『希望のトレーニング』ー現役アスリートから高齢者までを魅了する初動負荷理論
DO『希望のトレーニング』ー現役アスリートから高齢者までを魅了する初動負荷理論
イチロー(ニューヨークヤンキース・40歳)、山本昌(中日ドラゴンズ・49歳)、青木功(プロゴルファー・71歳)、中田有紀(陸上七種競技日本記録保持者・37歳)。日本スポーツ史に残る存在であり、一般的にキャリアのピークとされる年齢を大きく超えた今でも現役で活躍しているアスリートたち。
“長きに渡ってトップパフォーマンスを維持している彼らは、とにかくストイックに厳しいトレーニングに励んでいる”…そんなイメージがあるかもしれない。しかし80代の高齢者や麻痺などの機能障害を負った人が、彼らと同じトレーニングをしているという事実をご存知だろうか。
しなやかな体を作る“初動負荷トレーニング”
『希望のトレーニング』では、トップアスリートから80代の高齢者という幅広い層に取り組まれている“初動負荷トレーニング”が、同トレーニングに取り組む人々や創案者である小山裕史氏のインタビューを通して紹介されている。
初動負荷トレーニングとは「独自のマシーンでリラックスした状態で体を動かすことで関節の可動域を広げ、柔らかくてしなやかな体作りをすることを目的としたトレーニング」のこと。しなやかな体を作るのでケガの回復や予防、老化防止の効果も高い、とされている。マシーンの負荷は非常に軽いため、高齢者や体に麻痺などの機能障害がある人でも動かすことができる。
筆者も首都圏内の同トレーニングができる施設に通っているが、マシーンを動かしても筋肉や関節にストレスはかからず、トレーニング後は驚くほど体が柔らかくなり、楽に動くことができるようになる。渾身の力を込めて重たいバーベルを持ち上げ、翌日には激しい筋肉痛に襲われる従来のウエイトトレーニングとは一線を画すトレーニング方法と言えるだろう。
トップアスリートの“最盛期”を伸ばす
インタビュー集である本書は4部構成となっており、第3章までは冒頭で名前を上げたアスリートたちや病気による機能障害から回復した人たちが、初動負荷トレーニングに取り組むことで起きた身体的・精神的な変化やそれにより得ることができた「希望」について、それぞれの体験を踏まえながら語っている。
求めてはいたけれど、そんなものは存在しないと思っていたものが、実際に存在した。という感覚です(イチロー)
上記のイチローのコメントは、1999年に初めて初動負荷トレーニングを体験した時の衝撃を言葉にしたもの。従来のウェイトトレーニングによって体が硬くなり、動きのキレを失ってしまうことに違和感を覚えていた彼は、その後15年間、小山氏と二人三脚でキャリアを歩み、日本とアメリカで次々と前人未到の記録を達成していく。今年41歳となるイチローだが筋肉系のケガで故障者リストに入ったことは一度もない。
正直言って、肩や肘が痛くなる、投げられなくなるというのを、ここ十年くらいまったく心配していないです(山本昌)
山本昌は初動負荷トレーニングによる成果をこう語る。一般的には現役でいることすら難しい40代を迎えてもなお、一線級のプレーを続けている球界のレジェンド2人が揃って初動負荷トレーニングを「必要不可欠なもの」としているのは、野球ファンでなくとも興味深い事実だ。
リハビリやエイジングケアに効果を示す
また本書で最も印象的なのが、多くのトップアスリートに支持されている初動トレーニングが、機能障害のリハビリや高齢者のエイジングケアにも大きな効果を示しているという部分だろう。
もしアスリートに有効なトレーニングがあるとすれば、それは機能麻痺の方々の機能が改善できるトレーニングだと言えます(小山裕史)
交通事故で体の麻痺と記憶障害を負った方や脊柱の病気を患い右脚が麻痺した方が、初動負荷トレーニングにより体の機能を取り戻した事例が本人や家族のインタビューとともに紹介されているが、そこで語られている内容には多く人が深い関心を覚えるはずだ。
小山氏によれば、初動負荷トレーニングで筋肉をしなやかにして良い姿勢や動作を保つことは、脳機能や神経機能にも良い効果を与えるそうだ。鳥取にあるワールウィングの本部ではこのような事例がいくつもあり、18年間、鳥取の施設に通っている山本昌は「歩けなかった人が走っても僕はびっくりしません」と語っている。
背景の違うスポーツマンだからこそ普遍的なトレーニングを
読み進めていくと「希望のトレーニング」というタイトルの所以がわかる。プロのアスリートでも体に障害を負った人でも80代のお爺ちゃんお婆ちゃんでも、体が今より動くようになることは楽しいのだ。明日は今日よりも体が良くなるかも、もっと楽に動けるようになるかも。初動負荷トレーニングに取り組む人々はそれぞれ背景は違っていても、そんな普遍的な希望を手にしている。
良くなることが喜びで、希望そのもの(小山裕史)
競技力向上に悩むアスリートも体に不調を抱える人も、興味のある方はぜひ店頭で手に取ってみてほしい。
INFORMATION
『希望のトレーニング 彼らは初動負荷で何を見つけたのか』
著者:編集/講談社 監修/小山裕史
著者プロフィール:小山裕史/早稲田大学大学院人間研究科博士課程修了。1981年にワールドウィング(現・株式会社ワールドウィングエンタープライズ)を設立し、1994年に初動負荷理論を創案。同理論に基づくトレーニング方法で多くのプロ・アマスポーツ選手の指導に当たっている。現在、株式会社ワールドウィングエンタープライズ代表。
定価:本体950円+税
発行:講談社
URL:https://www.facebook.com/kibounotraining