公立高校なのにプロのようなスポーツ施設があるのはなぜ?予算と資金集め-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その9

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公立高校なのにプロのようなスポーツ施設があるのはなぜ?予算と資金集め-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その9

スポーティ

日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。

私は2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。

■前回記事>> 「日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART8-」

複合スポーツ施設のような高校キャンパス

私が勤める公立高校の校内にはフルサイズの野球場が2つあります。1つは観客席とダグアウトがついたVarsity(1軍)用、もう1つは練習用フィールドです。どちらも人工芝で、それぞれにブルペンやバッティング・ケージも完備されています。

もちろん野球場だけではありません。もっとも人気の高いアメフト用のフィールドはさらに大きな数千人を収容できる観客スタンドに囲まれていますし、陸上競技の400メートルトラックにもなっています。

体育館も大小2つあって、メインの方はバスケットボール用コートが3面とれます。こちらにも数千人を収容できるスタンドがついています。小さい方の体育館はレスリングやダンスチームなどが使用します。

テニスコートは16面ありますし、プールは50メートルのレーンが8つとれるオリンピックサイズと呼ばれるものです。サッカーやソフトボールなど、ややマイナーなスポーツもそれぞれの専用フィールドを持っています。

そして共用施設としてウエイトトレーニング用のジムもあります。

ウエイトトレーニング室は各部が交代で使用する

高校スポーツは特権?

この学校は、他と比べて特にスポーツが盛んなわけではありません。ごくごく普通の公立高校です。それなのに、高校部活動の環境はこの通り。野球だけに関しても、日本なら甲子園常連校、ひょっとしたらプロ野球チームと同等レベルの設備ではないでしょうか。

少年野球の頃は日本に比べたら格段にヘタクソな米国の野球少年たちは、高校、大学と進むにつれてレベルアップして日本を追い抜いていきますが、これを見たら当たり前じゃないかって思います。他のスポーツについても同じことが言えるでしょう。

この高校があるラグナヒルズ市は決して貧しいわけではありませんが、このオレンジ郡では飛び抜けてお金持ちの市というわけでもありません。ざっくり言えば、中の上といったところでしょう。

米国では公立学校の予算は地域ごとの学区によって決まります。自然と、そこに住む地域住民の経済力がそのまま公立学校の施設に露骨な差として現れることになります。つまり、私たちよりもっと恵まれたスポーツ施設を持つ公立高校は珍しくはありません。

一方で、住民の平均収入が低い、つまり税収が少ない地域は公立学校の施設は悪くなり、スポーツ環境についても同様になります。

地域の企業や個人が高校スポーツのスポンサーになる

このような経済的な格差の他にもう1つの大きな問題があります。それは、恵まれた施設がある高校に通っていても、スポーツが苦手な生徒はそれを利用することができないということです。以前の記事で詳しく説明しましたが、ほとんどの部活動にはトライアウトがあり、どんなにそのスポーツが好きでも入部すらできない生徒もいるからです。

■参照記事>> 補欠はいない。全員が試合に。一方で希望の部に入れない生徒も。部活トライアウトの功罪-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その2

米国では高校は義務教育です。それなのにスポーツをする機会の平等がこのように失われているのは、良いことではないと個人的には考えています。スポーツに限らず、米国の教育全般に言えることなのですが。

生徒たちによる活動資金集め

あくまで私から見ればですが、米国の部活動はこのような問題を抱えているものの、それでもまだ健全な部分も多く残しています。そのうちの1つは生徒たちが部活動を行うための資金を自ら集めることです。

すべてのスポーツ部活動はそれぞれの高校で「Athletic Department」と呼ばれる部署の傘下に入ります。そこで予算が一括管理されて、各チームに活動費用として分配されます。多くの場合それだけでは十分ではなく、各チームそれぞれが独自の資金集めをすることになります。

例えば私たちの野球部の場合、学校から分配される人件費はヘッドコーチ1人分しかありません。私を含め、8人のアシスタントコーチの給料は(決して高額ではありませんが)、すべて生徒たちが集めてくれた活動資金から捻出されたものです。クロスカントリー走部では夏休み中の合宿費用を生徒たち自らが集めたりもします。

彼らは夏休みに毎週1回高校の駐車場で車洗いをして、ハワイ合宿の費用を捻出した。

Fundraising と呼ばれる活動資金集めは様々な形で行われます。まずは単純に親戚や知人に寄付金を募る、地元の商店などから広告を集める、自分たちの試合のチケットを売る、学校の駐車場で車洗いをする、クッキーを売る、などなどです。

勿論、寄付金集めなどの成果は親や地域の経済力に大きく左右されます。そうであっても、アルバイトすらしたことがない高校生たちがこうして数十万円、ときには数百万円の資金を集めるのだから立派なものです。そしてまた、その活動資金集めを指導することも部活指導者に期待される職務の1つなのです。

アメリカ 部活動