Brexitに危機感を高めるプレミアリーグのクラブ経営陣たち

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Brexitに危機感を高めるプレミアリーグのクラブ経営陣たち

スポーティ

2017年3月28日、イギリスのメイ首相がEU離脱意思を通告するTEU条約(Treaty on European Union)の50条に基づき、書簡にサインして離脱交渉をスタートさせました。イギリスとしては、EU離脱派が主張していた「移民に仕事を取られている」状況を改善すべく受け入れを抑制し、一方ではEUとの自由貿易はキープする「ソフト・ブレグジット」をめざしてはいるものの、最終的にどう決着するかは不透明です。この状況に対して、マンチェスター・ユナイテッドのクリフ・バティCFOが、プレミアリーグが競争力を失う可能性があると警鐘を鳴らしました。

「EU諸国は16歳の選手を獲得でき、われわれは18歳まで待たなくてはならないとすればレアル・マドリードやバルセロナと争えない」「選手たちがユーロ建てでサラリーを支払うように要求している」。大陸の優秀な選手を獲得しにくくなることと、「国内でポンドで収益を得て、海外にユーロで払う」構造のなかでポンド安による損失が拡大するというのがバティ氏が唱える懸念材料です。
メイン画像:PHOTO by joshjdss

FAとクラブの間に横たわる大きな溝

最も大きな懸念は、クラブが選手を自由に獲得できなくなることでしょう。「Brexit would trigger a battle between the Premier League and the FA over the future of the game(Brexitは、プレミアリーグとFAの将来のバトルを引き起こすきっかけになるかもしれない)」。イギリスメディア「インディペンデント」は、クラブとFA(イングランドサッカー協会)の描く未来像にギャップが生じていることを問題視しています。イングランド代表が成功を収めるために、自国出身の選手の出場機会を増やしたいFAは、Brexitを利用して外国人選手の獲得を制限する方向に舵を切る可能性があります。
一方、プレミアリーグのクラブがめざすのは、「熾烈な競争に勝つために、国籍を問わず最高のチームを作ること」。イギリスがEUを離脱した後も、現状のルールのままでEEA(=欧州経済領域。EUに加えてアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーといった「EU非加盟・EFTA加盟国」を含む枠組み)の選手たちを自由に獲得できることを望んでいます。


「17歳だったディ・マリアは労働許可証を取得できず、われわれは獲得を断念した」と語るヴェンゲル監督は、以前から国籍を問わず選手を自由に獲得できるようにしてほしいと要求していました(PHOTO by Jan S0L0)

現在、イギリス内務省は、非EU/EEA選手に対して就労ビザ申請の前にFAの承認(GBE=governing body endorsement)を受けるよう求めており、自動的に承認を得られる基準として「FIFAランク50位以内の代表選手のみ。1位〜10位の国は代表の公式戦の30%に出場、11位〜20位は45%、21位〜30位は60%、31位〜50位は75%」という厳しい基準を敷いています。
これに当てはまらない選手には、個別に審査するレビューシステムが用意されているのですが、こちらの承認基準は移籍金やサラリーの金額などとなっています。BrexitによってEU/EEAの選手もGBEが必要となり、代表試合数や移籍金の額などをチェックされるとなると、ディミトリ・パイェやエンゴロ・カンテのような「移籍金が安い各国代表未経験選手の発掘」ができなくなります。EU離脱が確定する2019年3月以降に、自国選手保護を唱えるFAがルールや運用を厳格化すると、プレミアリーグのクラブから強い反発が起こるのは避けられません。


プレミアリーグでの活躍が評価されてフランス代表に呼ばれるようになったエンゴロ・カンテ(PHOTO by @cfcunofficial (Chelsea Debs) London)

若手選手の獲得ルール変更で失うもの

前述のバティCFOのコメントにあった「18歳まで待たなければならない」という話は、FIFA(国際サッカー連盟)のルールが18歳未満の選手の青田買いを禁止しているのに対して、EU/EEAは特例として圏内における16歳以上の選手の獲得を認めていることを指しています。プレミアリーグがこのルールを失うと、セスク・ファブレガスやエクトル・ベジェリンのような「外国籍のホームグロウン選手」が出てこなくなります。「インディペンデント」は、一例として「今季、マンチェスター・シティとチェルシーで争われたFAユースカップファイナルには、スペイン、オランダ、スウェーデン、ポーランド、スイスからアカデミーに参加した選手たちがいた」と指摘しています。

若い選手を安く獲得してアカデミーで育て、ファーストチームに送り出したり他クラブに高く売ったりするスキームを確立しているチェルシーは、ルールが変更されればクラブ経営戦略の変更を余儀なくされます。クラブ経営陣が憂慮する競争力の低下は、チームや選手のレベルを指すのみでなく、潤沢な資金を投資して築いてきたアカデミー運営による経営的なアドバンテージを失うことを意味しているのです。


16歳のときにバルセロナからアーセナルのユースチームに加わったエクトル・ベジェリン(PHOTO by Ronnie Macdonald)

FAとクラブの言い分は、どちらが妥当か?

「EU加盟国の特例撤廃を機に、外国人選手が減って自国選手の出場機会が増えればイングランドは強くなる。自国選手の活躍を喜ぶファンはスタジアムに足を運び、魅力的な選手たちによるハイレベルなサッカーを展開できればテレビ放映権料は維持できる」というFAの目論見に対して、「EU加盟国の特例を失い、さらに制限が強化されれば大陸の若い選手やスター選手を集められなくなり、プレミアリーグは経済的にもサッカーにおいても競争力を失う。レベルダウンによってファンがスタジアムから離れ、テレビ放映権料が下落すれば経営的ダメージは大きい」というのがクラブの言い分。果たして、どちらが妥当なのでしょうか。

「インディペンデント」によると、「2014年にプレミアリーグの英国人選手は32%だったが、FAは2022年までに45%に増やしたいと語っていた。3年経った現在、英国人は33%をわずかに上回る程度」とのこと。この数字から判断すると、「FAが掲げる目標に到達するには急激かつ厳格な外国人選手制限策が必要。これはクラブを混乱・疲弊させ、全体のレベルダウンを招く」可能性が高く、外国籍選手が減ることに危機感を募らせている側に分があるのではないかと思われます。Brexit自体の着地とプレミアリーグにおけるルール改変について、熱狂的なフットボールファンはソフトランディングを願っているのではないでしょうか。

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