VAR登場によりカルチョ新時代到来!その変化をデータでチェック
WATCHVAR登場によりカルチョ新時代到来!その変化をデータでチェック
イタリア・セリエAでは、今シーズンからビデオアシスタントレフェリー(以下VAR)が導入されました。導入から3ヶ月を経過した10月のインターナショナルマッチウィーク中に、Sky SportでVARに関する特別番組が放送されました。イタリアサッカー協会審判部のVARプロジェクト責任者であるロベルト・ロゼッティ氏が登場し、54分間の熱のこもったプレゼンが生放送されました。番組中に発表されたさまざまな統計データから、今後のセリエAに訪れるであろう変化を考察します。
「正しく、美しいカルチョ」実現のために
VARが目指すのは「正しいカルチョ(イタリア語でサッカーの意)の実現」と「レフェリングから重大なエラーを取り除くこと」。それでいて「ピッチ内に渦巻くあらゆる情緒を妨げず、カルチョの美しさを壊さないこと」にある。
番組冒頭でVAR導入の目標をこう語ったロゼッティ氏。ゴールなのか違うのか、ペナルティエリア内でファウルが起こればそのプレーはPK対象なのか、はたまたファウルを犯した選手は一発レッドのみ値するのかしないのか…などを確認する必要があります。的確にかつスペクタクルの妨げにならないよう迅速に、主審には新たなミッションが課されることになったのです。
テクノロジーの役割とは?
序盤からロゼッティ氏が強調したのは、「あくまでVARはテクノロジー」であるということ。テクノロジーをどう駆使するかは、ピッチ上でしっかりと目を配り、選手と向き合い対話を重ねる主審が決めることであることを訴えていました。ヒューマンエラーを減らすことがVAR導入最大の目的であり、その成果は番組放送までに開催された全59試合の統計に表れていました。
昨シーズンまでは追加副審が入る5人制だったが、今シーズンからはピッチ上に3人+VAR専用スタッフ2人で審判団を編成(photo by Save the Dream from Doha, Qatar)
VARの見えない活躍
このVARシステム、各スタジアムの別室にて待機する審判チームが、複数のモニター越しにあらゆるプレーを監視することで成立しています。放送された日までに開催された59試合で、VARでのチェック対象となったプレー数は264例。このうち主審のジャッジが正しかったと確認されたプレーだけで246例、そしてオーバールール(主審がプレーを止め、ジャッジが覆るケース)が18例を数えたのです。
注目すべきは、このオーバールール18例のうち、13例がOFR(オン・フィールド・レビュー)、すなわち主審がピッチ脇のモニターで確認をしてジャッジ変更を決めたというところ。「あくまでジャッジの中心を担うのは主審である」という本来のビジョンに沿った試合管理がなされていることが証明されました。
Embed from Getty Images
モニターを使ったOFRでのチェック。映像を見た上で、あくまで判断を下すのは主審であることがVARシステム導入の鍵(photo by Alessandro Sabattini/Getty Images)
今シーズン終了までに112のミスジャッジが減るかも!?
オーバールール適用が18例ということは、単純計算で1節(合計10試合)につき3つのミスジャッジが消えたということ。この精度をキープしていけば、シーズン全38節を通して110〜112のミスジャッジがなくなることにつながります。ミスジャッジにより試合のスコアが動き、さらにそれぞれのチームの勝敗の分かれ目となることが多々ありましたが、その可能性を大きく減らすためのテクノロジーになりうることは間違いなさそうです。
テレビを見ているだけでは分からないVARを利用したジャッジも246例。可視化できない審判団の努力がミスジャッジを減らすことに繋がっています
VARのおかげでプレー時間はより長く!
続いて、ロゼッティ氏は選手のプレー環境の変化について言及。注目すべき数値はオンプレータイム。実際にボールが動いている時間の平均は、昨シーズン開幕直後6節までの平均と比べても51秒長くなっています(16-17シーズンは50分19秒、今シーズンは51分10秒)。また、アディショナルタイムも前後半合わせると19秒伸びており(16-17シーズンは5分17秒、今シーズンは5分36秒)、プレー時間は大きく増えています。
別室のモニタリングチームがいることで、主審が無駄な笛を吹く必要が減り、ミスがあった場合も副審やモニタールームのスタッフからVARを使用した確認要請があることで、レフェリングに自信が持てるようになったことが大きく、選手にとっても健全なプレー環境を作ることに繋がっています。
プレータイムが伸びることはスペクタクルの可能性を増やすことにもつながり、VAR導入の前向きな効果
選手たちの注意点
ピッチ上では判断できない微妙なファウル、オフサイドなどが起こった際、選手が審判に食い下がるシーンがよく見られます。しかし、当然今シーズンからは「VARを使ってくれ」とも言いたくなるはずですが、この種の発言はイエローカード対象となるようです。すでにルールブックにも追記されており、選手たちにもある程度の注意が必要になります。
また、OFRで主審がピッチ脇のモニターと向かい合っている時間に、両チームの選手およびスタッフが覗き込んだり妨害する行為があった場合にも、その度が過ぎると同じく警告対象となります。
OFR適用時は1分40秒の空白が生まれる
「審判がプレーを止めVAR使用を告知→モニターチェック→正式なジャッジを宣告」という一連の流れで、プレーが止まってしまう時間の平均は1分40秒と算出されました。主審のモニターチェックに要する時間の平均は54秒。例えばこれがペナルティエリア内のファウルの是非を問う時間であれば、キッカーは1分40秒待たされるわけです。
OFRを使用せず通常のPK宣告であれば、だいたい40〜50秒後にはペナルティキックのホイッスルが鳴るにもかかわらず、OFR適用のケースであれば2分近く待たされることになることになるーこんな状況では、プレーヤーもその集中力を持続するのはひと苦労のはず。
アルゼンチン期待の若手も苦しんだ「待ち時間」
事実、ユベントスのアルゼンチン代表FWディバラは、VAR適用により獲得したペナルティキックを2試合連続で決めることができませんでした。第7節アタランタ戦では84分、勝ち越しゴールになるはずだったはずだったペナルティキックをGKベリシャにストップされ、第8節のラツィオ戦では、ビハインドだった後半アディショナルタイムのキックをGKストラコシャがストップ。特にラツィオ戦では、ファウル宣告からペナルティキック実行までに要した時間は2分46秒とかなりのもの。チームとして2試合で勝ち点3ポイントを逃す事態になったことから見ても、この「待ち時間」は選手の心理状態に大きな影響を与えていることは明らかです。
Embed from Getty Images
ユベントスvsラツィオの一戦にてビハインドで獲得したPKをディバラは失敗(Photo by Omar Bai/NurPhoto via Getty Images)
ディバラが対峙した2分46秒が最たる例であるように、レフェリングの精度を高めるための空白が、時に大きく明暗を分けることになる可能性は今後もゼロにはできません。できることといえば、最終的なジャッジにたどり着くまでのより迅速なフローを作り上げること。そして、この種の変化に選手自身が適応していくことの2つ。
ヒューマンエラーを減らしつつ、よりクオリティの高いスペクタクルとしてのサッカーを期待して、VARが登場した今シーズンのセリエAの異名は誰が呼んだか「カルチョ2.0」。技術革新がもたらすサッカー界の新章は始まったばかり。「正しく、美しいカルチョ」の実現に向け、選手もファンも審判団も、しばらくはさまざまな試行錯誤を続けていくことになりそうです。
※補足
なお、VARはまだJリーグでの導入は行われていません(2018年に試験導入、19年より本格導入との報道もあり)が、今月10日に行われる日本対ブラジルの国際親善試合では導入がされるそうです。