究極のオールラウンダー選手たちが競う陸上10種競技
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究極のオールラウンダー選手たちが競う陸上10種競技
2026年の5月8日から9日にかけて、カリフォルニア州アーバインで開催された大学陸上10種競技を観戦してきました。アメリカ西海岸の大学で構成される「Big West Conference(ビッグウエスト・カンファレンス)」の選手権大会(https://bigwest.org/tournaments/?id=150)です。
このカンファレンスの加盟校にはUCアーバイン、UCサンタバーバラ、UCサンディエゴ、ロングビーチ州立大学などが名を連ねています。アメリカの大学スポーツ界における位置づけでは、SECやBig Tenといった巨大カンファレンスほどの知名度はありませんが、それでもディビジョン1、2、3に分けられたうちのトップに相当する「1部リーグ」のひとつです。
10種競技選手は「キング・オブ・アスリート」と呼ばれます。陸上競技は大きく分けると「走る」「跳ぶ」「投げる」の3つに分類されますが、10種競技はそのすべてを高いレベルでこなさなければなりません。と、そこまでは聞いたことがあったのですが、実は10種競技を見たのは今回が初めてでした。
そもそも10種競技とはどんな競技なのか
10種競技は、2日間で10種目を行い、その合計得点で順位を競います。初日に実施されるのは100m走、走り幅跳び、砲丸投げ、走り高跳び、400m走の5種目。2日目には110mハードル、円盤投げ、棒高跳び、やり投げ、1500m走の5種目が行われます。
こうして書き並べるのは簡単ですけど、よくよく考えてみるとすごいことです。言うまでもなく、100m走では爆発的なスピードが求められます。砲丸、円盤、やりの投擲種目では筋力と技術が試されます。走り幅跳びや走り高跳びでは跳躍力と身体コントロール能力が必要ですし、棒高跳びは陸上競技でもっとも技術的に困難な種目に見えます。最後の1500m走はスピードに加えて持久力の勝負です。
100m走
走り幅跳び
それぞれの種目を専門とする、日本の有名選手を思い浮かべてください。たとえば、100m走の桐生祥秀、やり投げの北口榛花、1500m走の田中希実。3人の体格はまったく違いますよね。
今回出場していた10種競技選手は身長180〜195cm前後、体重80〜100kg程度に見えました。投擲選手ほどデカイ筋肉の持ち主ではなく、長距離選手ほど細身でもありません。スピード、パワー、持久力のすべてをバランスよく備えるとそうなるのでしょう。
砲丸投げ
走り高跳び
むろん体格だけではなく、10の異なる種目の技術力も高めなくてはなりません。一体どうやって練習しているのでしょうか。
ひとつの種目だけに突出していても勝てません。同時に苦手な種目があっても勝てません。すべてを平均以上にこなさないといけないわけですが、この場合の「平均」とは一般人の出す数字とはかけ離れています。100mを10秒台で走るとか、走り高跳びで2m越えるとか、やりを60m以上投げるとか、そういうレベルの話です。これはもうスーパーマンとかゴルゴ13とかの世界ではないか、と私などは思います。
見た目に分かりづらい得点の決まり方
今回の優勝者、ライアン・グレゴリー選手(ロングビーチ州立大学)の総合得点は7816点でした。それがどのくらいのレベルなのかがぱっとわかる人はかなり陸上競技に詳しいですね。分かりやすく言えば、オリンピック参加標準記録の8460点には届きませんが、日本記録歴代ランキングに当てはめればトップ10に近い数字です。
もっと一般的にイメージしやすい例を挙げましょう。「百獣の王」の愛称で知られる武井壮さんは日本選手権優勝経験を持つ元10種競技選手ですが、自己ベスト記録は7606点でした。グレゴリー選手の記録はそれを上回りました。
それでも全然分からないじゃないかと思われるのは当然です。上の数字からは100m走10秒切りとかマラソン2時間切りのような具体的なすごさが見えてこないからです。
400m走
110mハードル
10種競技の順位は個々の種目のタイムや距離ではなく、「合計得点」によって決まります。各種目には国際陸連が定めた換算表があり、記録に応じてポイントが与えられます。たとえば100m走を11秒0前後で走れば800点台、走り幅跳びで7mを超えれば800点台後半、やり投で60m以上を投げれば700点以上といった具合です。
10種目それぞれで700〜900点を積み重ねることができれば、合計得点は7000〜8000点台に達するというわけです。
複雑ですよね。私はむろん知りませんでした。ある種目で1位になっても、得られる得点は記録によって異なります。観戦している側からすると、誰がどの程度に勝っているのかが直感的に分からないのです。
10種競技の選手は「キング・オブ・アスリート」と呼ばれますが、一般的な知名度はそれぞれの種目専門選手に及びません。きっとその「見る側にとっての分かりにくさ」がネックになっているのでしょう。
円盤投げ
2日間という長丁場の戦い
もうひとつ、10種競技を現場で観戦して驚いたのは、その競技時間の長さでした。
午前中から始まり、夕方に終わります。1日だけでも5時間以上、それが2日間続くのです。
各種目の間には30分から1時間程度の間隔があります。世界陸連のルールでは、原則として選手がひとつの種目を終えてから次の種目まで最低30分程度の間隔を確保することが求められています。また、1日目終了から2日目開始まで最低10時間以上の間隔をあけることになっています。
一見すると親切なルールに見えますが、実際に現場で見ると、この時間はけっして「休憩」と呼べるものではありません。むしろ回復と準備のための慌ただしい時間です。
棒高跳び
やり投げ
選手たちは補食や水分補給を行いながら、次の種目の準備を進めます。スパイクを履き替えるときもありますし、回復のためのストレッチを行うこともあります。次の種目に向けた特有動作のウォーミングアップは絶対に必要です。
100mを全力で走った直後に、走り幅跳びの準備を始めることになります。砲丸投げが終われば、今度は走り高跳び用の動きづくりを行います。身体を休めるどころか、常に次の競技へ向けて頭と身体を切り替え続けなければならないのです。
観客席から見ていて興味深かったのは、こうした休息時間の過ごし方にも選手ごとの個性が現れることでした。
静かに座って集中力を高める選手。コーチの指示を仰ぐ選手。仲間と会話しながらリラックスする選手。ウォーミングアップの強度や時間も様々でした。それぞれが自分なりの方法で長い2日間を乗り切ろうとしています。
10種競技では、走ること、跳ぶこと、投げることだけでなく、コンディション管理や精神面のコントロールも重要な能力なのだと思います。
そう考えると、休息時間も競技の一部なのです。そして観客にとっては、選手たちの素顔や戦略を見ることができる貴重な見どころでもあります。しかし、こうした部分はきっとテレビ中継には映らないでしょうね。
1500m走
10種競技の締めくくりは1500m走です。ただでさえ、非常にきつい種目です。
ところが、スタート時点で選手たちはすでに9種目を終えています。全身には疲労が蓄積し、筋肉は悲鳴を上げているはずです。その状態での1500m走。想像するだけできつそうです。
ただ走るだけではなく、順位を守るために一定のタイムが必要な選手もいれば、逆転を狙って攻めなければならない選手もいるのですから。
今回のレースでは、故障してしまっていることが明らかで、足を引きずりながら何とか走っていた選手もいました。
スピード、パワー、技術、ありとあらゆる種類の身体能力を鍛え上げている選手たちが、最後の最後で持久力と精神力を振り絞る姿に感動しない人はいないでしょう。私は感動しました。
10種競技は決してメジャーな競技ではありません。しかし、特別な敬意が払われるべき競技だと思います。人間がどこまで多様な身体能力を磨くことができるのか、その可能性を目のあたりにすることができます。
もし機会があれば、ぜひ一度10種競技を現場で観戦してみてください。競技そのものだけでなく、種目間の時間の過ごし方にも注目すると、この競技の奥深さがさらに見えてくるでしょう。

