運動パフォーマンスは時間帯で変動する?!時計遺伝子から最適な時間を探る

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運動パフォーマンスは時間帯で変動する?!時計遺伝子から最適な時間を探る

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スポーツをしていると、「朝起きた直後は、体が動きにくい」「朝のレースと夕方のレースとでは、体の調子が違った」といった経験をするかもしれません。こうしたことは、気分の問題ではなく、様々な原因が考えられます。

例えば、直前に行ったアップや食事等が考えられます。しっかりアップを行い体を温め、十分に食事を摂っていれば、高いパフォーマンスを発揮することができます。このような外的な要因以外にも、内的な、生理学的な原因もあることが最近知られてきました。つまり、時間帯により運動パフォーマンスが変動する可能性があるのです。

今回は、時間帯により運動パフォーマンスはどのような影響を受けているのか、どの時間帯に運動パフォーマンスが高まるのかについて紹介していこうと思います。

4種類の時計遺伝子がパフォーマンスに影響を及ぼす?!

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見出しにもある通り、時間帯によるパフォーマンスの変動には時計遺伝子というものが関係してきています。さて、時計遺伝子という言葉は聞きなれないかもしれませんが、一体何なのでしょうか。

「体内時計」という言葉があるように、私たちはお昼や夕食どきになったら、お腹が空いたと感じ、食事をします。夜は決まった時間になったら、眠くなり、眠りに着きます。このような食事や睡眠などの、1日の中でのタイミングを概日リズムと呼んでいますが、この概日リズムを作り出しているのが時計遺伝子なのです。

時計遺伝子の中でも、中心的な役割を果たすものとして、Bmal1、Clock、Per、Cryという4つの遺伝子が挙げられます。Bmal1とClockは2つで1つになり、PerとCryという遺伝子の発現を上昇させます。PerとCryはBmal1とClockに対して抑制的な働きをします。

そのため、Bmal1とClockの働きが強い時間とPerとCryの働きが強い時間が生じます。実は、この強弱の周期が24時間とされており、これにより1日の概日リズムが形成されているのです。Bmal1やClockは、様々な遺伝子に影響を及ぼしており、エネルギー代謝も1日の中で変動することが知られています。

例えば、夜食べると太ると言われていますが、これは夜にBmal1の発現が上昇し、脂肪合成系の酵素活性が高まるからとされています。

ミトコンドリアの能力も時間で変動する?!

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時計遺伝子により影響を受けるのは、エネルギー代謝に留まりません。実は、生体内のエネルギー工場であるミトコンドリアの酸化能力にも影響を及ぼします。実際に、健康で規則正しい生活を送っている人を対象として、1日のミトコンドリアの酸化能力を調べた実験があるのですが、午後1時に最も低くなり、午後11時にピークを示すという結果になりました。

別の実験では、時間帯による運動パフォーマンスの変動を調べているのですが、その実験では、起床してから8時間後にパフォーマンスがピークに達するという結果が得られていました。この結果から、運動パフォーマンスの変化はミトコンドリアの酸化能力が変化することで生じたのではないかと考えられます。

それでは、ミトコンドリアの酸化能力は、一体どうして1日の中で変動したのでしょうか。その原因を探るためミトコンドリアの形態を調べました。

ミトコンドリアは、フレキシブルな器官で、常に他のミトコンドリアとくっついたり分裂したりしています。そしてストレスを受けた部分は、使えないので、ゴミ箱に捨てるように分解されます。こうしたミトコンドリアの融合と分解は、様々な酵素により起こるのですが、この酵素活性が概日リズムを示していることが分かりました。

これらだけでは、確実なことは言えませんが、どうやらミトコンドリアの融合と分解のバランスが変わることがミトコンドリアの酸化能力の変動と関連しているようです。

さらに、CryがPPARδという、脂質代謝に関連するタンパク質の働きを阻害することで、運動中の脂肪の利用を減らすということも報告されています。運動中に脂肪が使えないと、運動中のメインとなるエネルギー源であるグリコーゲンの利用が高まり、すぐにグリコーゲンが枯渇するので長時間の運動を行う際には不利になります。こうしたことも時間による運動パフォーマンスの変動と関連しています。

パフォーマンスのピークの時間も変動する?!

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運動パフォーマンスは時間帯により変動するということは、実験的に示されました。では、寝る時間や起きる時間をズラしたら、パフォーマンスがピークに達する時間帯は変わるのかということを調べるため、ある実験が行われました。

その実験では、早寝早起きするパターン、規則正しく寝起きするパターン、遅寝遅起きするパターンの3パターンでパフォーマンスがどう変動するかを調べました。

その結果、遅寝遅起きするパターンでは規則正しく寝起きするパターンよりもパフォーマンスのピークの時間が後ろになり、逆に、早寝早起きするパターンでは、規則正しく寝起きするパターンよりも、パフォーマンスのピークの時間が前に来ました。

予想できる結果ではありましたが、この結果から寝起きする時間帯を変えることでパフォーマンスのピークを意図的にズラすことができることが分かりました。

とは言っても、寝る時間を操り、パフォーマンスを最大に引き上げるという方法は、今のところ確立されていません。こうした研究結果を応用し、実際に現場で活かすのは、難しいところもありますが、さらに研究が進み、アスリートや一般の選手が取り入れられるような方法が確立される日が来るのが楽しみです。