Jリーガーと高校サッカー部が描くフットボールがつなげる未来

Jリーガーと高校サッカー部が描くフットボールがつなげる未来 SUPPORT

Jリーガーと高校サッカー部が描くフットボールがつなげる未来

スポーティ

児童養護施設の子どもたちが目標や夢を持つことができるように…。そんな願いをフットボールに込めて活動しているのが、“F-connect(フットボールコネクト)”です。小池純輝選手(東京ヴェルディ)と梶川諒太選手(徳島ヴォルティス)が中心となって設立したプロジェクトです。

ひとつのサッカーボールが、子どもたちの未来と笑顔を広げる!!


小池選手と南中サッカー部

小池選手は、“F-connect”を立ち上げた経緯をこのように振り返ってくれました。

2014年のことです。当時所属していた横浜FCのスタッフに誘われて、プライベートで仲の良かった梶川選手と一緒に鎌倉の児童養護施設に遊びに行ったのですが、子どもたちから歓迎を受けて、僕らと一緒にサッカーをやることをとても喜んでくれたんです。そこで後日、子どもたちを三ツ沢競技場に招待したのですが、今度は『小池選手がんばって!』とずっと声援を送ってくれたんです。

それから3、4カ月後、Jリーグはシーズンオフに入り、小池選手と梶川選手は、ふたたび鎌倉の施設を訪ねました。すると子どもたちはみんな、二人の名前をちゃんと覚えていたのです。

児童養護施設の職員の方から、サッカーを始めた子がいるとか、僕らとお揃いのシューズを買った子がいると教えてもらいました。普段だったら、みんなでサッカーをやっていても、輪の中に入って来ないような子も、いつの間にか僕らと一緒にサッカーボールを追いかけていたなどの話しも聞きました。だから僕らの方が子どもたちから元気をもらってばかりだったんです(笑)。でも、そうやって接しているうちに、子どもたちと身近に触れ合った僕らがスタジアムで一生懸命に戦っている姿を見てもらうことで、子どもたちにも目標を持ってもらえるかもしれないと思ったんです。

フットボールの可能性を確信した小池選手と梶川選手は、チャリティーイベントやグッズ販売で得た収益で、児童養護施設の子どもたちをJリーグの試合に招待できるようにと翌15年に“F-connect”を本格的にスタートさせました。

児童養護施設を訪問するだけではなく、毎年12月になると、神奈川県内の児童施設の子どもたちを招待するフットボールイベントを開催しています。

これまで数々のフットサルイベントを成功させてきた総合フットサルコミュニティサイト「SMILE FUTSAL」を運営する株式会社Criacao(クリアソン)が協賛し、横浜市立みなと総合高等学校のグラウンドが会場となりました。

同校の女子フットサル部は、これまで震災復興支援イベントなど、フットサルを通じたチャリティーイベントのノウハウを積み重ねてきた実績があります。18年からは横浜市立南高等学校・附属中学校へと舞台は移され、みなと総合高校・女子フットサル部から、南高校・男子サッカー部へと受け継がれることになりました。

F-connectのメンバーも設立当時の2人から6人に増えました。野村直輝選手(大分トリニータ)、新井純平選手(FC琉球 2019年シーズンで引退)、三鬼海選手(モンテディオ山形)、山崎浩介選手(愛媛FC)の4人が加わりました。F-connectの活動に賛同するJリーガーの輪も広がっているのです。

また来たい、また会いたいー1年に1回、フットボールのつながりを感じる日

2019年12月8日(日)には5年連続5回目となるミニサッカー大会が開催され、神奈川県内の児童養護施設で生活する子どもたちが招待されました。

F-connectのJリーガーは、小池選手、梶川選手、新井選手の3名が参加。ちょうどこの日は「2019 J1参入プレーオフ」の第2回戦“徳島ヴォルティス対モンテディオ山形”があったため、野村選手(19年シーズンは徳島ヴォルティス)と三鬼選手(モンテディオ山形)は徳島県鳴門で対戦中。愛媛の山崎選手も参加できませんでした。


左から新井選手、小池選手、安在選手、梶川選手

けれどもイベントを盛り上げようと、F-connect、横浜市立南高校サッカー部、Criacao(クリアソン)による息の合ったトリオを、附属中サッカー部と南高校放送部がバックアップします。

校庭にセットアップされた放送機器からは、放送部員による軽妙なおしゃべりとBGMの軽快な音楽が流れて、さながらミニFM局のようでした。これまで放送部の主な活動は学校行事の音響や照明担当が中心でした。普段はフットボールと関わりのない部活も、F-connectが縁となって活動の場が広がります。

たくさんのゲストもサポートにやってきました。岡本達也さん(元ジュビロ磐田)と安藤寛明さん(元徳島ヴォルティス)は横浜市出身の元Jリーガーです。

プロフットバックプレイヤー・石田太志さん(14、18年の世界チャンピオン)とフリースタイルフットボーラー・YOさんは子どもたちにパフォーマンスを披露。小池選手の所属する東京ヴェルディからは安在達弥選手(20年はアスルクラロ沼津に期限付き移籍)も駆けつけました。


YOさん

また、南高校サッカー部のOBによるシニアチームからは、びっくりするほどたくさんの菓子パンの差し入れがあり、お昼になると、南高校サッカー部の保護者による手作りカレーの香りが食堂いっぱいに広がっていました。小池選手はこう話します。

みんな、それぞれの“思い”があって参加してくれます。その“思い”のある人たちが集まって、毎年やるたびにとても良いイベントになっていくのを感じます。5回目になって、選手のつながりも増えて輪も広がっているという実感があります。今回は後輩の安在選手も来てくれました。こういう機会を経験して興味を持ってくれたらいいですね。毎年積み重ねていったことで、子どもたちにも恒例の行事になっているようです。今日来た子どもが『去年もCチームだったよ!』って話してくれました。

ミニサッカーゲームが始まると、ボールを追いかけて一生懸命に走る小さな子どもたちの姿がありました。ゲームの空き時間に、F-connectのメンバーとボール遊びをしている子どもたちもいました。

石田太志さんにフットバックの妙技を見せてもらったり、YOさんにフリースタイル・フットボールのコツを聞いたりしている子もいました。コートでは、F-connectのメンバーがニコニコしながら小さな子に柔らかなパスを出していました。


石田さん

中学生と高校生のサッカー部員は、そのF-connectのメンバーからボールを奪おうと奮闘していました。

横浜市立南高校サッカー部・顧問の蛭田祥友先生は「僕は、生徒たちに『我々が意図するように感じて欲しい』と期待してイベントをやっているわけではないんですよ」と教えてくれました。蛭田先生は、2018年にみなと総合高校から南高校へと転任してきました。

イベントを成功させるためには、生徒の力が必要です。いくら僕が良いと思っていても、生徒たちが動いてくれなければ何もできません。だから、まず生徒たちに、僕がこれまで、震災復興イベントやF-connectとのイベントに、どのような思いで取り組んできたのかということや、僕が信じているフットボールの可能性について本音をぶつけました。

ただ、(児童養護施設の子どもたちは)何らかの事情があって親御さんと暮らすことができないけれど、その何らかの事情まで(みんなは)考えないでいいよ。広いグラウンドがあって、ボールが転がっていて、たくさん走ることができる。そこに子どもたちがいるだけだからね。このように話した上で、生徒たちに参加を強制するのではなく『頼みますね、お願いしますね』と頭を下げたんです。生徒たちは、それだけでわかってくれたと思います。

児童養護施設の子どもたちを支援するプロサッカー選手がいます。活動に賛同する大人たちもいます。性別も年齢も職業も違うけれど、みんなが1年に1回だけ12月になると集まってフットボールで遊ぶ日があります。

その日のために南高校のサッカー部員は、事前に準備をして、当日はグラウンドづくりから始まり、サッカーを一緒にプレーをして、最後は食堂の清掃とグラウンドの整備をして1日を終えました。

どうしても大人は正解を用意して、子どもたちが正しく解答することを期待します。でも、ここでは『みんなが思ったことや感じたことが正解だよ』という感じですね。

そう蛭田先生は言うと、そういえばと話を続けます。それは、F-connectのイベントを共催している株式会社Criacao 取締役CSO・竹田好洋氏の元に届いた1通のメールのことです。差出人は、かつて、みなと総合高校の復興支援フットサルイベントに招待した福島県の高校生でした。

いまは大学生になって、フットサルの全国大会で準決勝まで勝ち進んだということで、その準決勝の前日にメールをくれたようなんですが『あのイベントでサポートしてもらったことを思い出しながら自分たちはがんばってきました。明日は難しい試合だけれど、がんばります』と書かれていたそうです。僕らがやっていたことが励みになっていたなんて嬉しいことですよね。きっと、その話を今日手伝ってくれた生徒たちにすると“嬉しい”という意味を理解してくれる子もいると思うんです。もちろん、そこには気がつかない子もいるかもしれませんが――それでいいんじゃないですか。

この日、南高校のグラウンドには、かつてF-connectのイベントを経験した、みなと総合高校の女子フットサル部OBの女性も顔を出していました。蛭田先生が次のように話をしてくれました。

みなと総合高校では再会できませんが、そんな“思い”を持ち続けてくれている人たちが、今度は南高校に集まってくれたらと思うんです。このイベントをやめてしまうのは簡単です。でも、一度やめてしまったら、もう次にスタートするのは難しいですよね。だから続けていこうと思います。

最後に、小池選手も力強く次のように語ってくれました。

そうですね。(子どもたちも含め)みんなに笑顔が多かったのは、楽しい空気が伝わっていたからなんでしょうね。それが『次も来たい!』とか『またボールを蹴りたい!』ということにつながるんだと思います。F-connectは、子どもたちが夢や目標を持つためのきっかけづくりをテーマに、これからも続けていきます。

F-connect イベント サッカー 横浜市立みなと総合高等学校