スペイン U-23世代の自転車チームが持つ役割とは

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スペイン U-23世代の自転車チームが持つ役割とは

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若い選手が次々と現れる、スペインの自転車界。最もプロに近いアマチュアのチームのカテゴリーは「サブ23(日本語ではアンダー23)」と呼ばれ、19歳から23歳の年代の選手が所属します。

今回の記事では、このカテゴリーに所属するスペインのチームのプレゼンテーションの様子とチーム監督との会話を通じて、スペイン自転車界におけるサブ23のチームの役割について考察します。

TOP写真:「ラ・トバ・アセンソリア・アルムデバル」のチーム写真。 Photo by Yukari TSUSHIMA

スペインの年齢別育成の段階


Photo by Yukari TSUSHIIMA

スペインで自転車選手育成の最初の段階は、「エスクエラ・デ・シクリズモ(Escuela de ciclismo)」という場所です。日本語に訳すと「自転車学校」。スペインの子供たちは、こうしたところから週に2回ぐらい通う「習い事」として、自転車に乗ることを学び始めます。

「エスクエラ・デ・シクリズモ」には、6歳ぐらいから14歳までの子供たちが通います。6歳で通い始める子供たちのスタート時点での「自転車歴」は様々。補助輪付きの自転車に乗っている子供も、補助輪なしで自転車にすいすい乗っている子供もいます。

ここで子供たちが学ぶことは、基本中の基本である、自転車で「走る」「止まる」「曲がる」こと。しかし、その方法は遊びを交えた、非常に楽しいものです。

このように、子供のころから、自転車の基本的なコントロール技術をしっかりと身につけます。15歳になると、自転車好きの子供は「チーム」に所属し、本格的に自転車レースに参加するようになります。

15・16歳の選手は「カデーテ(cadete)」というカテゴリーに、そして17・18歳の選手は「ジュニア(junior)」というカテゴリーに所属します。

この2つのカテゴリーでは、レース距離や選手が使うことができる自転車のギア比などが、厳密に定められています。つまり、子供たちの体の発達にあったレースができるようになっているのです。そして、ジュニアから、1段上のカテゴリーに上がった選手が、サブ(アンダー)23のチームに所属します。

スペイン・アラゴン州のサブ23チーム「ラ・トバ・アセンソリア・アルムデバル」


Photo by Yukari TSUSHIIMA

今回、取材をお願いしたのは、スペインのアラゴン州を本拠地とする「ラ・トバ・アセンソリア・アルムデバル (La Tova-Asensoria Almudevar)」というチームです。

今年で設立4年目となるこのチームを率いるのはアドリアン・バルセロ(Adrián Barceló)監督。今年で31歳の若き青年監督です。バルセロ監督は、いわゆるプレイング・マネージャー。自分も選手として出走しながら、チームを運営しています。

この日は2019年のシーズン・インを告げる、チームプレゼンテーションの当日。会場は、このチームのスポンサーの一つであるアラゴン州にあるワイナリーのボデガ・ソモス(Bodega Sommos)です。

セレモニーではサイクリスト一人一人の名前とプロフィールが紹介され、壇上に上がります。今年、このチームに所属するサイクリストは、全部で18人。スペイン人選手が大半を占めますが、外国人サイクリストも6人所属しています(イギリス人3人、アルゼンチン人2人、コロンビア人1人)。

そして、スポンサーの紹介が終わった後、アラゴン州出身の2人のプロ・サイクリストから選手たちへメッセージが送られました。


フェルナンド・バルセロ選手のビデオ・メッセージ。Photo by Yukari TSUSHIIMA

最初はフェルナンド・バルセロ選手(Fernando Barceló/Euskadi Basque Country Murias)。彼はビデオで、選手たちにメッセージを送りました。そして、もう一人は、モービースター・チーム (Movistar Team)に所属する、ハイメ・カストリィーリョ選手(Jaime Castrillo)。

カストリィーリョ選手は、このプレゼンテーションの場に駆け付け、選手一人一人の顔を見ながら、直接メッセージを伝えました。


カストリィーリョ選手と一緒に。Photo by Yukari TSUSHIIMA

2人のプロのサイクリストのメッセージを聞く若い選手たちの真剣な表情が、非常に印象的でした。

サブ23のチームの役割とは-バルセロ監督の言葉から


アドリアン・バルセロ監督(写真左)。Photo by Yukari TSUSHIIMA

バルセロ監督は語ります。

数年前まで、アラゴン州にはサブ23のチームが存在しませんでした。だから、18歳で競技を辞めなくてはいけないサイクリストが、本当にたくさんいたんです。また、スキーや陸上競技から自転車に転向する選手、あるいは転向したい選手も少なくありませんでした。でも、そのような選手の受け皿というのがなかったんですね。これは何とかしないと、と考えて、チームを立ち上げたのが4年前。最初はメカニックもマッサージャーもいない中でのスタートでした。幸い、いまでは多くのスポンサーのご尽力があり、チームは一歩一歩確実に成長しています。フランスなど、外国のレースを走ることも珍しくなくなりました。

本日お越しいただきましたカスティーリョ選手をはじめとして、現在アラゴン州出身のサイクリストが4人、プロ・ツールのチームに所属しています。みんな、まだ若い選手ばかりです。彼らの後に続くサイクリストをこのチームから送りだすことが、僕たちの目標です。

そして、今年の所属選手については、

昨年まで、このチームのサイクリストは、みんなスペイン人でした。だから今年6人の外国人選手と契約したのは、僕らにとっても新しいチャレンジなんです。彼らの活躍は、スペイン人選手たちへ良い影響を与えるだろうと思います。

サブ23のチームに所属する選手たちが目指すのは、次の段階、つまりプロ契約できる選手になることです。しかし、その夢への道のりがはっきりと見えるがゆえに、そこへたどり着くための難しさというものにも直面します。

例えば、ジュニアのカテゴリーではチームのエースとして走っていても、サブ23のチームに加入するとアシスト役に転向するサイクリストが大勢います。そうしたアシスト役の選手に、自分の役割の重要性を認識させることが、このカテゴリーをチームを持つ監督の仕事の一つであったりするのです。

実は、この日ビデオメッセージを寄せたフェルナンド・バルセロ選手は、バルセロ監督の弟さんです。そのため、監督自身がトップクラスのプロのレースの厳しさや難しさを熟知しています。


フェルナンド・バルセロ選手(左)とアドリアン・バルセロ監督(右)。Photo by Yukari TSUSHIIMA

自転車をよく知っている若い人たちが、第1線で指導をしているのが、スペインのサブ23のチームなのです。

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