラティスなどのクラスを組み合わせたサービスで急成長しています。

Peloton とMirror はカバーしている運動の種類が微妙に異なるのですが、自宅で好きな時間に運動をすることができ、さらにオンライン上の仮想コミュニティでトレーニング仲間とつながっていることで共通しています。仕組みとしては、野外でのランニングやサイクリングで先行しているGPSアプリのStrava(https://www.strava.com/)と似ています。

会員制ジムは衰退するのか

このようなホーム・フィットネスの台頭に、伝統的な会員制ジムの側も危機感を募らせています。世界中にジムを展開し、日本でも有名な「ゴールドジム」のCEOであるアダム・ツァイチフ氏はYahoo! Financeのインタビューで「ホーム・フィットネスは間違いなくこの業界にダメージを与えている」と述べています。

ツァイチフ氏はインタビューの中でゴールドジムを差別化する長所としてインストラクターによる指導とコミュニティの存在を挙げています。これらはまた、2010年代に急成長したクロスフィットや室内自転車スタジオのSoulCycleなどが主張していることと重なります。

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人気のサイクリング・クラス。ネット型サービスにとって代わられるのか。

しかしながら、ミレニアム世代が生身の人間よりインターネット上でのコミュニケーションを好む傾向があることは多くの人が指摘しています。そのうえ、ジムの場所や営業時間に制限を受けないホーム・フィットネスが彼らのライフスタイルにマッチしていることは間違いなさそうです。

米国に比べると日本は住宅事情が悪いので、ホーム・フィットネスはそれほど流行らないかもしれませんが、ジムのフリースペースでスマホを見ながら1人で運動をしている若者の姿は米国でもよく見かけるようになりました。

筆者はクロスフィットのトレーナーです。このようなトレンドは歓迎しがたいどころか、死活問題でもあるのですが、今後ますますフィットネスの主流がジムからインターネットへ、グループから個人へと移っていくような気がしてなりません。


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