タックルなしのアメフト。フラッグ・フットボール28年ロス五輪初採用が意味するもの
WATCHタックルなしのアメフト。フラッグ・フットボール28年ロス五輪初採用が意味するもの
カリフォルニア州内高校女子フラッグ・フットボール公式リーグ戦。
10月16日、国際オリンピック委員会(IOC)はインドのムンバイで行われた総会で2028年ロサンゼルス夏季オリンピックでフラッグ・フットボールを追加種目のひとつとして承認しました。
フラッグ・フットボールとはアメリカン・フットボール(以下、アメフト)からタックルをなくし、代わりに攻撃側プレイヤーが腰につけたフラッグを守備側プレイヤーが取ることで「ダウン」とするルールで行われるスポーツです。
身体的接触がなく、より安全にアメフトを楽しむ方法として、アメリカではずっと以前から学校の体育授業で広く行われてきました。老若男女のレクリエーションとしても人気があります。
しかしながら、アメリカ以外の国ではあまり知られていないスポーツではないでしょうか。およそ国際的に広まっているとは言い難いイメージです。
それでも2028年ロサンゼルス・オリンピックでの競技種目に採用が決まったことは、開催国がアメリカであることが大きな理由になったことは間違いありません。2020年東京オリンピックで空手が採用されたことと似たような事情だと思われます。
フラッグ・フットボールはアメフトの競技人口減少を食い止めるか
カリフォルニア州内公園で金曜夜に行われている大人のリーグ戦。
NFLも近年はフラッグ・フットボールの普及を後押ししていました。オールスター・ゲームである『プロ・ボウル』を昨シーズン(2023年2月開催)からフラッグ・フットボールに変更したこともその現れです。
NFL公式Youtubeチャンネルが試合のハイライトを公開しています。従来の(と言いますか)アメフトとの違いが分かるでしょうか。
NFC vs. AFC Flag Football | 2023 Pro Bowl Game 1 Highlightsの動画はこちら(YOUTUBE)
フラッグ・フットボールがオリンピック種目に採用されたニュースが報じられると、マイアミ・ドルフィンズの俊足ワイドレシーバーであるタイリーク・ヒル選手、元人気タイトエンドのロブ・グロンコウスキー氏など、アメリカ代表チームへの参加希望を表明する選手、元選手が次々に現れました。バルセロナ・オリンピックのNBAドリームチームや2023年WBCの米国代表チームの例にあるように、NFL版ドリームチーム結成の噂が早くも飛び交っています。
NFLはアメリカで最大の人気を誇るスポーツ団体ですが、実はアメフトというスポーツ自体の競技人口は減り続けています。大人数のメンバーを揃えなくてはいけないうえ、設備や道具にお金がかかり過ぎる。そういった理由からアメフトのチームを持てない高校も出てきました。
さらに、アメフトでは脳しんとうの危険が大きく、引退後も後遺症に苦しむ例が多いことへの認識が広がり、子どもに別のスポーツを選ばせたがる親が増えてきたという背景もあります。
フラッグ・フットボールの最大の特徴はタックルやブロックが禁止されていることです。従って、身体的接触に伴う怪我のリスクが格段に減ります。ヘルメットやプロテクターが不要ですので、道具にかかる費用も小さくなります。試合のフィールドはアメフトの半分程度の広さですし、キックがないのでゴールポストも使いません。
フラッグ・フットボールがもたらす多様化と競技化の流れ
男女混合で行われる試合。
安全性と低コスト性に加えて、フラッグ・フットボールの強みは女性の参加が可能になることです。むしろ、アメリカ国内ではフラッグ・フットボールの競技化は女性の側から始まっていました。
まず2020年に北米の大学スポーツ連盟(NAIA – National Association of Intercollegiate Athletics)がフラッグ・フットボールを正式な女性スポーツ競技種目に加えると、カリフォルニアの高校スポーツ協会(CIF)も今年からそれに続きました。私の近所にある高校でもリーグ戦が始まっています。
男性部門と女性部門ができるだけではありません。テニスのミックスダブルスのように、男女混合で試合を行うことさえも可能なのです。
アメフトは伝統的にマッチョな男だけのスポーツでした。フラッグ・フットボールはその殻を大きく打ち破ることが期待されています。
フラッグ・フットボールの基本的なルールとポジション
審判の服装と役割はアメフトと同じ。
フラッグ・フットボールのルールには様々なバリエーションがあります。あるいは、統一された競技ルールがまだ確立されていないと言うべきかもしれません。しかし、アメフトのルールを基調として、以下のように試合が行われることはほぼ共通しています。
•試合人数は5人対5人、あるいは7人対7人。
•試合時間は20分、あるいは30分ハーフ。それぞれのハーフで残り2分になると、プレイが止まるごとに時計を止める。
•フィールドの長さは50~80ヤード。幅は30~40ヤード。
•守備側プレイヤーが攻撃側プレイヤーの腰につけられたフラッグを取るとプレイが止まる。
•タッチダウンで6ポイント。キックによる追加点はない代わりに、5ヤードラインからの1プレイに成功すると1ポイント、10ヤードラインからの1プレイで2ポイントが加算される。
•攻撃側も守備側も相手選手をブロックすることは禁止。
•キックオフはなし。攻撃側は自陣ゴール前の10ヤード、あるいは20ヤードから攻撃を開始する。
このように書き並べてみても、そもそものアメフトのルールを知らないとイメージしづらいかもしれません。そういう人は下の関連記事をぜひご覧ください。
関連記事:今さら聞けないアメフトの基本ルール(超初心者向け)
タックルがないということは、巨大な体格も必要ないということです。背が高い方が有利なことには変わりませんが、パワーよりスピード、敏捷性、パスの正確性、レシーブの巧緻性などがフラッグ・フットボールではより重要な要素になります。
アメフトの攻撃側ポジションで言えば、クォーターバック(QB)、ランニングバック(RB)、そしてワイドレシーバー(WR)、守備側ポジションではラインバッカー(LB)、コーナーバック(CB)、セーフティー(S)といったタイプの選手たちがフラッグ・フットボール向きということです。
それも何のことやらちんぷんかんぷん、という人は下の関連記事をどうぞ。
関連記事:初心者向け解説:アメフトの各ポジションに求められる身体サイズと運動能力とは
ロサンゼルス・オリンピックまではまだ5年あります。日本でも優秀な男女アスリートがこのフラッグ・フットボールに参加することを期待したいと思います。