いつかはトライアスロンを目指す人のネクストステップ

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いつかはトライアスロンを目指す人のネクストステップ

スポーティ

趣味でランニングをしている人にとって、フルマラソン完走はひとつの大きな目標になります。現在は毎週末のようにマラソン大会が開かれていて、42㎞を走ることはもはや特別なことではありません。それでも誰もが容易にこなせるというものでもなく、やはりそれなりの努力や苦しみが前提となります。

さて、そのフルマラソン完走という目標を達成したランナーたちは、やはり頑張り屋さんの体質です。1回走ったからもういいやと思う人はごくごく稀で、多くは次なる目標を立てて頑張ることになります。その目標の方向性が、私見では2つのタイプに分かれます。あくまでマラソンにこだわって自己最速タイムの更新に挑み続ける人たちと、マラソンとは別の競技に挑もうとする人たちです。

後者のタイプには100キロとか100マイルとかのウルトラマラソンの世界に入っていくランナーもいますが、マラソンの次はトライアスロンに挑戦したいと考えるランナーも世間には多くいます。同じように耐久系スポーツですが、やはりトライアスロンの方がマラソンよりきつそうだと誰もが考えますが、元々マラソンを走るような人はきついことを好むものです。

しかし、トライアスロン挑戦を実行に移すには高いハードルが待ち構えています。トライアスロンの3種目(水泳、自転車、ラン)をすべて練習するのは、身体的にきついだけではなく、時間もお金もかかるからです。

そのような人たちでも、2種類なら取り組みやすいとみえて、トライアスロンのレースにはよく、デュアスロン(ラン→自転車→ラン), アクアバイク(水泳→自転車), アクアスロン(水泳→ラン)という、2種類だけを行う部門を設けてあります。

私はこの夏、地元で行われたアクアスロン(水泳→ラン)のシリーズに参加しました。3つ一度にやるのは大変だけど、2つなら何とかなるだろうと考えたわけです。競技用の自転車を買うとなると高くつくけど、水泳のためのウェットスーツは持っていたという理由もあります。それでも、ただ泳ぐだけ、あるいはただ走るだけ、の単一イベントとは異なる楽しみと困難がそこにはありました。

初心者向けのアクアスロン

レースは海水浴客がいなくなる夕方から始まった

私が参加したのは、地元の海水浴場で行われたアクアスロンのシリーズです。まず海で1kmを泳ぎ、その後で5km走る、ごくごく初心者向けとも呼べる短い距離のレースを7~8月の期間に4回、毎週木曜の夕方(午後6時スタート)に行うというものでした。

>>大会ホームページ:https://www.coveathlon.com/  

ちなみにオリンピックで行われるトライアスロンは水泳1.5km、自転車40km、ラン10kmです。超人たちが競うアイアンマンレースになると、水泳3.8km、自転車180.2km、ラン42.2kmですので、このシリーズの距離を初心者向けと呼ぶ意味は分かってもらえると思います。

なぜ木曜の夕方なのかと言えば、その時間なら遊泳時間が終わり、付近の歩道にも海水浴客が少なくなっているから、という理由です。交通規制も特になく、参加者も数百人程度の小さな大会です。レースと言うよりは練習会のようでもありました。

それでもいざ参加してみると、想像していた雰囲気とはいささか異なりました。なんとなく、皆がアスリートっぽいのです。一言で言えば、素人らしき人が見当たりません。年齢層はかなり高いのですが、アメリカ社会には珍しく、太った人は殆どいません。

5㎞のランニング大会などでは、最初から歩くような人もよく見かけますが、このアクアスロンにはそのような人は参加しないようです。競技者名簿を見ても、所属団体欄に○○トライアスロンクラブといったチーム名が目立ちます。私のように「所属団体なし」の個人参加の方がむしろ少数派のようでした。

プールで泳ぐことと海で泳ぐことの違い

私にとっても難関であり、また参加者から素人を排除しているのは、やはり海で1㎞泳ぐということでしょう。私はプールでなら1㎞くらいは続けて泳ぐことはできますが、海で泳ぐことには慣れていません。疲れても手をかける壁もなければ、立ち止まることもできません。途中で休憩することはできない、溺れずに泳ぎ切れるだろうか、という不安を抱えて、少なからずプレッシャーにもなりました。

いざ海を泳ぎ始めてみると、距離以外にも、プールにはない難しさに直面しました。ひとつはゴールまで最短距離で泳ぐことがなかなかできなかったことです。当然ですが、海の底にはラインは引いてありませんし、レーンを仕切るロープもありません。

その一方で、潮の流れや波があります。真っ直ぐに泳いでいるつもりでも、すぐにあらぬ方向へ進んでしまうのです。本当はクロールで泳ぎながら前方を確認するテクニックがあるそうなのですが、初心者の私には当然ながらそんなものはありません。何回も平泳ぎに切り換えて、その都度方向を修正して、ずいぶん無駄な距離を泳いでしまったと思います。ただでさえ遅いと言うのに。

もうひとつ、プール育ちの私が不慣れだったのは、他の参加者たちと接触してしまうことでした。スタート直後もそうですが、抜いたり抜かれたりするとき(私は抜かれることの方が圧倒的に多かったのですが)、しょっちゅう背中に誰かが乗ってきたり、水中で蹴られたりしました。こんなに広い海なのだから、もっと散らばればいいのにと思うのですが、やはりレースともなるとそうはいかないようです。

着替える時間も競技のうち

トランジッション・エリアでレース前の準備をする競技者たち

それでもなんとか規定のコースを泳ぎ切って、海から砂浜へ上がると、次はランニングです。トランジッション・エリアでウェットスーツを脱ぎ、ランニングシューズを履きます。この間も時計は進んでいます。着替える時間も競技のうちなのです。

当然、シリアスに競技を行っている人たちはこのトランジッションの時間を少しでも短縮できるように工夫をこらします。シューズを置く位置、靴紐の緩め方、足を拭くためのタオルにも、それぞれの拘りがあるそうです。一連の動作を素早く行うために手順をあらかじめ決めておき、その練習もしているのでしょう。

私はこのトランジッションでも毎回のように失敗しました。ウェットスーツがなかなか脱げなかったり、タイムを計測するためのチップがどこかに行ってしまったり、足が潮水でベトベトのせいか靴下が履けなかったりしました。そんなこんなで、いつもトランジッションに3~5分くらいかかってしまいました。これもかなりのタイムロスです。速い人は1分以内でトランジッションを終わらせてしまいます。

水泳の遅れを取り戻すために必死で走る筆者

ライフガードへの尊敬と感謝

ライフガードのトライアウト

私がアクアスロンを選んだことの理由は自転車が高価だからというだけではありません。以前こちらで紹介したライフガードに尊敬と感謝の気持ちを抱いていることも動機のひとつです。彼らのトライアウトも海での遠泳と砂浜ランの組み合わせでした。

関連記事:カリフォルニアで最も尊敬されるアルバイト -ビーチライフガードのトライアウト

実は私、この記事を書いた数か月後くらいに、トライアウトが行われた場所からさほど離れていないビーチでライフガードに救助されました。ボディサーフィンをしていて、波にもまれて、海底の岩で顔面を強打したのです。目の周辺から出血し、脳しんとうでフラフラとしていた私を助けてくれたのが、ライフガードの皆さんでした。

一歩間違えたら失明していたかもしれず、最悪なら死んでいたかもしれません。彼らスーパーマン、スーパーウーマン達には感謝の気持ちしかありません。

それ以来、海に入ることが怖くて、ビーチから遠ざかっていました。今回はその恐怖を克服することも自分の中ではテーマのひとつでした。今さらライフガードにはなれませんが、少しでも彼らに近づけたらと思っています。

そのようなわけで、来年の夏もこのアクアスロンのシリーズに挑戦し、その先はトライアスロンだ、と年甲斐もなく鼻息を荒くして日々を送っている私です。レースに参加することの良い側面とは、そんな奇人変人が自分ひとりではなく、世の中にはたくさん同好の士がいるのだと実感できることです。

バナー写真:Garmin Milano City Triathlon” by br1dotcom is licensed under CC BY-SA 2.0.

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