リバプールFCで働く日本人コーチの「欧州流・ジュニアサッカーコーチング」

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リバプールFCで働く日本人コーチの「欧州流・ジュニアサッカーコーチング」

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香川真司や長友佑都のように、海外のビッククラブで活躍する日本人サッカー選手は年々増えています。日本でも連日その活躍が伝えられ、サッカーファンなら彼らのことを知らない人はいないでしょう。それでは、この世界的に有名な名門クラブで活躍する日本人を知っていますか?

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イングランド・プレミアリーグのリバプールFC。UEFAチャンピオンズリーグやFAカップをはじめとする、数々のワールドタイトルを獲得している名チームです。日本育ちの宇治誠さんは、そのリバプールFCでサッカースクールのコーチとして働いています。UEFAのコーチライセンスBを所有し、8歳から14歳までを対象としたジュニア年代を担当している宇治さんに、日本とは異なる子どもたちへのサッカー指導のアプローチを聞きました。

大切なのは「自由な発想を表現するための環境づくり」

ー宇治さんはリバプールFCのジュニアコーチとして、どんなところにいちばん気を使っているのでしょうか。

「ジュニアのコーチが一番気にしなければならないのは、『子ども』が相手だということです。子どもはまだまだ発展途上であり、単純に大人の物差しで測ってはいけないと思います。怒ったり、指示を出し過ぎてしまったりすると、彼ら独自の発想でプレーする機会を奪ってしまいます。こちらの意図通りに動いてくれたとしても、本当に必要なことを子どもが学べていないまま、単に指示を全うしている状態になってしまう危険性があるんです。本当に学んでほしいことは、試合中に起こりうることへの柔軟な対処と適応能力であり、それを彼ら自身の表現方法で試合中に実行することです」


ーでも子供に自由を与えすぎてしまうと、チームの練習が成り立たなくなることもあるのでは?

「子どもたちは子どもたちなりにいろいろと考えて、練習に取り組んでいるものです。その道筋をシンプルにかつ分かりやすく示してあげると、彼らの自主性がいい方向に向かうと思います。大人と違ってプレー中の発想が奇抜で、練習中も常に指示したルールの抜け道を見つけて、こちらが予想してなかったプレーを始めることが多々あります」

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ーそれは例えばどんなことでしょうか。

「パスをテーマにしたゲーム形式の練習で、ドリブルをしたがる子どもがいるとします。そんなときは『ドリブルをしないで、パスをしよう』と言うよりも、その子だけに特別なルールとして、『君のドリブルが上手なのはわかったよ。じゃあ、今度は2タッチ以内でプレーできる?』とチャレンジをさせてみると、その特別ルールをこなすためにいろいろと考えて楽しみはじめるんです」

ー子どもたちの自主性をきちんと尊重してあげることが肝心なのですね。

「それによって子どもたちの自由な発想を、そのままサッカーの楽しさにつなげていくことが可能だと思います。コーチとして大切なのは、サッカーのあらゆる要素を自分自身の力で発見できるような環境をつくることだと信じています」

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子どもといえども一人の選手として接する

ー子ども同士のゲームでは時としてプレーが激しくなり、衝突する場面も見られます。

「イングランドでは、激しい衝突に強い選手が観客から好まれます。例えば、リバプールFCのスティーブン・ジェラードという名選手が激しいスライディングタックルをすれば、それを熱心に見ていた子どもが真似をしたくなるのも当然ですよね。イングランドの場合は、特にこうした激しいプレーを多くしがちですが、それを避けるようなことはしません。なぜならサッカーにフィジカルコンタクトが付き物だからです」

ーでは子ども同士のフィジカルプレーにおいて、コーチとしてはどのように対応したら良いのでしょうか。

「プレーを行う判断と状況を見極める方にコーチ陣は力を注いでいます。『子どもだから安全なサッカーを』と型にはめることはせず、年齢に関係なくプロ選手と同じように接する。子どもといえども一人の選手として接することで、サッカーの楽しさと奥深さを伝えていくことが可能になると思います」

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選手でなくても「海外サッカーへの道」はある

ーでは宇治さんはどんな経緯でコーチを目指すことになったのでしょうか?

「僕も小学校から大学まで、日本でプレーを続けていました。でも高校に入学したとき、プロのサッカー選手になるのは無理だと気づきました。でもずっとサッカーに関わっていたいと思い、それで目指したのがコーチ、つまり選手をサポートする側です」

ーコーチは元プロ選手だった方がやることも多いと思いますが、プロの道を辿っていない宇治さんが、リバプールFCという名門クラブでコーチをすることができたのはどうしてなのでしょうか?

「プロの経験が無い人がコーチとしてやっていくには、プロ選手としての経験を補うものが必要だと思います。どういう物で補えるのかを考え、当時確立されつつあったスポーツ科学の分野に白羽の矢を立てました。それからスポーツ科学で有名なイングランドのジョン・ムーアズ大学を知り、英語を学び、留学して現在は同大学院の博士課程に通っています。こちらに来ていなければ、どこのプロサッカークラブでも、コーチをすることもままならなかったと思います」

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プロ選手の経験がなくとも、名門クラブの一員として、大好きなサッカーと世界で関わることができる。サッカーの楽しみとその可能性を、身を持って教えてくれている宇治さんの活躍は、日本のみならず世界中の子どもたちに勇気と希望を与え続けていくでしょう。

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