往年の名選手による真剣勝負のレース ‐Klasika Marino Lejarreta(クラシカ・マリーノ・レハレッタ)-
WATCH往年の名選手による真剣勝負のレース ‐Klasika Marino Lejarreta(クラシカ・マリーノ・レハレッタ)-
スペインのバスク地方に、オルディジアという村があります。この村は毎年7月25日に開催される、Ordiziako Klaikoa (オルディジアコ・クラシコア)というプロサイクリストによる自転車レースの舞台です。実は同じこの場所で、毎年10月に一風変わった自転車レースが開催されます。
秋のレースの主役は、かつてのプロ選手とアマチュアのサイクリストたちです。スペインをはじめとする自転車界の歴代スターも多数参加するこのイベントの様子を、現地からのレポートでお送りします。
メイン写真 Photo by Yukari TSUSHIMA
Marino Lejarreta(マリーノ・レハレッタ)の名の下に
写真中央がマリーノ・レハレッタ氏。(Photo by Yukari TSUSHIMA)
このイベントの大会名となっているマリーノ・レハレッタ氏は、地元オルディジア出身の自転車選手です。1982年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝に輝き、13年間の現役生活で52勝を上げたスペイン屈指の名サイクリストでした。加えてジロ・デ・イタリアでも好成績を残したため、未だイタリアでもに彼のことを憶えている自転車ファンも少なくありません。多くのファンに愛された、1980年代のスペインの名サイクリストの一人です。
そんな彼の名前を冠したこのレースも今年で第4回目。往年の自転車選手たちが70人以上集まり、5人1組のタイムトライアル方式で競争します。距離は約32㎞。7月25日に現役のプロ選手が走る同じコースの一部を、元プロ選手やアマチュアの自転車乗りたちが、楽しみながらも真剣勝負で走るのです。
前夜祭
写真左からアブラハム・オラーノ氏、パベル・トンコフ氏、一人おいて、マリーノ・レハレッタ氏。(Photo by Yukari TSUSHIMA)
クラシカ・マリーノ・レハレッタは前日の土曜日からスタートします。この日の午後には、レハレッタ氏をはじめとする、スペイン内外の有名な自転車関係者が集まりトークショーを繰り広げます。
今年のメンバーは、ロードレースとタイムトライアルの両方で世界チャンピオンに輝き、またブエルタ優勝経験もあるAbraham Olano(アブラハム・オラーノ)氏、1996年のジロ・デ・イタリアの総合優勝者であるPável Tonkov(パベル・トンコフ)氏、そして長年スペイン代表チームの選手選考役を務めたRamon Mendiburu(ラモン・メンディブル)氏の3人です。
こじんまりした家庭的な雰囲気の中でのトークショーのせいか、3人の元プロ選手から思わぬ話がいろいろ飛び出します。「あの時、ゴール前に審判団の車がなかったら、コバドンガの登りの最初の優勝者は、多分自分だったと思う(トンコフ氏)。」という発言から、「世界選手権でパンクしたとき、スペインチームのサポートカーが自分のところまで来れなかったから、ドキドキしながらラスト18㎞を後輪がパンクしたまま走った(オラーノ氏)。」という話まで、「今だから言える話」をたっぷり聞くことができる場です。
そんな中、オラーノ氏がトンコフ氏との思い出について話し始めました。「僕とパベルはプロとして走っていた時期がほぼ一緒だったから、レース中はライバル同士ではあったんだよね。でも、同じホテルに宿泊してる時なんか、レースが終わった後にココア飲みながら、よく2人でおしゃべりしてたよね。」スペイン自転車界にある、選手同士の絆の強さを垣間見た瞬間でした。
レース当日
写真左は今年のブエルタ・ア・エスパーニャにも出走したEuskadi Basque Country-Murias(エウスカディ・バスク・カントリー・ムーリアス)所属のGarikoitz Bravo Oiarbide (ガリコイツ・ブラボ・オイアルビデ) 選手。この日は友人のチームの助っ人として参加。(Photo by Yukari TSUSHIMA)
レースは翌日曜日、9時45分からスタートします。前半は、アマチュア・サイクリストたちのグループによるレースです。基本的には自転車ファンによって結成されたチームばかりのはずなのですが、本気で優勝を目指すチームは現役のプロ選手をメンバーに迎え入れるなど、様々な作戦でレースに挑みます。
出走サイン台でプロのカメラマンによる記念撮影中。(Photo by Yukari TSUSHIMA)
レース前、選手たちはチームごとに出走サイン台に上がり、記念撮影をします。この日の参加者は、プロのサイクリストとほとんど同じような環境でレースを走るのです。ちなみに、女性だけのチームもありますし、男女混合チームもあります。
後半になると、元プロサイクリストたちのチームが登場します。久しぶりに会った友人たちとの写真撮影に余念のない元選手も少なくありません。みんな当時のライバルや友人たちとの再会が、うれしくて仕方がない様子です。
セルフィ撮影中。スマホを持っているのはManuel Beltrán(マヌエル・ベルトラン) 氏。現役時代はランス・アームストロングの強力なアシスト役。(Photo by Yukari TSUSHIMA)
レハレッタ氏のチームは、毎年一番最後にスタートします。今年はタンデムの選手がチームに加わりました。
レハレッタ氏のチーム。写真左の2人はタンデム自転車のサイクリスト。(Photo by Yukari TSUSHIMA)
約1時間弱で、各チームがゴールにたどり着きます。登り下りの多いハードでテクニカルなコースなので、みんなへとへとになってゴールします。
ゴール直後。(Photo by Yukari TSUSHIMA)
しかし、ゴールした後には、サイクリストたちの明るい笑顔を見ることができます。現役時代には決して見ることができなかったであろう、たくさんの笑顔です。
今年このレースを制したのは、ETXEONDOチームで、彼らの優勝タイムは45分19秒。昨年まで現役選手として走っていたHymer Zuberdia(ハイマー・ツベルディア)氏をメンバーに加えるという離れ業で、勝利をものにしました。
優勝したETXEONDOチームのスタート前。左から2番目がハイマー・ツベルディア氏(Photo by Yukari TSUSHIMA)
歴史と伝統と誇り
レース後のトンコフ氏と話すJoseba Beloki (ホセバ・ベローキ)氏(写真左) (Photo by Yukari TSUSHIMA)
今年、このイベントには92チームが参加しました。元プロ選手はもちろん、現役のプロやアマチュアのサイクリストも、みんなが参加できるイベントです。どの参加者も、このイベントを楽しむと同時に、サイクリストであることを心から誇りに思っています。
元プロのサイクリストたちは、このイベントを通じて、彼らの経験と歴史を直接若いファンたちに伝えます。中には、引退して数十年たっている人も少なくありません。しかし、彼らがひとたび自転車に乗れば、素人との違いは傍目にも歴然とわかってしまうのです。
スペイン自転車界の歴史や伝統と直接触れ合うチャンス、それがこのクラシカ・マリーノ・レハレッタというイベントなのです。