怪我を早く治したかったら、休むな、そして冷やすな。R.I.C.E. がもう時代遅れと言われる訳。

怪我を早く治したかったら、休むな、そして冷やすな。R.I.C.E. がもう時代遅れと言われる訳。 DO

怪我を早く治したかったら、休むな、そして冷やすな。R.I.C.E. がもう時代遅れと言われる訳。

スポーティ

スポーツをしていて打撲や捻挫などの怪我をしてしまったとき、あるいはひどい筋肉痛になってしまったとき、回復方法の基本原則は、「R.I.C.E.」 処置だと長い間信じられてきました。Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)、これらの頭文字をとったものです。

1978年にマーキン博士が初めて提唱して以来、R.I.C.E. は、スポーツ関係者の間でほぼスタンダードとして機能してきました。筆者もほぼ1年前となる2019年1月24日付けの以下の記事でR.I.C.E.の理論と実践例を紹介したことがあります。

前記事:「フルマラソンの筋肉痛を半日で消す回復法の理論と実践」

ところが、このR.I.C.E. の治療回復効果に疑問を呈し、さらには時代遅れとまで主張する説を最近よく目にするようになりました。上の記事の中でも、Rest(安静)を否定し、休むより軽く動いた方がむしろ回復が早まるという説が出てきていることには触れました。

さらに、最近ではIce(冷却)も否定されつつあります。患部を冷やすと痛みは軽減されます。腫れも引きます。しかしながら、それは筋肉の炎症を防いでいるのではなく、単にそれを遅らせているだけで、回復にかかる時間はかえって長くなってしまうと言うものです。

もちろん、たとえ定説と呼ばれる理論であっても、それを疑ってみることは良いことです。ある理論を妄信して、それが絶対の真理であるとしてしまっては科学の発展もスポーツの発展もありません。

自分がそれまで強く信じてきて、しかも他人にまで勧めてしまっていた説であっても、「実は間違っていたのではないか?もっと良い方法があるのではないか」と常に問いかける姿勢をもつべきなのです。

言い訳が大げさになりましたが、それほど筆者にとってR.I.C.E.が否定されることは大きな驚きであったのです。しかしながら、筆者とは比べ物にならないほど、この理論と深い関係を持つ人物もR.I.C.E.は間違いであったと公言しています。なんとR.I.C.E.の提唱者であるマーキン博士自身です。

R.I.C.E. 提唱者マーキン博士が自説を自ら否定

マーキン博士は、自身のホームページで以下のように述べています。
>>http://www.drmirkin.com/fitness/why-ice-delays-recovery.html

私が1978年にベストセラーとなった『Sportsmedicine Book』を書いた際、RICEという用語をアスリートの怪我に対する治療法として提唱した。それ以来、冷却は怪我や筋肉痛に対する治療方法のスタンダードであった。そうすることによって傷ついた筋繊維から生じる痛みが和らぐからだ。指導者たちは数十年に渡って、このRICEをガイドラインとして使ってきた。だが、現在明らかになったのは、冷却も完全な休息も回復を遅らせているだけで、効果がないということだ。

最近の研究では、激しい筋肉痛を負ったアスリートはむしろ動くことを勧められている。冷却は腫れを遅らせることはできるが、筋肉のダメージからの回復を速めはしない。


アイシングには意味はなかったのか?

自らを有名にした自説をかくも明確に否定するマーキン博士には、深い尊敬の念を覚えずにはいられません。博士を見習って、筆者も「休まない、冷やさない」回復法を試してみることにしました。

もちろん、筆者は学者ではありませんので、理論の検証は手に負えません。できることは自分の体を使って実験してみることしかありません。

フルマラソンを走った後の筋肉痛からいかに回復するか-再実験

前回の記事では「フルマラソン(42.195キロ)のレースを走った後に、その翌日までにスクワットができるくらいまで回復する」がテーマでした。そのときはR.I.C.E. を施し、さらに過剰なほどの栄養補給とセルフマッサージを行いました。

今回の実験では、前回となるべく同じ条件下において、休息の代わりに軽い運動、冷却をしない、というやり方で筋肉痛から回復できるのか、をテーマにしました。以下、時系列に実験内容と経過を紹介します。

■再実験経過

午前7時:フルマラソン出発。前回走ったのはカリフォルニア州ハンティントン・ビーチ市で毎年行われる『Surf City Marathon』です。

筆者の自宅からは約20分の距離にあります。今回はレースではありませんので、自分で勝手に歩道を走るだけです。信号待ちが少しある以外は、すべてレースと同じコースを走ることができます。

午前11時:フルマラソン完走。タイムは約4時間。持ちタイムはもう少し速いのですが、今回は事前に特別な準備をしていないので、まあこれくらいかなという感じです。そんなことよりも大切なのは筋肉痛なのですが、こちらはしっかりとした成果を得ることができました。痛む脚を引きずって、駐車した車に向かいます。

正午:帰宅後、すぐにシャワーを浴びました。普通の温水シャワーです。前回は車のなかでも冷却スプレーをかけ、帰宅直後に冷水シャワーを浴びましたが、今回はそれらを省いています。特に温めはしませんが、冷却もしません。

午後:昼食を食べ、その後はゴロゴロしたい気持ちを抑え、体を動かすことにしました。具体的には、家の大掃除です(ちょうど年末だったのです)。色々なモノを片付け、床に掃除機をかけ、普段は拭かないところにまで手を伸ばすことで、ジムに行くよりも機能的な運動ができたように思えます。

少なくとも実用的ではありました。ただ掃除をすると考えると、ウンザリするのですが、回復のためのリハビリだと思えば気分もやや軽くはなりますので、悪くないアイデアではないかと思います。

:夕食もこれでもかというくらいの量を食べました。これも前回のときと同じです。実験においては他の影響要因をなるべく除外する必要があるからです。だから、前回同様、嫌々(?)、ビールもしっかり飲みました。

夕食後のフォームローラーによるセルフマッサージも行いました。感覚的には、このセルフマッサージがもっとも固くなった筋肉をほぐす効果があったような気がしました。

再実験結果

結果として、今回も翌朝には筋肉痛はほとんど消えていました。軽くジョグをしてみると、もちろん脚が重いとは感じましたが、痛みはありませんでした。スクワットもできました。

前回と比べ、より早かったかどうかはわかりませんが、少なくとも同程度には回復したようです。つまり、筋肉痛から回復するのに、冷却スプレーもアイスパックも冷水シャワーも昼寝も必要ではなかった、というのがこの実験から筆者が得た結論です。それらが逆効果であったかどうかは判断できません。

まとめ

R.I.C.E.はもはや最善の回復法ではない。それならばどうすればよいのか?という疑問について、マーキン博士は以下のように提案しています。

怪我をしたら、すぐに運動を中止してください。もし痛みがひどかったり、動くことができなかったり、また意識を1時的にも失ったりしたような場合は、救急医療が必要かチェックを受けなくてはいけません。出血があれば消毒し、もし可能なら患部を挙上して、腫れを最小限に抑えます。骨に異常がないか、動いてもダメージが悪化しないかを確認しなくてはいけません。

怪我が筋肉または他の軟部組織に限定される場合はバンデージなどで固定してもよいでしょう。患部を冷やすと痛みが和らぐことは確かなので、怪我した直後に短い時間だけ冷やすのは問題ありません。10分冷やして、20分間隔を置いてから、また10分冷やす。これを1回か2回繰り返してみてもいいでしょう。ただし、怪我をしてから6時間以上経った後での冷却には意味がありません。


Compression(圧迫)とElevation(挙上)はまだ有効だと信じられている。

もし怪我の度合いがひどい場合は、リハビリは医師の指示に従ってください。軽い怪我のときは、翌日からリハビリを始めてかまわないでしょう。痛みが悪化しない限りは、怪我をした箇所をなるべく動かしてください。痛みが消えたら、すぐにスポーツに復帰することができます。

R.I.C.E. トレーニング 筋肉痛