プレミアリーグ2019-20シーズン 活躍する新戦力が少ないのはなぜ?
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夏のトランスファーマーケットの締め切りを、開幕直前に前倒しして2シーズンめとなるプレミアリーグ。大型補強に成功したクラブが上位に並ぶのが当たり前だったリーグに、ちょっとした異変が起こっています。
首位リヴァプールは、負傷した守護神アリソン・ベッカーの代役として起用されたアドリアンが8試合に出場しただけで、フィールドプレーヤーの出番はゼロ。2位に躍進したレスターでレギュラーポジションを獲得したのは、11戦3ゴールのアジョセ・ぺレスのみです。
3位チェルシーは、補強禁止処分により冬に押さえていたクリスティアン・プリシッチが、9試合5ゴールと孤軍奮闘。マンチェスター・シティもまた、中盤センターのロドリが唯一の主力となっています。
例年より新戦力が活躍していないのはなぜでしょうか。各クラブの戦力事情をチェックしてみました。
メイン写真 photo by Кирилл Венедиктов
「買えないけど売れる」3週間の弊害
プレミアリーグ2019-20シーズンの補強の締め切り日は、8月8日。これを過ぎると、新たな選手を買うことができなくなります。
一方、欧州各国のリーグは、8月末までマーケットが開いているため、デッドラインデーを過ぎても他国でプレイしたい選手が出ていく可能性がありました。
スペインやドイツ、イタリアの強豪クラブとの獲得競争となれば、締め切りが早い国のクラブは足元を見られがちです。ビッグネーム獲得には、慎重にならざるをえず、売却予定の選手の金額交渉が不調に終わったり、レンタルで妥協するケースも目立ちました。
スペイン代表で、ブスケツの後継者として期待されているロドリ(中央)は、マン・シティでアンカーに定着(PHOTO by Rolandhino1)
「買えないけど売れる」3週間の存在は、想像以上にプレミアリーグのクラブを苦しめたようです。スケジュールの前倒しによって、ただでさえ交渉期間が短いのに、出ていくかもしれない選手を想定しながら手探りで補強しなければなりません。
2019-20シーズンの投資額ランキングは、1位マンチェスター・シティ、2位マンチェスター・ユナイテッド、3位アーセナルとなっていますが、出費を惜しまなかった彼らでさえ、満足な戦力増強ができたとはいえませんでした。
不振のクラブの戦力収支はマイナス?
ペップのチームは、ベルギーに帰ったヴァンサン・コンパニの代役を獲得できず。マン・ユナイテッドは、前線で獲得したのがトップリーグ経験がないダニエル・ジェームズだけとなり、ルカク、アレクシス・サンチェス、エレーラといった放出選手の穴は埋まっていません。
最終ラインのハリー・マグワイアとアーロン・ワン=ビサカは、納得の補強でしたが、攻撃力が落ちたチームは、12節終了時点で4勝4分4敗の7位と苦しんでいます。
ダヴィド・ルイスは、マーケットの最終日にチェルシーからアーセナルへ(PHOTO by Amir Hosseini)
エメリ体制が2年目となるアーセナルもまた、戦力の収支計算はマイナスといっていいでしょう。即戦力補強は、ニコラ・ペペ、ダニ・セバージョス、ダヴィド・ルイスのみ。マルティネッリは、将来への投資で、ガブリエル・ティアニーは負傷しているのを承知で獲った選手です。
チェフ、アーロン・ラムジー、ヘンリク・ムヒタリアン、アレックス・イオビ、ダニー・ウェルベック、ナチョ・モンレアル、ローラン・コシールニーと、従来の主力を大量に放出したクラブは、開幕から即座にフィットしたのがダヴィド・ルイスひとりでは苦戦必至です。
9節から4戦連続勝利なしのチームは、4位との差が8ポイントに広がり、チャンピオンズリーグ出場権獲得に黄信号が点滅しています。
移籍を熱望しているといわれていたトッテナムのエリクセンと、クリスタル・パレスのザハは、噂になっていたクラブとの話がまとまらずに残留となりました。
昨季プレミアリーグで、8ゴール12アシストのエリクセンは、12節までで10試合1ゴール1アシストと貢献度が下がっており、10ゴール5アシストだったザハは未だゴールがありません。
エリクセンの停滞やキーラン・トリッピアーの後釜を獲らなかったことと、トッテナムの不振は、リンクしているものと思われます。
補強成功のクラブと売り出し中の新戦力をチェック!
新チームになじむのに時間がかかっているニューフェイスが多いなか、補強に成功したクラブや、主力として活躍している選手も存在します。
リーグ4位の1億4860万ユーロ(約186億円)を10人の新戦力獲得に費やしたアストン・ヴィラFCは、ウェズレイ、トレセゲ、ヒートンがレギュラーとして活躍中。
レンタルから完全移籍に移行したタイロン・ミングスとランスから獲ったエンゲルスのCBコンビも奮闘しており、先発10試合以上の新戦力が複数いるのはマンチェスター・ユナイテッドと彼らだけです。
「冬のマーケットで移籍する」というゴシップが絶えないエリクセン(PHOTO by Дмитрий Голубович)
個々の選手に目を移すと、ウェストハムのFWセバスチャン・アレは既に4ゴールをゲット。エヴァートンに移籍したイオビも、マルコ・シウヴァ監督の信頼を得ています。
ニューカッスルのサン=マクシマンは、プレミアリーグNo.1のドリブラーをめざせる逸材で、既にその片鱗を見せ始めています。クリスタル・パレスに入団したガリー・ケーヒルは10試合に先発。ブライトンで4ゴールのムペイや、ボーンマスの中盤に定着したビリングは、今後が楽しみな若手です。
ジオヴァニ・ロ・チェルソ(トッテナム)、ペドロ・ネト(ウルヴス)、モイーズ・キーン(エヴァートン)といった期待のヤングスターは、プレミアリーグになじめるでしょうか。大物が取りづらく、余剰戦力の売却も難しくなったために、多くのクラブが開花したばかりの若手獲得にシフトした感があります。
「移籍締め切りを元に戻すべき」「欧州全体で調整を」と、さまざまな議論が勃発しておりますが、来季のレギュレーションはどうなるのでしょうか。
強豪といわれるクラブが続々と不振に陥っているのは、この話ばかりが理由ではありませんが、それぞれができるだけ納得のいくチームづくりをできる環境を再構築していただければと思います。