「いくら走っても痩せない」は人類が進化したせい?

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「いくら走っても痩せない」は人類が進化したせい?

スポーティ

有史以前の狩猟採集時代、人類は獲物となる動物を追いかけるうちに、より長く走り続ける能力を身につけていきました。多くの動物はヒトより速く走れますが、持久力において劣ります。どうやら我々の祖先は動物を素早く捕まえるスピードや敏捷性を高めるよりも、相手が疲れるまでしぶとく追いかけ続けるための持久力や耐久力を増やす方向を選んだようです。

他の動物より長い距離と時間を走るため、人類の身体は走るスピードを自然に調節して、体内に貯蔵したエネルギーを効率よく使用するように進化していきました。つまり、クルマに例えると「燃費が良くなった」わけです。その一方で、「走っても痩せない」悩みを現代人が抱える原因にもなりました。

そんな仮説を生物学的な視点からの証明を試みた研究*¹が最近発表されました。

*¹. Running in the wild: Energetics explain ecological running speeds
>>https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(22)00563-2

自然なペース=痩せないペース

この研究を主導したのは、米国の名門スタンフォード大学のジェシカ・セリンガー博士です。セリンガー博士の専門は、生物医学生理学であり、ランニングやスポーツの専門家ではありません。

セリンガー博士と研究チームはまず実験室のトレッドミルを用いて、26人の被験者のランニングペースとエネルギー効率の関連データを取得しました。次にレース志向ではないジョグ愛好者たち数百人が自由に走った際のデータを、フィットネストラッカーを介して取得しました。そして実験室のデータと自由に走ったデータを比較したのです。

その結果は興味深いものでした。ペースを指定されることなく「自然に」走るランナーの多くはランニングの経験や走力レベルにかかわらず、どのような距離を走るときも、最もエネルギー効率が良いペースで走る時間が多くなるのだそうです。息がすぐに上がるほど速いペースではありませんが、体内で脂肪が燃焼するに適したペースでもありません。

エネルギー効率が良い走りとは、消費するカロリーをなるべく節約するペースのことです。言い換えるとすれば、なるべく痩せずに走ることです。それがつまり、我々人類が長い進化の過程で身につけた「自然体」なのでしょう。

そして、エネルギー効率のよい身体動作を獲得していったのは人類だけではありません。「エネルギー消費を最小化することは進化的な利益をもたらしました。私たちはより少ない燃料を使って、より遠くまで移動できるようになったからです。その特性は他の動物にも共通しています。空を飛ぶ鳥、水中を泳ぐ魚、野原を走る馬、どれも自然の中で燃料を節約しながら動いているのです」とセリンガー博士はスタンフォード大学のニュースレター*²で述べています。

*2:Stanford scientists find that ‘free-living’ runners default to an energy-saving speed, no matter the distance.
>>https://news.stanford.edu/2022/04/28/runners-prefer-pace-regardless-distance/

自然に逆らって痩せるには、あるいは速く走るには、どうすればいいか

少ない燃料で長く走ることはできるとは素晴らしい。そう思うランナーは多いでしょう。特にフルマラソン以上の距離を走るウルトラランナーにとっては耳よりな情報です。何しろ、無意識で走りさえすれば、レース途中の栄養補給を最小限に抑えることができるというわけですので。

その一方で、ダイエットのために走る人には、あまり歓迎されない情報かもしれません。自然に心地良いペースで走っていては、痩せるためのカロリーを十分に消費できないということが分かってしまったからです。

マラソンなどのレースでより速いタイムを目指す競技志向のランナーについても同じことが言えます。自然に任せて走っていては、身体はエネルギーを節約する心地良いペースに落ち着こうとします。心肺能力を高めるためには、そのペースを意識して上回らなくてはいけないのです。

テクノロジーで克服する「自然」なペース

脂肪燃焼であれ、心肺機能向上であれ、それに適したペースは個人によって異なります。誰ひとりとして、同じ体格、年齢、性別、ランニング歴のランナーはいないからです。従って、痩せることができる、あるいは速いランナーになれる、万人に共通した黄金ルールはありません。

自分の目的に沿った最適のペースを見つけるために、私はランニングウォッチやフィットネストラッカーの利用をお奨めしたいと思います。

そうした製品の多くは運動した時間、移動のスピード、さらに心拍数をある程度正確に測定しますし、それらとユーザーごとの体重や基礎代謝率などの身体データと掛け合わせることで、より「個人的」かつ「個別的」なカロリー消費量を把握することができるからです。上手に活用すれば、まるで個人専用コーチをつけたようなことができる便利なツールです。

身体のエネルギー効率を高めたのが人類の進化なら、そのペースを打破するための情報を得ることができるテクノロジーは人類の叡智が生んだ恩恵とも言えるのではないでしょうか。

もちろん、そのような大げさな話には興味はなく、ただ気持ちよく走れたらそれで十分、痩せなくても、速く走れなくても、別に構わない、というランナーは(私も実にそのひとりです)、ペースを意識することなく、自然の流れに任せて走るのが一番なのかもしれません。

ダイエット ランニング