ハエンの山岳がスペインチャンピオンを決めた。自転車ロードレースのスペイン選手権レースレポート

ハエンの山岳がスペインチャンピオンを決めた。自転車ロードレースのスペイン選手権レースレポート WATCH

ハエンの山岳がスペインチャンピオンを決めた。自転車ロードレースのスペイン選手権レースレポート

7月下旬、スペインのアンダルシア地方で、自転車ロードレースのスペイン選手権が開催されました。このレースで優勝した選手は1年間スペインチャンピオン・ジャージを着て各レースを走ることになります。多くのサイクリストが集まったこのスペイン選手権の様子をレポートします。

TOP写真:ゴール直前で自転車にトラブルが発生し、自転車を押してゴールするヘスス・エラーダ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

日本のチームに所属するスペイン人選手も参戦

キナンのグアルディオラ選手。石畳のない道路の中央部分を走っています。Photo by Yukari TSUSHIMA.

毎年、ツール・ド・フランスの直前に開催される自転車ロードレースのスペイン選手権。今年は新型コロナウイルスの感染拡大のために日程が変更され、7月21日からの3日間、アンダルシア地方のハエンで開催されました。

スペイン選手権で開催される種目はタイムトライアルとロードレースの2種目。標高700m以上の地点にあるハエンの村々がそのスタート及びゴール地点となります。

毎年スペイン選手権には、日ごろ外国のチームでレースをしているスペイン人選手が多数参加します。特に今回は、日本のチームに所属するスペイン人選手が多数参加しました。しばらくレースを走ることができない日が続いている選手たちにとっては、この日が本当に久しぶりのレースとなります。朝9時からのスタートにもかかわらず、みんな笑顔でスタートラインに姿を現しました。

スタート前のパコ・マンセボ選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

マトリックスパワータグのパコ・マンセボ(Paco Mancebo)選手は、スペイン自転車界では大ベテランの選手です。今年で21回目のスペイン選手権出走になりました。このレースの前にはMTBのレースに出走していたマンセボ選手。「早く日本でレースしたいけど、現状ではちょっと難しそうだね。本当に残念です」と話します。ちなみこの日のレース(185㎞)で、マンセボ選手はトップから7分25秒遅れの41位でゴール。半数以上の出走選手が棄権する中、ベテラン選手の豊富なレース経験をしっかりと他のサイクリストに見せつける形になりました。

キナンのスペイン人コンビ、マルコス・ガルシア選手(写真中央)とサルバドール・グアルディオラ選手(写真左)。Photo by Yukari TSUSHIMA.

キナン・サイクリング・チームのスペイン人コンビ、マルコス・ガルシア(Marcos García)選手とサルバドール・グアルディオラ(Salvador Guardiola)選手もレースに出走しました。

今年は日本に行くことも少なく、スペイン国内にいることがほとんどの2人。「しばらくは、日本のレースに出走する予定がなくてね。」と話していたグアルディオラ選手。久しぶりのレースに喜びながらも、石畳のコースにすこし苦しんでいたようでした。

ベンジャミン・プラデス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

チーム右京のベンジャミン・プラデス(Benjamin Prades)選手にとっても、この日は久しぶりのレースとなりました。いつもと変わらない笑顔を見せながら、「早く日本のレースに戻りたいなぁ」と語っていたプラデス選手。

パブロ・トーレス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

昨年は日本国籍のインタープロ・サイクリング・アカデミー(Interpro Cycling Academy)に所属し、ツアー・オブ・ジャパンではステージ優勝もしたパブロ・トーレス(Pablo Torres)選手。今シーズンは、アメリカ国籍のチーム・ヒンカピー・レオモ・BMC (Hincapie LEOMO BMC)に所属しています。すでに日本でチームメートの石原悠希選手が勝利を挙げていることについて、トーレス選手は「日本でチームメートが活躍しているのはうれしいね。でも、早くみんなでヨーロッパのレースを走りたいな」と話していました。

女子のレースは完全制覇の2人が主役

独走で優勝したマビィ・ガルシア選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

スペイン選手権で開催される女子のレースは2つの選手のカテゴリーに分類されます。ひとつは「アンダー23カテゴリー」で、22歳以下の選手が出走するもの、もう一方は「エリートカテゴリー」と呼ばれ、23歳以上の選手が出走します。そのため、女子のスペイン選手権の優勝者も、各々のカテゴリーから一人ずつ誕生することになります。

今年のスペイン選手権では、「アンダー23カテゴリー」のタイムトライアルとロードレースでサラ・マルティン(Sara Martin)選手が優勝。そして「エリートカテゴリー」のタイムトライアルとロードレースではマビィ・ガルシア(Mavi García)選手が優勝しました。

友人のカメラマンと談笑中のサラ・マルティン選手(写真左)。Photo by Yukari TSUSHIMA.

サラ・マルティン選手はソペラ・ウィメンズ・チーム(Sopela Women’s Team)に所属する21歳の選手。タイムトライアルが得意な選手ですが、今回のスペイン選手権のロードレースでは、ワールドツアーチームの選手が占める集団内の前方に位置し、積極的にレースを進めていました。これからスペインの女子ロードレース界を代表する選手になる可能性を秘めた選手です。

マビィ・ガルシア選手は、日本チャンピオンの與那嶺恵理選手のチームメートで、アレ・BTCリュブリアナ(Alé BTC Ljubljana) 所属の選手です。現在スペインで最も強い女子サイクリストであり、かつてデュアスロンの選手として活躍していたこともありました。

「今年のスペイン選手権のコースは斜度の厳しい登りがたくさんあるので、私向きだと思いました」と優勝時インタビューで話すほどの名クライマーです。いつも明るい笑顔を絶やさないガルシア選手は、スペインロードレース界でも人気者。レースが終わると、たくさんの人がガルシア選手に2ショット写真をお願いしていました。

ゴール前150メートルですべてが変わった、男子エリート・UCIエリートロードレース

スペインチャンピオンに輝いたルイス・レオン・サンチェス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

スペイン選手権の最後を飾るのは男子の男子エリート・UCIエリートカテゴリーのロードレースです。今年はウベダ(Ubeda)をスタートし、バエサ(Baeza)をゴールとする185㎞で争われました。

コースの大半はバエサを通過するサーキットコース。選手たちは、標高差500mのコースを5回上ります。また、バエサのゴール前後3㎞ほどは非常に荒れた石畳が続いているため「春先に走る北のクラシックみたいだよ」と選手も話す選手もいました。

ルーベン・フェルナンデス選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

スペイン南部のムルシア地方出身のルーベン・フェルナンデス(Rubén Fernández)選手(エウスカルテル・エウスカディ: Euskaltel Euskadi)をして「今日は暑くなるよ」といわしめたこの日。コースについてフェルナンデス選手の見解は「上りも厳しいし、道幅の狭い石畳の区間もあるから、意外と早い段階で集団が割れるかもしれない」というものでした。

しかし、レースがスタートすると、10人以上の選手が出走しているカハ・ルラル・セグロスRGA(Caja Rural Seguros RGA)やブルゴスBH(Burgos BH)、そしてエウスカルテル・エウスカディがレースをコントロールし、すぐには逃げる選手が現れません。

レース中盤でようやく7人ほどの選手が逃げ集団を形成しますが、その後も大人数の出走選手を抱えるチームがペースを完璧にコントロールし、大きなタイム差がつくことはありません。

そして、レースが本格的に動いたのはゴールまで20㎞程になった地点でした。逃げていた先頭集団が吸収されると、単独で出走していたワールドツアーチームの選手が次々とアタックを仕掛けます。

同時にこの時点で4人の選手が出走していたチームコフィディス(Team Cofidis)が、次々とアタックを開始。ゴール前4㎞地点でフェルナンド・バルセロ(Fernando Barceló)選手がアタックを決め、レースのトップに躍り出ます。

しかし、このバルセロ選手のアタックは彼のチームのエースであるヘスス・エラーダ(Jesús Herrada)選手を助けるための動きでした。バルセロ選手のアタックが終わったとたん、すぐ後ろの集団にいたエラーダ選手が集団の先頭へ飛び出します。

このエラーダ選手の動きに反応したのはアスタナ(Astana)のルイス・レオン・サンチェス(Luis León Sánchez)選手。2人でゴール前ラスト2㎞の石畳区間に突入した時点で、先行していたのはヘスス・エラーダ選手。

そして、最後の150m地点。先頭を奪ったサンチェス選手の後ろで、ヘスス・エラーダ選手の自転車にトラブルが発生します。一気に減速するヘスス・エラーダ選手を置き去りにしたサンチェス選手がゴールに飛び込み、今年のスペインチャンピオンに輝くことになりました。

初めてのスペイン選手権制覇に大喜びするサンチェス選手とは対照的に、最後は自転車を自分で押してゴールしたヘスス・エラーダ選手。彼をアシストした3人のチームコフィディスの選手たちのひときわ悔しそうな表情が、このレースの重さを伝えることになりました。

ゴール前で一波乱あった男子プロのロードレースで、今年のスペイン選手権は幕を下ろしました。この後、選手たちはツール・ド・フランスをはじめとする大きなレースに次々と出走することになります。

スペイン選手権 ロードレース 自転車