静かに燃える演武に注目!空手 形・林田至史選手インタビュー
WATCH静かに燃える演武に注目!空手 形・林田至史選手インタビュー
東京オリンピックで追加種目として空手が追加され、今盛り上がりを見せています。今回は個人空手(形)で日本代表を目指す林田至史選手にインタビューをしました。
林田選手は2015年に全日本学生空手道選手権大会優勝、同年全日本大学空手道選手権大会優勝をはじめ、2017年東アジア選手権大会優勝など、国際大会でも実績を積み重ねてきた若手の注目選手です。
幼少期から空手畑で育ってきた
ーー空手を始めたきっかけを教えてください。
日本代表選手も輩出するような空手道場の近くに住んでいて、5歳上の兄が習っていました。その送り迎えについて行く中で、幼稚園の年中の頃には自分もいつのまにか空手をしていました。
ーー「習い事の空手」から本格的に取り組むようになったのはいつからでしょうか。
小学3年生の時に、空手の全国大会の県予選に出場したのですが、出場選手が多くなく、3人中3位だったんです。それでも3位なのでメダルはもらえて、母に誇らしげに自慢していました。全国大会に行く選手は表彰式のあとに、今後の説明があって集合がかけられたので、自分も行こうとしたら、そこで初めて全国大会に行けるのは県で1位と2位の選手だけということを知ったんです。その時に自分の中で全国大会に出たいという強い気持ちが芽生えました。
それからは5歳上の兄と道場でも家でも、ずっと練習をしてました。練習しすぎて家の和室の畳がボロボロになるくらいでした。
翌年の小学4年生で出た県予選では優勝し、全国大会に出場を決めました。そこからは空手漬けの日々が当たり前になったんです。
ーーかなりストイックに打ち込まれていたようですが、練習がつらいとか、空手を辞めたいとか思ったことはありますか?
当時は練習がつらかったし、空手を辞めたいとも思ってましたよ(笑)。兄が結構スパルタだったので、道場での練習の調子が悪いと、家での練習は絞られました。それが怖くて必死になっていたというのはあります。
ただ、遊びたい気持ちより勝ちたい気持ちが強かったので、友達とは登下校でおしゃべりして、あとは練習という日々がわたしにとっては普通でした。
ーーお兄さんのスパルタ指導も今の林田選手をつくったんですね。
兄は本当にスパルタでした(笑)。5歳も離れると体格も違うし、勝てないことが幼心にわかっていたので、喧嘩もしたことがなかったです。子供の頃って好きな食べ物が被ったら喧嘩したりするじゃないですか。そういう時は毎回わたしが譲ってました(笑)。
そんな環境だったので、反抗期もなかったんです。結構カッと熱くなるタイプではあるのですが、家族の中ではぐっとこらえてましたね。
競技生活に集中できる環境を求めて
ーー株式会社ラックランドに所属していますが、ここに決めた経緯を教えてください。
大学を卒業してすぐは、空手部の紹介で、警備会社に所属していました。そこは東京オリンピックで空手が種目に入る前から、空手に注目してくれて、警備員としての勤務もしていましたが、選手として優遇してくれていました。
それから東京オリンピックの種目となることが決定し、より競技生活に集中するには、会社を変えたほうがいいと判断をし、JOCが運営する就職支援制度の「アスナビ」を利用して、ラックランドに所属することが決まりました。
今は基本的に競技活動をメインにさせてもらい、週1回、出社して事務手続きや簡易業務などを行なっています。空手に思いっきり励める環境を整えてもらっているので感謝しています。
ーー普段のトレーニングはどんなことをしているんですか?
腕や脚にチューブをつけて負荷をかけた状態で突いたり、蹴ったりしてトレーニングしています。技に必要な筋力を鍛えられるし、直接的に技の練習にもなります。それから体幹も重要なので、重点的にトレーニングを行なっています。
ーー精神力も重要な競技だと思いますが、精神面でのトレーニングもしていますか?
栄養面を見てもらっている先生に食事以外にもメンタル面についても相談して、気持ちの持って行きかたをアドバイスしてもらっています。カッと熱くなる事が多いタイプではあったのですが、アドバイスを実践して「今だけだから落ち着こう」と言い聞かせる事で、精神面でも落ち着くようになりました。
試合の時も焦る時があったのですが、その心がけのおかげで、前より平常心を保てるようになりました。
ーー小学生たちへ空手を教える活動もされています。
小学生たちに対しては練習に取り組む態度なども教えて行きたいと思っています。形は忍耐強くないと続けられないので、子供たちはすぐ飽きちゃったりするのですが、「気持ちはわかるけど頑張ろう」と話しかけるようにしています。
自分の技術のポイントをしっかり教えるようにしています。
各選手の表現力の違いに注目の形
ーー形と組手がありますが、形を選んだのはなぜでしょうか?
中学までは形と組手の両方で試合に出ていましたが、良い結果が出ていたのが形でした。同じ道場に組手が強い選手がいて、彼が組手で、私が形で、よく全国大会に出ていました。結果が出ている方を取り組みたいと思い、高校は形の選手として特待生で入学しました。
ーー形と組手で臨む時の気持ちが違いそうですね。
組手は相手がいるので気持ちで負けないように、強い気持ちで臨みます。ビビったら負けみたいなところもあるので。
逆に形は冷静さが大切です。強い気持ちがありすぎても、気持ちだけ先走って身体が動いていなかったりすることもあるので、そこのバランスは難しいです。
ーー1大会で予選から決勝まで違う形をしなければなりませんが、事前に決めているのでしょうか。
海外の試合では木曜夜に対戦表がでて、金曜から試合ということもあります。
いくつか形を練習して、相手の選手の成績や動画をチェックしてどの形を当てていくかは検討します。
ーー形のレパートリーはどれくらい持っているのですか?
新ルールになってからは1大会で4つの形が必要になりますが、前は1大会で8つ必要でした。どの選手も10個くらいは持っていると思います。試合で使用できる形が100種類くらいあり、その中で自分の流派の形でレパートリーを作ります。
ーーご自身の強みを教えてください。
松濤館流の特徴として速くダイナミックに動き、低い姿勢を保つ技が多いという点があります。その中でもスピードやキレは他の選手に負けたくないと思っています。
ーーまだ観戦した事がない人向けに、形の魅力を教えてください。
形では、相手を想定して突いたり蹴ったりしますが、同じ形でも、人によって全然違ってくるので、それぞれの表現力を感じてもらえたらおもしろいと思います。
日々の積み重ねで東京オリンピックを目指して
ーー大切にしている言葉を教えてください。
「周りに謙虚に感謝する」ということと、「練習は嘘をつかない」という2つの言葉を大切にしています。形は常に続けていないとそのまま出てしまうので、練習の積み重ねが全てだと思っています。
ーー最後に今後の目標を教えてください。
東京オリンピックはもちろんですが、海外の大会もたくさんあるので、全部の試合で優勝するという意気込みで取り組み、その結果がオリンピックに繋がると思っています!
INFORMATION
林田至史選手プロフィール
所属:株式会社ラックランド
生年月日:1994年1月25日
出身地:長崎県(名門「佐世保尚武館」出身)
主な戦歴:
2014年 国民体育大会 3位
2015年 全日本学生空手道選手権大会 優勝
2015年 全日本大学空手道選手権大会 優勝
2017年 東アジア選手権大会 優勝
2018年 空手1シリーズA・上海2018 3位
写真=郷原麻衣