スペイン伝統のレースが、オリンピックの日本代表を決める舞台に。プルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ

スペイン伝統のレースが、オリンピックの日本代表を決める舞台に。プルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ WATCH

スペイン伝統のレースが、オリンピックの日本代表を決める舞台に。プルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ

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10月12日にスペインのオルディジア(Ordizia)で開催された自転車のレースであるプルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ (Prueba Villafranca Ordiziako Klasika)。今年はこのレースに東京オリンピックの日本代表を目指す3選手が出走し、日本からも高い注目を集めました。この日のレースの様子をレポートします。

TOP写真:第20位でゴールする増田選手(写真右)。Photo by Yukari TSUSHIMA.

スペインの夏の名物レースが、今年は10月に開催

選手たちは防寒対策をしてレースに臨みます。Photo by Yukari TSUSHIMA.

毎年7月25日にオルディジアで開催される自転車ロードレースがプルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカです。しかし、97回目の開催となった今年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響のため10月12日に開催されました。

距離が短くて急な坂の多い典型的なバスクの地形を生かしたこのレースでは、全長約33㎞のサーキットコースを5周します。途中には道幅の狭い上りも多く、選手たちにとっては一瞬も気を抜くことができないコースです。

基本的にはクライマーのためのレースです。でも、コースを熟知していて上りを苦にしないスプリンターであれば、なんとか勝負できますね。僕も現役時代にこのレースで3位になったことがありますから。

今回の出走チームの一つであるエキーポ・ケルン・ファルマ(Equipo Kern Farma)を率いるパブロ・ウルタスン(Pablo Urtasun)監督は上記のように語ってくれました。

彼のチームを含めて、今年このレースに出走したのは、全部で15チーム。ワールドツアーチームのアルケア・サムシック(Arkea-Samsic)を筆頭に地元スペインのブルゴスBH(BurgosBH)、カハ・ルラル(Caja Rural)、エウスカルテル・エウスカディ(Euskaltel-Euskadi)といったチームが出走しました。その一方で、今年は出走機会になかなか恵まれなかった規模の小さなプロチームも多数出走しました。

オリンピック選考とオルディジアのレースの関係は

スタート前の中根選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

今回このレースには、9人の日本人サイクリストが出走していました。その中で特に注目を集めたのが、宇都宮ブリッツェンの増田成幸選手、NIPPO・デルコ・ワン・プロバンス(NIPPO Delko One Provance)の中根英登選手と石上優大選手の3人でした。この3人は東京オリンピック出場にむけて、ライバル同士の関係にあったのです。

日本が東京オリンピックの男子のロードレースで獲得した出走選手枠は2つ。選手たちはレースで獲得するUCIポイントを基にした日本独自のポイントを積み重ね、そのポイントの上位2人が日本代表となります。このポイント数で第1位となっていたのが新城幸也選手(バーレーン・メリダ)。彼の後につづく2枠目を僅差で争っていたのがの中根選手と増田成幸選手だったのです。オルディジアのレース前、ポイント数で2位の中根選手と3位の増田選手との差はわずか8ポイントでした。

オルディジアのレースは、UCIカテゴリー1.1に分類されるため、上位25位までにUCIポイントが与えられます。例えば、このレースで第16位から第25位の選手に与えられるUCIポイントは3ポイントです。

今回の日本のオリンピック選考では、このカテゴリーのUCIポイントを3倍に加算するため、たとえば第25位の選手のオリンピック選考のためのポイントは9ポイントということになります。以上のことから、オリンピックの選考ポイントで8点差で中根選手を追う増田選手にとって、この日のレースで上位25位以内に入ることが絶対条件となっていました。

石上選手は、オリンピック選考では増田選手に次いで第4番目のポイント数を得ていました。しかし、昨年のこの大会で石上選手は第7位でレースを終えています。もし、彼が今年も昨年と同じくらいの順位だった場合、一気にオリンピック代表になる可能性もありました。

このような東京オリンピック選考へ様々な思惑が、日本からこのオルディジアのレースに持ち込まれることになったのです。

日本人3選手のレース前の状況は

雨の中レースをする石上選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.

オリンピック出場を目指す増田成幸選手を擁する宇都宮ブリッツェンはレースの約10日前にスペインに到着。オルディジアのコースの試走を2回も実施したほど、このレースに勝負をかけていました。チームを率いる清水監督は、オルディジアのコースに関し「上りが非常に厳しいですね。雨が降ったら下りもかなり難しくなりそうですし」とレース前にコメントしました。

そして、日本人の中根英登選手と石上優大選手の2人を擁するNIPPO・デルコ・ワン・プロバンスもこのオルディジアに出走しました。今年出走機会になかなか恵まれなかった宇都宮ブリッツェンとは対照的に、順調にレースに出走していたNIPPO・デルコ・ワン・プロバンスは、オルディジアのレースの1週間前までポルトガルで開催されていたボルタ・ポルトガルにも出場。中根選手は総合79位でこのレースを終えていました。

一方の石上選手にとっては、このオルディジアは非常に相性の良いレースです。しかし3月からレースの機会がなかったため、この日が久しぶりの実戦となりました。

雨の中のサバイバルレースは増田選手が第20位でゴール

Photo by Yukari TSUSHIMA.

レース当日のオルディジアは雨。この時期のバスク地方に雨が降るのは、珍しいことではありません。しかし、この日の雨は前日から断続的に降り続いていたため、路面が乾く時間がありません。「下りが滑りやすくなっているから、落車が起きないか、ちょっと心配だよね。」とレースオーガナイザーの一人が話したほどの雨でした。

気温も低めだったので、スタート地点には防寒対策を厳重にした選手たちが集合しました。スタートラインで笑顔を見せながらチームメートと談笑していたNIPPOの石上選手や中根選手とは対照的に、ブリッツェンの増田選手は非常に集中した表情で集団の最後尾からスタートしました。

スタート直後からたくさんの選手たちが飛び出しますが、逃げ集団を形成するまでには至りません。選手が飛び出しては集団に引き戻されるという事態がレースの中盤まで続きました。

この間、レースはハイペースで進みます。このレース最初の1時間の平均時速は45km/h。バスクの登りをかなりのハイペースで選手たちは走り続けることになりました。そして冷たい雨が選手たちの体を濡らし続けます。レースも中盤になると、雨とハイペースの影響で体力を消耗した選手たちが次々とレースを途中で棄権していきました。

やっと逃げ集団が確定されたのは、ゴールまで残り約50㎞となってから。約30人の選手が先頭集団を形成し、この集団の中に宇都宮ブリッツェンの増田選手の姿がありました。

この先頭集団にアルケア・サムシックとカハ・ルラル、そしてエウスカルテル・エウスカディの3チームは選手を複数送り込むことに成功。先頭集団を強力にコントロールし、選手たちをふるいにかけます。ハイペースが維持されたままのこの集団のなかで増田選手は粘り強く走り続けます。

3チームがコントロールするこの集団からサイモン・カー選手(Siom Karr/ NIPPO・デルコ・ワン・プロバンス)が抜け出したのは、ゴール前20㎞を切った瞬間でした。他の選手に追走もなく集団を飛び出すと、そのまま独走態勢に入ります。

カー選手が飛び出した後の手段は完全に分裂し、選手一人ひとりの最後の力が試されるサバイバルレースとなりました。増田選手は5番目の集団で他の4人の選手とゴールを目指します。

優勝したカー選手。Photo by Yukari TSUSHIMA

結局ゴールまで独走したカー選手が今年のプルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカを制しました。

増田選手は第20位でゴール。このレースでUCIポイントを3ポイント獲得しました。このポイントはオリンピック選考ポイントでは9ポイントの加算となります。この結果、増田選手はオリンピック選考ポイントの第2位となり、東京オリンピック出場を確定させることになりました。

「一番厳しいと予想していたレースパターンになってしまいましたね。レース前は増田選手がもう少し上位でゴールできるかな、とも思っていたんですが。終始ハイペースだったし、本当に厳しいレースになりました。」とレース後に宇都宮ブリッツェンの清水監督が語りました。

レースを終えた増田選手は寒さで体力を消耗し、かなり疲れた様子でした。しかし、このレースでの彼の走りに対し、主催者側から特別賞 (Premio de la Simpatia)を贈られることになりました。

一方、優勝したカー選手のチームメートの中根選手と石上選手は、この日自身のポイントよりもカー選手の優勝を後押しすることを選択しました。レース前半で強力ににカー選手をバックアップしていた両選手は、最終的にこのレースを途中棄権する判断を下すことになりました。

日本のオリンピック代表が決定する舞台となった、今年のプルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ。レースオーガナイザーは昨年からこのレースのライブストリーミング放送を実施、今年もYoutubeを通じてレースがライブ配信され日本でも多くの人が観戦しました。

過去にはいくつも日本のチーム(あるいは日本代表チーム)が参戦しているプルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカですが、レースのライブストリーミング放送により、日本でこのレースを知る人が増えていることに、レース主催者からは喜びの声が聞かれました。