メジャーのキャンプ地で行われるオヤジたちの夢の祭典。草野球ワールドシリーズ。
WATCHメジャーのキャンプ地で行われるオヤジたちの夢の祭典。草野球ワールドシリーズ。
2018年のメジャーリーグは、ボストン・レッドソックスの5年振りのワールドシリーズ優勝で幕を閉じました。長いレギュラーシーズンの後に、勝ち進んだ10チームによって争われるMLBのポストシーズンは、1か月にも及びます。
全米の野球ファンが熱狂するこの10月は別名「オクトーバー・マッドネス」とも呼ばれています。
ところで、毎年その「オクトーバー・マッドネス」とほぼ同じ期間に、アリゾナ州フェニックス近郊で、もう一つの「ワールドシリーズ」が進行していることはあまり知られていません。
Men’s Senior Baseball League (MSBL)という全米組織が主催するアマチュア野球チームのトーナメント、いわば草野球のワールドシリーズです。3年前には、メジャー通算354勝を誇る伝説の「ザ・ロケット」ロジャー・クレメンス元投手が参加して話題になりました。
全米各地から集まった野球狂オヤジたちの熱い戦いを現地取材を交えてご紹介します。
6日間で最大8試合。甲子園よりも過酷なスケジュール
このMSBLワールドシリーズは、年代別に細かく部門が分かれています。25歳以上の部に始まり、30歳以上、35歳以上、と5歳刻みで部門があり、最年長部門だけが73歳以上になっています。ここだけ5歳刻みではなく3歳なのは、75歳以上ににするとさすがに選手が集まらないからでしょうか。
そうして分けられた部門の数は、12にもなりますが、それでもなお1部門内に20以上のチームが集まることも珍しくありません。それぞれの部門の大会開催期間は、6日間となっています。
最初の4日間で予選リーグ、残りの2日間で上位チームだけの決勝トーナメントというWBCやサッカーのワールドカップと同じ形式です。最後まで勝ち残ったチームは、予選リーグと決勝トーナメントを合わせて、6日間で7~8試合を戦うことになります。
あの甲子園大会でもダブルヘッダーまではありません。この過酷な日程をオヤジ達がこなすわけですので、当然ながらケガ人が続出します。クレメンス氏が参加したときも、元々は1日だけの友情出場のつもりだったのに(チームに友人がいた)、ケガ人が何人か出て、人数が足りなくなり、抜けるに抜けれなくなったよと当時のインタビューで答えていました。
メジャー春季キャンプ施設が密集するフェニックス近郊
それだけ多くの試合が同時進行で行われることを可能にするのは、アリゾナ州フェニックスという場所のおかげです。
メジャーリーグの春季キャンプは、全30球団のうち半分の15球団がフロリダ、残り半分の15球団がアリゾナに集まり、春季キャンプ期間中だけのリーグを形成します。フロリダが「グレープフルーツ・リーグ」、アリゾナが「カクタス・リーグ」と呼ばれ、それぞれのリーグ内でオープン戦を行います。ちなみにカクタスとはサボテンのことです。
つまり、メジャー球団の半分の15チームが毎日オープン戦を行うだけの数の球場が、このアリゾナ州フェニックス近辺にあるのです。
MSBLワールドシリーズは、そのメジャーリーグ施設で行われます。全米各地からアリゾナまで遠征するに必要な1週間以上の休暇を取り、人によっては家族からも呆れられ、それでもこの大会に参加する人達のモチベーションは、メジャーリーガーと同じ球場で野球ができるということが多くを占めます。
大谷翔平と同じフィールドに立った草野球オヤジ達
大会最終日の11月3日、60歳以上の部と45歳以上の部の決勝戦を取材しました。両試合が行われたのはロサンゼルス・エンゼルスの施設、テンピ・ディアブロ・スタジアムです。約1万人を収容できるメイン・スタジアムに練習用フィールドが6面隣接しています。その内のスタジアムに近い2面をメジャーが使用し、他の4面を3Aからルーキーリーグまでのマイナーチームが使用します。
決勝戦が行われたのは、勿論メイン・スタジアムです。あの大谷翔平選手もマイク・トラウト選手もここでプレイしました。違うのは、MSBLワールドシリーズには、観客がほとんどいないことです。選手の家族が数10人ぐらいでしょうか。当然、入場料もタダです。
スタンドはガラガラでも、プレイしている選手達は、真剣そのものです。ダウアウトにいても椅子に座っている選手はほとんどいません。皆フェンスにかぶりつきで声援を送っています。打撃も守備もかなりのレベルにあるように見えますが、やはり少し脚にふらつきが若干感じられます。
審判も主審に塁審2人の3人制。たとえ誰も聞いていなくても、打席に立つ選手の名前だってきちんと場内アナウンスされます。
この日60歳以上の部で優勝したのは「Rhode Island Salty Dogs」。ロード・アイランドと言えば、米国東海岸の州なのですが、なぜか選手達の殆どが中南米系の人達で、スペイン語で話しています。不思議に思い、試合後に選手の一人に尋ねてみました。
実際にロード・アイランドに住んでいるのは、3人だけで、後はその3人の友人や親戚などを母国プエルトリコから呼んでいるんだということでした。さすがは野球強国です。
このチーム、今年で8連覇を果たしたのですが、8年前は45歳以上の部にいたそうです。チームの中心となる選手の年齢層が上がるにつれ、参加する部門も上がっていったと笑っていました。
優勝を喜ぶRhode Island Salty Dogsの選手達
オヤジ達を狂わせる野球の魔力
一般的には、アメリカでの草野球は、日本ほど盛んではありません。アメリカには軟球というものがありませんので、大人の草野球ももちろん硬球です。
当然ボールが当たると痛いので、どうしても大人が遊び半分でやるには、敷居が高くなってしまうからではないかと思います。その証拠に、どの町でもソフトボールはよく行われています。
それでも、これだけの人数が集まるところを見ると、やはり野球というスポーツには人を夢中にさせる何かがあるのではと思わざるを得ません。