部活指導者はブラック労働か?-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その8

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部活指導者はブラック労働か?-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その8

スポーティ

日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。

私は、2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。

前回記事>>日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART7-

なぜ米国の高校は専門外の外国人を部活指導者に雇う?

ところで私にはクロスカントリー走も野球も選手経験はまったくありません。せいぜい趣味でマラソンを走り、草野球を楽しんでいるだけです。いわば専門外の素人で、あえて言えばそれぞれのスポーツの愛好家でしかありません。それなのに外部からの指導者になれたのは、あらゆるスポーツに共通するストレングス&コンディショニングスという分野での学位と経験を評価してもらえたからです。

以前に空手の指導者をしていたことと現在はクロスフィットのコーチをしているという経歴も採用担当者に大いにアピールしましたし、実際に部活を指導するうえでもそれらの経験が大いに役に立っています。

しかし、私のようなケースはやはり例外的のようです。どのスポーツであれ、高校レベルで部活を指導しているのは、やはりそのスポーツの経験者がほとんどです。

例えば私が所属する高校野球部の場合、ヘッドコーチ(監督)はMLBドラフトで指名されマイナーリーグでの経験もある元プロ選手ですし、私以外の7人のコーチは全員が大学野球の経験者です。

ちなみに外国人であることと年齢が50歳を越えていることは、少なくとも私の場合は仕事を得る上でまったく障害にはなっていません。この辺りは米国社会の懐の広さと公平さを感じます。

部活指導者=季節労働者?

部活指導者は、その学校の教員である場合と私のような外部の人間である場合があります。私が知る限りでは、外部指導者の方がやや人数は多いでしょう。教員であっても、部活指導はボランティアというわけではありません。学科を教える仕事とは別にスポーツ指導者としての給与が支払われるようです。

外部指導者の場合、人事上の扱いは、シーズンごとに契約するパートタイムです。クロスカントリー走を例にしますと、夏休みのプレシーズン期間と秋(9~11月)の本シーズン期間に分けて、それぞれの契約金額が支払われます。野球の場合は春(2~5月)が本シーズンで、それ以外は夏、秋、冬のオフシーズンがあります。

今年はご存知のように新型コロナウイルス感染拡大により、春のシーズンが途中から中止、夏休みのプレシーズンは中止もしくは短縮、秋のシーズンはまだ行われるかどうかは決定されていません。そうなると、部活指導者は仕事がなくなり、収入もゼロになります。

■参照記事>>「春のシーズンが全面中止に決定。明暗を分けたシーズン制スポーツ-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その4」

スポーツの種類や部内での立場(ヘッドコーチかアシスタントコーチか)によって異なりますが、部活指導者の収入は普段でもそれほど高いものではありません。

大抵の場合は、1シーズンで数十万円程度ですので、とてもそれだけで生活できるようなものではないのです。教員にとっては残業代のようなもの、外部指導者はアルバイト程度だと考えてもらってよいと思います。従って、外部指導者は別に本職を持っている人、いくつか掛け持ちでコーチをしている人、退職して趣味でやっている人など様々です。

とは言え、教育機関に採用されることには違いありませんので、外部指導者になる前には非常に面倒な手続きが必要になります。警察で指紋押捺をして、病院でメディカルチェックを受け、犯罪歴のバックグランドチェック、いくつかの指導者講習、救命措置の資格取得、などなど、採用が決まってから実際に指導を始められるようになるまでに数週間かかることも珍しくありません。しかも、これらの手続きは1回だけではなく、毎年のように繰り返さないといけないものが多いのです。

ヘッドコーチ=GM+監督+スカウト+広報+財務部長?

ヘッドコーチを私はよく「監督」と説明するのですが、実際にはそれよりはるかに広い範囲でスポーツ以外の仕事がついてきます。チームの予算を管理し、試合のスケジュールを他校やリーグ関係者と調整し、部員の勧誘も、保護者との連絡も、資金集めも、ユニフォームや道具の管理も、遠征のバスの手配までもがヘッドコーチの責任範囲です。その上、日々の練習では指導をして、試合になると監督もやります。

ヘッドコーチ以外のコーチは、比較的スポーツそのものに専念することができます。その場合、1日の練習は数時間程度、日曜日は必ず休みですので、数か月のシーズンを指導するのは、それほど過重な労働時間というわけではありません。

経済的に恵まれているわけでもなく、煩雑な手続きを求められ、やるべき仕事も多い。労多くして益少なしと言える職業だと思うのですが、それでも部活指導者になる理由はと言えば、やはりそのスポーツが大好きだからでしょう。

米国の他の職場では、いかにもつまらなそうに、やる気がなさそうに働く人々を多く見るのですが、部活指導者でそういう人には今まで会ったことがありません。部活指導者にはキャリア何十年という人も珍しくありませんし、なによりこれが生き甲斐だと語る「熱い」人が多いなあという印象です。

教員の人もそちらが本職と言うより、部活指導を続けるために、とりあえず安定した収入が必要だから教員をやっているという風な雰囲気がしばしば見受けられます。 

高校生たちが楽しそうにスポーツに打ち込む姿に接して、成長を見守ることができることも、私がコーチを続けていられる大きな理由です。

高校の先生は、多くの場合1日に1時間だけ、それも1年間だけ、ある生徒を教えることになるわけですが、部活指導者はある生徒が入学してから卒業するまでずっとつき合うこともできます。あるいは生徒にとっても、高校生活の中でもっとも長い時間を過ごす大人は部活指導者なのかもしれません。

彼らが卒業した後でも、あんなコーチがいたなあと思い出してくれるような存在でいれたらと思っています。


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