若きサイクリスト達の活躍と歴史ある自転車レースの復活 -ブエルタ・アラゴン-
WATCH若きサイクリスト達の活躍と歴史ある自転車レースの復活 -ブエルタ・アラゴン-
毎年5月中旬に開催される自転車レースのブエルタ・アラゴン(Vuelta a Aragón)。春のスペイン自転車レース・ウィークの最後を飾るレースです。
このレースの舞台は、ピレネー山脈の麓のあるアラゴン地方。近年、この地方出身の4人の若手サイクリストが、ヨーロッパのトップクラスの自転車レースで大活躍しています。そのため、現在スペイン自転車界が非常に注目している地域でもあるのです。
この地で開催された3日間のレースの様子を、この地方出身の若手サイクリストの紹介とともに、この記事でレポートします。
TOP写真:地元アラゴン出身の4人選手がそろい踏み。写真左から、ホルヘ・アルカス選手、セルジオ・サミテエル選手、フェルナンド・バルセロ選手、ハイメ・カストリーリョ選手。(Photo by Yukari TSUSHIMA)
11年に及ぶレースの中断と復活
アルカス選手とカストリーリョ選手が地元の自転車学校の子供たちと一緒に記念撮影。Photo by Yukari TSUSHIMA
ブエルタ・アラゴンの第1回目の開催は、今から80年前の1939年のこと。スペインのレースで最も歴史のあるレースの一つです。しかし、このレースは、スペイン内戦や経済危機の影響などにより、過去に何回か開催されない時期がありました。最近では2006年から2017年の11年間にわたり、開催が中断されていました。
しかし、その歴代優勝者の顔ぶれはなかなか豪華なもの。ツール・ド・フランス優勝のペドロ・デルガド(Pedro Delgado)氏、コロンビア人サイクリストで1987年のブエルタ・エスパ―ニャの総合優勝者のルチョ・エレラ(Lucho Herrera)氏、そしてイタリア人サイクリストのレオナルド・ピエポリ(Leonardo Piepoli)氏はこのレースで3回優勝しています。
そんな歴史あるレースが復活したのは、昨年の2018年のこと。復活2回目となる今回のレースでは、スペイン国内だけでなく、フランスやポルトガル、ロシア、イタリアからもチームが参戦しました。
このレースは、ピレネー山脈がレースの舞台となるので、コースは基本的に登り基調。しかし、アラゴン地方にはいくつか強風で有名な街があるため、風との戦いにも注意が必要な、難しいレースでもあるのです。
アラゴン地方出身の若手サイクリストたち
第3ステージのスタート前。バルセロ選手をご家族の皆さんが取り囲みます。Photo by Yukari TSUSHIMA
長年開催が見送られていたブエルタ・アラゴンを復活させる原動力の一つが、この地方出身の4人の現役自転車選手の活躍でした。彼らはみんな、20代の若さでヨーロッパ各地での自転車レースに出走、目覚ましい成果を上げています。
ここでは、そんなアラゴン地方出身の現役自転車選手たちを簡単にご紹介します。近い将来、ツール・ド・フランスやブエルタ・エスパーニャなどの大レースで活躍する可能性の高い選手たちばかりです。
まず、プロ・コンチネンタル・チームのエウスカディ・バスク・カントリー・ムリアス(Euskadi Basque Country Murias)に所属する、アラゴン出身の自転車選手からご紹介しましょう。フェルナンド・バルセロ(Fernando Barceló)選手とセルジオ・サミテエル(Sergio Samitier)選手です。
バルセロ選手(左)とサミテエル選手(右)。Photo by Yukari TSUSHIMA
バルセロ選手は、1996年生まれの23歳。ジュニアのころには、アルベルト・コンタドールが設立した自転車チームで経験を積みました。
2018年には「23歳以下サイクリストのためのツール・ド・フランス」と呼ばれる、ツール・ド・ラブ二エールの第9ステージで区間優勝。雨や強風あるいは雪といった悪天候も問題とせず、実力を発揮することができるクライマーです。
通称「サミー」と呼ばれるサミテエル選手は、1995年生まれの24歳。アンダー23のスペインチャンピオンの経験もあり、基本的にはクライマーです。
しかし、彼の本当の実力はどんな天候でも恐れずに集団から飛び出し、単独で逃げ続けることができる、勇気と決断力にあります。まだ若いにもかかわらず、他のプロツールのチームからも「逃げたら要注意な選手」としてマークされている存在です。
ちなみに、今年のブエルタ・アラゴンで一番盛り上がっていたのが、この2人の応援団でした。第3ステージのスタート地点だったウエスカ(Huesca)はバルセロ選手の地元です。
バルセロ選手のファン・クラブ。Photo by Yukari TSUSHIMA
一方、サミテエル選手の地元は、この日のスタート地点からわずか15㎞。友人たちが、自転車で駆け付けます。
サミテエル選手のファン・クラブ。Photo by Yukari TSUSHIMA
そして、チーム・モービースター(Team Movistar)にも、2人のアラゴン地方出身のサイクリストがいます。ホルヘ・アルカス(Jorge Arcas)選手とハイメ・カストリーリョ(Jaime Castrillo)選手です。
アルカス選手(左)とカストリーリョ選手(右)Photo by Yukari TSUSHIMA
アルカス選手は1992年生まれの27歳。ステージレースを中心にモービースターのエースたちを助けるアシスト役として活躍しています。
187㎝の長身でレースの終盤に高速で集団を引っ張る姿は、スペインのレースではおなじみものです。モービースターの重要なチーム哲学である、「良きアシスト」としての役割を受け継ぐ選手です。
カストリーリョ選手は1996年生まれの23歳。2017年のアンダー23のタイムトライアルのスペインチャンピオンです。昨年2018年からモービースターに移籍しました。16歳まではその長身(186㎝)を生かしバスケットボールの選手だった、という彼。
その後自転車選手に転向し、タイムトライアルはもちろん、登りも平地もこなせる選手として、モービースターでレース経験を積んでいます。この4選手の活躍が、アラゴン地方に自転車レースの復活をもたらした要因となっているのです。
強風とスプリント勝負
ブエルタ・アラゴンを制したエドゥアルド・プラデス (Eduardo Prades) 選手。彼は、かつて日本でレースを走っていた経験があります。なおモービースターは、ブエルタ・アラゴンを2年連続で制覇。Photo by Yukari TSUSHIMA.
今年のブエルタ・アラゴンは雨と風の中での開催となりました。元々アラゴン地方は、ピレネー山脈から吹き下ろす強風が有名なところです。しかし、レース開催期間中は、特にこのピレネーおろしの風が強く選手たちに吹き付けました。
また前半の2ステージは、風に加えて雨も降るという過酷なコンディション。完全防寒で選手たちはレースに挑むことになりました。
完全防寒でスタートラインに向かうサイクリストたち。Photo by Yukari TSUSHIMA
そうした過酷なレース・コンディションのためか、有力な選手同士でタイム差がほとんど付かないまま迎えた、最終第3ステージ。
ゴール前のスプリントでは、30人ぐらいのサイクリストが一気にゴールになだれ込みました。
その結果、今年のブエルタ・アラゴンの総合優勝に輝いたのはモービースター所属のエドゥアルド・プラデス選手。彼がゴール直後に言ったことは、
マリオ・チッポリーニみたいなスプリントだったよ。
来年以降も開催が予定されているブエルタ・アラゴン。これから新たな歴史を作っていこうとする地元出身の選手や大会関係者たちの表情が、非常に印象的でした。