女子総合格闘技団体DEEP JEWELS佐伯繁代表インタビュー

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女子総合格闘技団体DEEP JEWELS佐伯繁代表インタビュー

スポーティ

近年盛り上がりを見せている女子格闘技。昨年の大晦日に開催されたRIZINでも全11試合中、3試合、女子の試合が組まれました。その中でも女子の試合のみの興行を行うなど、女子格闘技人気を牽引する、DEEP JEWELSは今勢いがあるKINGレイナ選手や浅倉カンナ選手が参戦しています。今回はDEEP JEWELS代表の佐伯 繁氏にお話を聞きました。


石岡沙織選手 VS 浅倉カンナ選手

プロカメラマンであった経歴を活かして、今でも試合のパンフレットは撮影から文章を書くところまで全部手がけているという佐伯氏。女子総合格闘技に携わることになる経緯、そしてDEEP JEWELS旗揚げから、現在の取り組みまで聞きました。

様々な仕事をする中で、たどり着いた総合格闘技

ーー佐伯さんは、プロのカメラマンとして活動していたそうですが、他にはどんなことをしていたのでしょうか。

もともとコマーシャルフォトのカメラマンで雑誌の撮影をするスタジオで働いていました。22歳の時にフリーのカメラマンになり、あるキッカケで雑誌の制作会社を立ち上げることになりました。最終的には会社は130名規模、カメラマンの弟子は50名を抱えるほどに大きくなっていました。

その後は、当時流行っていたファミコンショップ3軒と、バー、焼き肉鍋屋、そして服屋も経営していました。

ーーそこから格闘技にたどり着いた経緯を教えてください。

僕が小さい頃はプロレスがとても人気で、僕自身も大好きでした。たまたま会社を経営し始めた頃に、名古屋に巡業にきたプロレス団体のチケットを買ったりして、繋がりができたことがキッカケで、小さなプロレス団体の売り興業(プロレス団体から試合を主催する権利を買い、興業を行うこと)をやり始めました。これはほぼ趣味です(笑)。

そういった縁もあって、総合格闘技団体「パンクラス」に所属していた謙吾選手の写真集を撮影することになりました。怪我から復帰までの間を全て写真に納めるという企画です。彼に密着しているうちに、プロレスより総合格闘技の魅力に、はまっていきました。

そこでパンクラスの船木誠勝氏とも出会い、自分たちでも興業を立ち上げてみようという話になってDEEPを立ち上げることになったのです。

ただその時点では、自分が納得できる興業を作り上げることができませんでした。その悔しさもあり、30歳の時に、DEEP以外の事業は売却して格闘技業界に入りました。

3億円の貯金をはたき、格闘技業界へ

ーー実際に格闘技業界に専念した当初は、どのような状況だったのでしょうか。

当時はPRIDEが全盛期だったこともあり、格闘技業界でやっていくことはそう甘いものではありませんでした。最初の3年で、3億あった貯金が底をつきました。簡単に消えていきましたね…。

そのタイミングでPRIDEから一緒にやらないかという誘いを受けて、新しいイベントであるPRIDE武士道を一緒に立ち上げることになります。そこからPRIDEとの仕事をしながら自団体の仕事も進めていくという形で回り始めました。

最終的にPRIDEもアメリカのUFCに買収されてしまい、K-1と一緒にDREAMというイベントを立ち上げたけれど、K-1も破綻してしまい…。

そこでRIZINが立ち上がって、新しい試みとして、女子の試合が増加していきます。JEWELSに所属しているKINGレイナ選手や、シュートボクシングのRENA選手などスター選手が生まれたことにより、今の女子格闘技人気に繋がりました。


KINGレイナ選手

ーーDEEP JEWELS立ち上げまでの経緯を教えてください。

もともと2001年にDEEPが旗揚げした時に、同じタイミングでスマックガールという女子格闘技団体が立ち上がりました。タレントの桜庭あつこさんが参戦したことでも話題になっていましたよね。

スマックガールが女子の大会を年に4回ほど、定期的に開催していました。その中で2004年に、しなしさとこ選手から、うちの男子の興行の中で試合を組みたいと言う相談を受けて、女子の試合を入れた興行を行いました。これが男子と女子の試合を合わせた日本で初めての興業でした。

その後も定期的にしなし選手の試合を組みながらも、渡辺久江選手やMIKU選手など、その時々で新たな主軸選手も生まれていきました。

しかし、スマックガールの経営は立ち行かなくなりました。その権利の一部を尾薗勇一氏が持つ形となり、2008年11月にDEEP JEWELSの前身となるJEWELSの旗揚げへと繋がります。同じ時期に僕も女子大会を立ち上げようと思っており、タイミングも合ったので、スーパーバイザーとして尾薗氏と共に立ち上げることになりました。

その後、2013年5月に尾薗氏が辞任を発表し、そのあとを引き継ぐ形でDEEP JEWELSを旗揚げしたのです。

女子だけの試合にこだわり、続けてきた意地

ーーDEEP JEWELSは女子だけの興行が特徴ですが、なぜ女子のみで行うのでしょうか。

DEEP全体で見れば、男子の興行に女子の試合を数試合、組むこともできます。でも、それではDEEP JEWELSの価値が下がってしまう。そのバランスは、立ち上げ当初から、ずっと意識しています。

もちろん中には、男子の興行の中で試合をしたいという選手もいます。RIZINはそういう形ですよね。男子の興行の方が、会場が大きく、お客さんも多いので、そこに出たいということです。今もDEEPとDEEP JEWELSの2ブランドを持っているので、男子の興行の中で試合をしたい選手と、女子だけの興業に出たい選手の選別が難しいところです。


KINGレイナ選手 VS クリスティーン・ハンデル選手

ーーこれまで経営が難航してきた女子総合格闘技興業を佐伯代表が引き継いだ形ですが、ここまで続けてこられたのは、なぜでしょうか。

DEEP JEWELS立ち上げから、なかなか採算が合わないため、正直、何度やめようと考えたか、自分でもわからないほどです。「採算が合わないのであれば、男子の興行に女子の試合を数試合入れる形で続けたらいいんじゃない?」という話は何度もされました。それでも続けてきたのは、簡単には降りれないという意地です。

ここ1年くらい、RIZINの影響もあってDEEP JEWELSの雰囲気がすごく良くて、観客の皆さんにも、満足して帰ってもらっていることが実感できています。「女子もこんな面白いんだ!」という声もありました。それは、女子のみの興行にこだわったからこその結果だと思います。

いつかはDEEP JEWELSで後楽園ホールを満員に

ーーDEEP JEWELSのイベントはどのような特徴があるのでしょうか。

DEEP JEWELSは、入場式、選手代表の挨拶から始まり、7試合で2時間ほどの興業です。男子だと選手数も多いため20試合で5時間くらいになる時もありますよね。そうなると、結局好きな選手しか見ない人が多いし、観客も休憩に出たり、途中で帰ってしまう人もいます。

しかし、DEEP JEWELSは試合が始まると誰も抜けたり帰ったりしません。試合数が少ないこともあるけれど、ひとつのパッケージとしてイベントができているから、最初から最後まで丸っと楽しんでもらえているのだと思います。

新宿FACEが超満員になって、心地が良い雰囲気に包まれる。DEEP JEWELSの世界観が出来上がってきています。

ーー演出面でのこだわりはありますか。

選手によってはコスチュームを工夫したり、踊って出てきたりもしますが、みんなが同じことやっても飽きてしまうので緩急をつける工夫をしています。

一時期は観客のお見送りイベントまでやったりもしました。バレンタインには全員に選手のサイン入りのチョコを配ったりね(笑)。これも毎回やると新鮮味がなくなるので、タイミングを考えて行なっています。

ーー男子と比べて女子の試合にはどういった魅力があるとお考えでしょうか。

初めて観る人には、まず、「女の子がこんなことやってるの!?」という驚きがあると思います。怪我をする可能性も高い格闘技を、女子がやっているというギャップですよね。そして試合を通じて、彼女たちが頑張っている姿をみてもらいます。もちろん、ビジュアル的に花がある選手に惹かれて観に来る人もいます。しかし、お目当の選手だけでなく、会場で新たに知った、他の選手も応援してくれています。


宗田智美選手 VS モモ選手

ーー女子の格闘技選手のマネジメントをする上での難しさは、どんなところにありますか。

芸能界と同じで、結婚や出産のタイミングで試合から離れてしまう人が多いところです。もちろん、復帰してママさんファイターとしてリングに戻って来る選手もたくさんいます。けれど子育てや家庭のこともあるので、独身時代の打ち込み方とは変わってくる。そこは男子にはない難しさがあります。

ーー今後の目標を教えてください。

いつかはDEEP JEWELSで後楽園ホールでの興業を成功させたいと思っています。昔は続けることに必死で、先のことまで頭が回らない部分もあったけれど、やっと先を見据えて勝負をかけてみたいという気持ちが出てきました。


インタビュー:萩原拓也(Sportie編集部)
文・インタビュー中写真:五十嵐万智(Sportie編集部)

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