100対0の試合がありえない理由。レベル別に分けられたリーグ戦-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その3

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100対0の試合がありえない理由。レベル別に分けられたリーグ戦-日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動その3

スポーティ

日本と同じように、あるいはそれ以上に、米国では高校の課外活動としてのスポーツが盛んです。部活動はスポーツをする貴重な機会を生徒たちに与えてくれます。

部活動を通して、かけがえのない一生の友人を作った人も多いでしょう。その一方で、「ブラック部活」という言葉に象徴されるように、長時間の練習や顧問教員の超過労働など、様々な弊害も生じていることが指摘されています。

私は2017年からカリフォルニア州オレンジ郡にある私立高校でクロスカントリー走部の監督を務めています。さらに2020年からは同じくオレンジ郡にある別の公立高校で野球部のコーチにもなりました。

米国での部活動スポーツが実際にどのように行われているのか、現場から見た様子をご紹介します。

前回記事>>日本人コーチが紹介する米国のスポーツ部活動-PART2-

すべての高校は同じではないという大前提

昨年の日本はラグビー・ワールドカップで大いに沸きました。昭和生まれの私はラグビーと聞くと、かの名作TVドラマ『スクールウォーズ』が反射的に頭に浮かびます。109対0の大差で負けた後のロッカールームで、監督が「同じ高校生だろ、お前たち悔しくないのか!」と檄を飛ばし、「悔しいです!」を叫んだ生徒たちを1人1人、涙を浮かべながら殴り倒すシーンは今思い出しても胸が熱くなります。

しかし、ドラマでは名場面になり得ても、もし現実にこんな試合が起きてしまったら、はたしてそれは教育的見地から見てどうなのでしょうか?ドラマでは大差で負けた高校が、その後で猛練習をしてライバル校を倒すことになっていますが、現実がいつもそのようにドラマチックな結末を迎えるわけではないことは皆さんがご存知の通りです。

日本の高校野球では実際に、122対0というドラマ以上の大差がついた試合が成立した記録が残っています(1998年青森大会)。勝ち抜きトーナメントですから、負けた方のチームの3年生はこの試合が最後だったはずです。

誰もが大学でスポーツを続けるわけでも、プロになるわけでもありません。極端な大差で負けてしまった試合が高校生活最後の試合、あるいは唯一の試合になったとしたら、その人は高校で部活動をしたことを懐かしく思い出すでしょうか?

スポーツに力を入れている高校も、そうでない高校もあります。生徒数が多い高校も、少ない高校もあります。それらを考慮せず、すべて同じ条件で競わせることが、はたしてフェアな戦いだと言えるでしょうか。野球に限らず、私は日本の高校スポーツは平等ではあっても公平ではないと考えています。

ディビジョンごとに優勝校 -カリフォルニア州の場合

カリフォルニア州の高校スポーツを統括する組織(CIF – California Interscholastic Federation)は、「セクション」と呼ばれるカリフォルニアを10に分けた広範囲の地域に分かれます。

ロサンゼルス、サンフランシスコなどの大都市は、それぞれ1つのセクションとなり、私が指導する2つの高校はともに「ロサンゼルスとサンディエゴを除いた南カリフォルニア一帯」セクションに入ります。

この地域(セクション)による分類とは別に、CIFは個々のスポーツの特性や競技人口に応じて、すべてのチームを競技レベルごとのディビジョンに振り分けます。

例えば、野球は前年度のリーグ戦の勝率によって、7つのディビジョンに分かれます。クロスカントリー走は学校の総生徒数によって、5つのディビジョンに分かれます。

そして、CIFの公式大会はすべてディビジョンごとに分かれて開催され、それぞれのディビジョン内で順位を決めます。

米国の高校スポーツには全国レベルの大会はありません。CIFの大会がカリフォルニアのすべての高校生アスリートたちにとって最高の舞台となります。

ますは5~10校ぐらいで構成される地元リーグ戦で上位に入ると、セクションごとの地域トーナメントに進出できます。

地元リーグ戦も地域トーナメントもディビジョンごとに分かれて行われますので、すべての高校が自分たちと似たレベルの高校とのみ試合をすることになります。1つのセクションに野球なら7つのCIFディビジョン優勝チームが生まれ、クロスカントリー走には5つのCIFディビジョン優勝チームが生まれます。

そして、スポーツによっては、各セクション(地域)、各ディビジョン(競技レベル)の上位入賞校がさらに上の州大会へと進みます。ちなみに野球には州大会がありません。

接戦の試合を多くこなすことが競技力アップにつながり、スポーツマンシップを育てる

私が所属するラグナヒルズ高校野球チームは、昨年ディビジョン4で勝率が低く、今年は1段階下のディビジョン5で迎えました。

レギュラーシーズンは、22試合が予定されていて、ここまでおよそ半分の10試合を消化しました。対戦相手は似たようなレベルの学校なので、どの試合も接戦でした。1試合だけ11点差で負けましたが、それ以外の試合はすべて4点差以内に収まっています。

勝つにしろ負けるにしろ、野球で4点差といえば、最後までどう転ぶかわかりません。試合が終わる瞬間まで、勝利を確信して油断することもなければ、敗北が明らかになって諦めることもありません。常に緊張感をもって実戦経験を積むことができます。

とは言っても、負けたら終わりの勝ち抜きトーナメントと違いますので、選手たちには過大なプレッシャーがかかることはありません。目の前の試合を楽しむことができますし、勝敗結果にかかわらず、次の試合にその経験を生かすこともできます。

接戦の試合こそがスポーツの醍醐味です。極端な大差がつく試合は勝者にも敗者にもメリットはありません。勝った方に慢心が、負けた方に屈辱が、それぞれに生まれるだけです。それでは対戦相手に敬意を持つことも難しいでしょう。何よりスポーツそのものが楽しくなくなります。部活動スポーツの目的を教育に置くのであれば、競技レベルの違いが大きすぎる試合はけっして望ましい姿だとは思えません。 

プロスポーツではファンの興味を繋ぎ止めるために戦力均衡に力を注ぎます。それとは目的が異なりますが、教育的見地から見ても、部活動スポーツにはなるべく同じようなレベル、同じような条件の学校同士を対戦させる仕組みが必要ではないでしょうか。

アメリカ 部活動