The TB12 Method :トム・ブレイディの革命的コンディショニング方法

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The TB12 Method :トム・ブレイディの革命的コンディショニング方法

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2021-22年のNFLシーズンが終盤を迎え、スーパーボウルを残すのみとなった2022年2月1日(日本時間2日)、タンパベイ・バッカニアーズのクォーターバック(QB)、トム・ブレイディ選手が自身のインスタグラムで引退を正式に発表しました。

これまでに歴代最多である7回のスーパーボウル優勝を達成しているブレイディは、誰もが認めるNFL史上最高選手です。そして近年、何よりも人々を驚かせていたのは、ブレイディのパフォーマンスが40代になっても全く衰えを見せず、それどころか20代の頃の成績を凌駕していたことです。

ブレイディは現役最後となった今シーズンを44歳で迎えました。それにもかかわらずレギュラーシーズン全17試合とプレーオフ2試合に先発フル出場しました。それだけではなく、獲得ヤード数(5,316ヤード)もタッチダウン数(43個)もNFL全QB中1位で、自身4度目となるシーズンMVPに選出される可能性も高いと見られています。

ブレイディの驚異的な長い選手生活をもっとも象徴するエピソードが2022年1月3日(日本時間4日)に行われたタンパベイ・バッカニアーズ対ニューヨーク・ジェッツ戦で生まれました。両チームの先発クォーターバック(QB)の年齢差がちょうど2倍だったのです。ジェッツの大物新人ザック・ウィルソンは1999年8月3日生まれの22歳、一方のブレイディは1977年8月3日生まれの44歳でした。

奇しくも同じ誕生日に生まれた22歳違いの新旧スーパースターQB対決は、44歳のブレイディに軍配が上がりました。17-24の劣勢で迎えた第4クォーター終了15秒前にブレイディが逆転のタッチダウンパスを成功させたのです。

この勝利によって、バッカニアーズの地区優勝が決定し、2年連続のスーパーボウル制覇に向けて、プレーオフ進出を果たしました。この日のブレイディは410ヤードと3つのタッチダウンを獲得し、一方のウィルソンは234ヤード、1タッチダウンでした。

20代の成績を40代で上回る。ブレイディの驚異的な息の長さ

“Tom Brady sign_3” by diane_thomas22 is licensed under CC BY 2.0

NFL選手の平均年齢は約26歳で、平均リーグ在籍年数は約3年と言われています。それなのに、なぜブレイディだけは20年以上もトップ選手であり続けていられるのか。そんな疑問が多くのメディアで取り上げられてきました。なぜなら、ブレイディの若い頃はけっして身体能力が超越したアスリートであったわけではないからです。

NFLドラフト候補生が集まる運動能力テストでは、ブレイディが走った40ヤード走の記録はQBとしては史上2番目に遅いものでした。ブレイディは結局、2000年ドラフトの7巡中6巡目、全体199番目でニューイングランド・ペイトリオッツからようやく指名されたのです。

ブレイディ自身も自分は生まれつき素質に恵まれたアスリートではなく、それにもかかわらず驚異的な長いキャリアを築くことができている理由を、『The TB12 Method』と名付けた独自のコンディショニング法にあると語っています。

「TB」はトム・ブレイディ(Tom Brady)のイニシャル、「12」はブレイディの背番号です。2017年に発行された同名の書籍『The TB12 Method: How to Achieve a Lifetime of Sustained Peak Performance』には、ブレイディが実践するライフスタイルとトレーニングが詳しく紹介されています。

TB12が掲げる12個の理念とキーワード

“rubber bands” by Dean Hochman is licensed under CC BY 2.0

同書は10章からなる305ページの長大な本ですが、繰り返し強調されるいくつかのキーワードがあります。

1.しなやかな筋肉
もっとも多く文中に頻出する単語は“pliability” です。日本語では柔軟性と訳されることもありますが、ブレイディは単に体を柔らかくするだけではなく、あらゆるスポーツで高いパフォーマンスを発揮するために、しなやかな筋肉こそがもっとも重要であると繰り返し述べています。第5章で様々なセルフマッサージの例が写真つきで詳しく解説されています。

2.全身を連動させるトレーニング
従来の筋トレでは主流だった個別の筋肉を鍛えるアプローチを否定し、TB12で行うすべてのトレーニングは全身的で相互に関連するものであるとしています。

3.バランスと適度
TB12では適切なバランスを強調します。良いアプローチは存在しても、それに偏ることは良くないとしています。

4.コンディショニング
TB12で行うコンディショニングは耐久性と生命力を高め、スポーツのパフォーママンスだけではなく、健康で痛みのないライフスタイルを実現するためのものだとしています。

5.ウェイトを用いない筋トレ
TB12ではバーベルやダンベルなどの重いウェイトを用いた筋トレは一切行わず、代わりにゴムバンドか自重を用います。筋肉は見せるためのものではなく、骨を守り、動作を助けるためにある、とブレイディは主張します。最大筋力ではなく、最適な筋力を得ることが目的です。第6章でエクササイズの例が写真つきで詳しく解説されています。

6.炎症を最小限に抑える
TB12が推奨する栄養と水分摂取の考え方、そして、しなやかな筋肉を作るためのトレーニングは、体内で起こる炎症を抑え、回復を早めるために役立つとしています。逆に言えば、炎症を増やしてしまうエクササイズや食べ物は避けるべきであるということになります。

7.酸素を供給する血行を促進
脳から全身の先々まで酸素を運ぶ血液の流れをスムーズにすることが、筋肉の働きと健康を最適化すると述べています。

8.水分摂取
ブレイディがもっとも強調することの1つが、体内の水分レベルを常に保つことの重要性です。第7章はすべて水分に関する話題に割かれています。具体的な数字として、1日に最低でも体重(パウンド)の半分にあたる量(オンス)の水分を摂取すること、としています。ブレイディ本人なら、体重225パウンド(約100キロ)の半分で、112.5オンス(約3.3リットル)ということになります。それもなるべくなら電解質を含んだ水を飲むべきだということで、常にボトルを持ち歩いているそうです。

9.栄養摂取
ブレイディが食生活において厳格なルールを自らに課していることは有名です。大部分を野菜や果物など植物由来の食品から摂取し、糖分や穀物を極力避けています。アルコールやカフェインも一切摂りません。自然食主義で、加工された肉製品も乳製品も摂りません。第8章ではその理由とともに、実際にブレイディが好む「アボガド・アイスクリーム」などのレシピも写真付きで紹介されています。

10.サプリメント
どれほど食生活に気をつけていても、どうしても不足してしまう栄養素があるとブレイディは言います。そのために適切なビタミン、プロテイン、ミネラルなどのサプリメント摂取が望ましいとしています。

11.脳のエクササイズ
脳からの指令を筋肉に伝える神経系の働きはスポーツにおいて重要であり、筋肉同様、脳の働きもトレーニングで向上させることができるとしています。第9章では具体的な脳エクササイズの例が紹介されています。

12.心身の休息、回復、そして活性化
身体と脳には休息が必要であり、回復と活性化のためには、日々のルーチンに加えて、規則的なサイクルで十分な睡眠を取ることの重要性を説いています。ブレイディ自身はガーデニングが趣味で、夜9時に就眠して、朝6時に起床するそうです。

TB12を支える東洋思想

“Mixed Bean, Beetroot, and Roasted Potato Salad – Salad Bowl – Soulmama Vegetarian” by avlxyz is licensed under CC BY-SA 2.0

アメフトという激しいスポーツにおいて頂点に君臨するブレイディが重い重量を挙げる筋トレを否定し、あたかも菜食主義者のような食生活を送っていることは、かつてのパワーを重視したストレングス&コンディショニングスの常識からは遠くかけ離れたものでした。

上に挙げたTB12の基本理念を、ブレイディは東洋と西洋が融合したアプローチであるとも語っています。そこにはブレイディの専属トレーナーであり、ビジネスパートナーでもある、アレックス・ゲレロ氏の影響が大きいと思われます。

ゲレロ氏は伝統的な中国医学を学び、その方法論で多くのアスリートをケアしている人物です。ブレイディのゲレロ氏への信頼は非常に大きく、TB12はゲレロ氏の指導なしには生まれなかったと語っています。ブレイディが自ら引退を発表したインスタグラムの投稿の中でもゲレロ氏への真摯な感謝の言葉が綴られていました。

ブレイディとゲレロ氏が運営するTB12の公式Youtubeチャンネルでは、数多くのエクササイズやリカバリー方法を紹介した動画を見ることができます。新たなコンディショニング法を探している人には参考になるのではないでしょうか。

アメリカ コンディショニング トム・ブレイディ