覚醒剤中毒から伝説のランナーへ!ベストセラーが描くトレイルランの魅力

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覚醒剤中毒から伝説のランナーへ!ベストセラーが描くトレイルランの魅力

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2018年5月15日に「Reborn On The Run」という本が刊行され、アメリカのランナー達の間で評判になっています。著者のカトラ・コルベット(Catra Corbett)さんは100マイル(160キロ)以上のレースを100回以上完走した女性ランナーです。

フルマラソンの距離は、よく知られているように42.195キロ。それ以上の距離を走るレースは、ウルトラマラソンと呼ばれています。カトラさんは、そうしたレースを走るアメリカのウルトラ・ランナー達の間では生きる伝説と言える存在ですが、元覚醒剤中毒患者で違法ドラッグ・ディーラーとして逮捕歴があることでも有名です。
本書では、覚醒剤を断ち更生の道を歩み始めた後も拒食症、自殺未遂、近親の突然死など次々と襲う困難を乗り越えてウルトラ・ランナーとして生まれ変わっていく彼女の姿が生き生きと描かれています。

彼女は、本書の中で、繰り返し、自らをウルトラ・ランナーであると規定しています。タイトルの「Reborn On The Run」は世界的ベストセラーの「Born To Run」を意識したと思われますが、彼女は、走るために生まれたのではなく、生まれ変わるために、走らざるを得なかったのです。自らのアイデンティティをかけて、挑戦を続けている彼女の主戦場が、100マイル(160キロ)以上のウルトラマラソンですが、同時に、これらは全て山中や自然公園の中で、未整地を走るトレイルランです。今回は、彼女を生まれ変わらせたトレイルランについて紹介したいと思います。

ウルトラマラソン イコール トレイルラン

前述した通り、フルマラソン以上の超長距離フットレースをウルトラマラソンと呼びます。日本で最も有名なウルトラマラソンと言えば、サロマ湖100kmウルトラマラソンや四万十川100kmウルトラマラソンです。北海道のサロマ湖、四国の四万十川、風光明媚な公道を走るこの2つのレースはとても人気があり、出場するには、何倍もの抽選があります。日本には、他にも公道を走るウルトラマラソンのレースがいくつかあります。基本的には、ウルトラマラソンは市民マラソンの延長線上にあるとも言えるでしょう。

アメリカでは、少し事情が異なります。アメリカではウルトラマラソンで舗装された道に、コースが設定されることは非常に稀です。その多くが、山間部の登山路や未舗装の林道(トレイル)を利用します。例外は、世界で最も過酷なレースと言われるバッドウォーター135マイル(217km)レースでしょうか。つまり、アメリカでは殆どの場合ウルトラマラソンとは即ちトレイルランであると言えます。カトラさんが、自分をウルトラ・ランナーと呼ぶとき、読者が思い浮かべるのは自然の中を走る彼女の姿なのです。

自然の中で自分と向き合うのがトレイルラン

トレイルランのレースは、ロードレースと比べて参加者が少ないのが特徴です。多くても千人以下、中には数十人しかエントリーしないレースもあります。一斉にスタートしても、すぐにランナーはばらけてしまいます。あとはゴールするまでの間、山道を黙々と1人で走り続けることも珍しくありません。

給水ボランティアやスタッフも、5~10キロ間隔のスポットに数人が待機してくれているだけということが普通です。ロードレースでは、ずらりと並んだ給水ボランティアの人々に励まされたり、コース沿いで見物している人達の応援が力になったりしますが、トレイルランのレースではそうしたことは望むべくもありません。走るためのモチベーションは自分の中で静かに維持しなくてはいけないのです。

レース中に、足が攣ったりして、これ以上走れないという状況になったとしても、ロードレースのように収容バスがゴールまで連れて行ってくれることはありえません。都会のマラソンでは、途中で棄権してもタクシーや地下鉄で家に帰ることさえ出来そうですが、トレイルランでは棄権を決めたとしても、その時点から一番近い給水スポットまではなんとか自力で歩いていくしかないのです。このように、トレイルランを孤独なスポーツと呼ぶことも出来ますが、その反面、人数が少ない分ランナー同士の連帯感はむしろ強くなります。初対面同士のランナーが何時間も話しながら一緒に走って仲良くなるということもしばしばあります。

レースの為タイムや順位を競う面もありますが、ロードレースと比べると、トレイルランでは、タイムに執着するランナーはあまり多くありません。それよりは景色を楽しみ、自然と向き合うことを目的とするランナーが大部分です。

まずは手軽な距離から始めてみよう

さて100マイル(160キロ)以上の超長距離レースとなると、スタートしてから、走り終えるまで24時間以上かかることも珍しくありません。つまり、夜中も走り続けることになります。そんなときは、真っ暗な山道をヘッドライトの灯りだけが頼みです。そうなると、ランニングと言うよりは、むしろサバイバルのようで、一般ランナーが挑戦するには、かなりハードルが高い世界と言えます。そこまで過酷なレースではなく、気軽にトレイルランを楽しむためのレースも勿論たくさんあります。先にアメリカでは、ウルトラマラソンとは、即ちトレイルランだと述べましたが、逆は、必ずしも真ではなく、全てのトレイルランがウルトラマラソンの距離(42.195キロ以上)を走るわけではありません。

自然の中のコースではあるけれど、距離は5キロや10キロぐらい、あるいはハーフマラソン程度といったレースはトレイルラン初心者が、試してみるのには向いています。ロードのフルマラソンは、完走したことはあるけど新たな刺激が欲しいという人は50キロか50マイル(約80キロ)のレースから始めてみるといいでしょう。それぐらいの距離だと、早朝にスタートして、明るいうちに走り終えることも可能です。

私自身の経験から言えば、ロードレースでハーフマラソンを完走できる走力がある人なら、トレイルで50キロは走れると思います。なぜなら、トレイルランでは、ずっと走り続けるわけではありません。登山と同じで急な登り道は歩きますし、足元が不安定な場所では、スピードを上げることも出来ません。歩いたり休んだりする時間が必ずあるのです。もちろん時間はかかりますが、それを楽しむことが出来るメンタリティがトレイルランナーには必要で、ランニングの能力はそれほど要求されません。

短い距離なら特別な装備は必要なし

100キロ以下の距離だったら、トレイルランと言っても、特別に必要な装備は、それほど多くありません。トレイルラン専用のシューズもありますが、それでないと走れないというわけではありません。普通のランニングシューズで充分です。コースに給水スポットはありますが、殆どのランナーは、念の為に水のボトルを手に持つか、チューブを使って給水できるベストを着て走ります。ロードレースと比べて必要なものはそれぐらいです。一方で、100マイル(160キロ)以上になりますと、ヘッドランプや携帯食料品など登山同様の装備が必要になることは言うまでもありません。

レースではなく、自分でトレイルを走るときも同様です。もっとも自然の中に入っていくわけなので、街中にはない危険は、やはりあります。場所にもよりますが、野生動物と遭遇する可能性もその一つです。私は、カリフォルニア在住ですが、ランニング中に、コヨーテやガラガラヘビに出くわしたことが何回かあります。近くでマウンテン・ライオンに襲われて死亡したランナーのニュースを聞いたこともあります。
しかし、それ以上に危険な存在は、人間かもしれません。トレイルランナーは、無防備な姿で人里離れた場所を走ります。犯罪者や変質者に出くわした場合は、助けを求めることが出来ません。特に女性のランナーは、注意が必要です。残念ながら、アメリカも日本も、女性が、心から安心して一人で山道を走ることが出来る状況ではありません。そのせいでしょうか、アメリカでは女性は男性に比べるとグループで走ることが多いようです。

近場で短いレースを探してトレイルランを始めてみる

トレイルラン未経験のランナーにとっては、まずは走るコースを見つけることが最初の一歩になるわけですが、それはなかなか容易なことではありません。適当な距離で、険しすぎなくて、登山客の迷惑にならなくて、万が一の時には助けを呼ぶことが出来て、と考えれば考えるほど条件が狭まっていきます。一番の近道はやはり近場でレースにエントリーしてみることではないでしょうか。何回か経験を積んでいくうちに、自分に合ったコースを見つける勘が養われていきます。

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