最適な水分補給のために、発汗によって失われる水分とナトリウムを把握しよう
DO最適な水分補給のために、発汗によって失われる水分とナトリウムを把握しよう
昭和40年代生まれの筆者は、スポーツをするときに水を飲むなと言われた最後の世代ではないでしょうか。水を飲んだら余計に疲れると本気で信じられていた時代でした。少年野球をしていた頃、よく監督の目を盗んで水道の蛇口から直接水をがぶ飲みしていたことを今でもよく覚えています。大人の言うことを聞かないワルイ子だったわけですが、今から振り返ってみると、正しかったのはどうやら僕らだったようです。
現在では水分補給の重要性は広く世間で認識されています。アスリートの健康と安全のため、そして高いパフォーマンスを発揮するために、汗で失われた水分は速やかに補給しなくてはいけないと、どんな指導者もアスリート自身も分かっています(と願います)。
しかし、そこから一歩踏み込んで、運動中のどのタイミングで、そしてどれくらいの水分を補給すればよいか、という具体的な話になると、何となくこれくらいかなと言った感覚的なイメージしか湧いてこないのではないでしょうか。
発汗量には個人差がある
アスリートは体内の水分量が適切に保たれているときに自分が持っている最大の能力を発揮することができます。その水分は運動すると汗で体外に流れ出てしまいますので、その失われた水分をどこかで補給しなくてはいけません。
問題は、どれだけの水分が失われるかには多くの要因が影響することです。一般的には運動の強度が高ければ高くなるほど、流れる汗の量は多くなります。気温や湿度が高いときも同様です。
ウェアが汗で重くなるほどの汗をかけば、大量の水分が流れ出たことは誰の目にも明らかです。しかし、それが500mlなのか1リットルなのか、正確な数字で言い当てられる人は少ないでしょう。仮に同じ時間と場所で同じ運動をしたとしても、アスリートの発汗量は個人の体格や体質によって異なります。従って、必要とされる水分補給の量も本来なら個別化されるべきなのです。
例えば、マラソン大会を思い浮かべてほしいと思います。10キロの地点でエイドステーションがあったとします。そこに2人のランナーが同時に到着したなら、その2人は気温や湿度などの天候要因が同じ条件で、同じ種類の運動を、おなじペースで行ってきたことになります。しかし、その2人がそれまでに流した汗が同じ量であるとは限りません。そのエイドステーションでコップ一杯の水を飲んだとしても、1人には多すぎたかもしれませんし、もう1人には少なすぎたかもしれないのです。
発汗量テストで自身の基準値を把握する_ある実験例
自分に適した水分補給を計画するためには、自分がどれくらいの汗をかく体質なのかを把握しておくと便利です。スポーツ選手なら、専門とするスポーツを平均的な天候状態のときに行ったときの発汗量が分かれば、それを基準値として、状況に応じて微調整できるからです。
発汗量を計測するもっとも簡単な方法は運動前後の体重を比較することです。仮に1時間の運動をする前と後で体重が1キロ減ったとしましょう。 水の質量は1g = 1mlですので、汗で失われた水分は1リットルとほぼ推測することができます。厳密には体重の増減は汗以外の要因も関わってくるのですが、それでも近似値として用いることはできるでしょう。
具体的に自分の身体を使って実験してみました。1時間のランニングと、同じく1時間のサイクリングを、同じジムで、2日連続で同じ時間帯に行い、可能な限り外的要因を揃えた上で、それぞれの体重の変化を比較してみたのです。以下がその結果です。
1時間の運動前後における体重の変化
ランニングの方がサイクリングより50%ほど体重減の数値が大きくなっていました。つまり、それだけ発汗量も多かったということです。これは主観的な疲労度とも一致しています。
どちらにしても、普通のペットボトルのサイズが350mlや500mlですので、わずか1時間の軽い運動でもそれ以上の汗をかいている、ということのようです。この実験は空調が効いた屋内のジムで、ゆっくりとしたペースで行いました。気温や湿度が高い時、あるいはペースや強度を上げたときは、発汗量がさらに多くなるであろうことは言うまでもありません。
汗で失われる水分とナトリウム量を計測するパッチ
ところで、汗には水分の他にナトリウム(塩分)が含まれています。大量に汗をかいた後で肌をなめると塩辛い味がするのはそのためです。そのようなときは血中のナトリウム濃度が薄くなっていますので、水だけを飲むとさらにその濃度が低くなってしまいます。すると身体は濃度を上げるために水分を汗や尿で排出しようとするので、いくら水を飲んでも脱水状態に陥ってしまうことがあります。
従って、大量の汗をかいたときは、スポーツドリンクや電解質入りの水を補給することが望ましいのですが、このナトリウムレベルは水分量とは異なり、体重の増減では把握することができません。
米国スポーツドリンク大手の『Gatorade』がその点に着目し、運動によって失われる発汗量とナトリウムレベルを計測できるパッチ*¹の販売を開始しました。
運動時にこのパッチを左腕に着用して、運動後にスマホ上の専門アプリでパッチをスキャンすると、失われた水分とナトリウムの量を表示してくれます。筆者は上記の実験時にこのパッチも着用しました。水分量に関しては体重減とほぼ同じ数値が出ましたが、ナトリウム量はランニング時が767ミリグラム、サイクリング時はゼロという結果でした。どうやら発汗量がそれほど多くないときは、ナトリウムレベルはあまり心配しなくてもよいようです。
*¹:https://www.gatorade.com/gx/sweatpatch
筆者が実験した際のGatorade アプリの結果スクリーンショット。左側がランニング時、右側がサイクリング時のもの。さらにこの製品は、あらかじめアプリに登録した個人の身体データから、それぞれの体質にあった水分補給をアドバイスもしてくれます。
もちろん、Gatoradeは自社製品の宣伝が目的ですので、そのアドバイスには「我が社のスポーツドリンクを何時にこれだけ飲みなさい」といったものも含まれるわけですが、個人の体質と運動レベルに応じた水分補給というコンセプトはとても意義があるものだと筆者は考えています。
このGatorade社のパッチはまだ日本国内では販売していないようですが、グーグルで「発汗量 計測パッチ」で検索すると、類似しているように見える他社製品がいくつかヒットしました。興味のある人は試してみては如何でしょう。