未来のスターを発掘せよ!アーセナルU23観戦記
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U23世代のリーグ戦、『プレミアリーグ2』の面白さとは?
イングランドプレミアリーグのクラブはそれぞれアカデミーと呼ばれる育成組織を持ち、若い選手を育てていますが、そうした選手たちをピッチ上で観られるのがU23(23歳以下)、U18(18歳以下)といったユース世代の試合です。
U23については、2016-2017シーズンから『プレミアリーグ2』という新しいリーグがスタート。前シーズンまでは『U21プレミアリーグ』として、21歳以下の選手によって行われていたリーグ戦を、年齢の上限を引き上げてよりトップチームの雰囲気に近づけた形です。
『プレミアリーグ2』の面白さは、トップチームに昇格するかもしれない未来のスターを自分なりにチェックできること。たとえばアーセナルの場合、2015年4月のU21プレミアリーグの試合でハットトリックを決めたアレックス・イウォビ選手が、翌2015-2016シーズンにトップチームで大ブレイクを果たしたのは記憶に新しいところです。
また、ケガから復帰したトップチームの選手が、オーバーエイジ枠(23歳以上の選手でも1試合3人まで出場できる)を使って調整のために出場することもあり、タイミングによっては大物選手を間近に眺めるチャンスも。スタジアムは昔ながらのローカルなスタジアムが使われることが多く、プレミアリーグやチャンピオンズリーグの大舞台とは違った親密なムードを体感できるのも魅力です。
今回は、そんな『プレミアリーグ2』、U23世代のアーセナル対レスターシティの試合を観に行ってみました。
「アウェイサポーター以外厳禁」と書いてはあるけれど、U23の試合では気にしない!
四角いつくりで立ち席あり。古き良きローカルスタジアム
アーセナルのU23のホームゲームの主会場は“Meadow Park”というスタジアム。セント・パンクラス駅からThemeslink(Bedford行き)という路線でElstree & Borehamwood駅まで20分強、そこから徒歩なら15分、バスなら5分ほどの場所にあります。
現在イングランド5部リーグに所属するBorehamwood FCの本拠地で、収容人数は約4500、うち座席は約1400席。ゴール裏は昔ながらのスタンディング席というノスタルジックなスタジアム。ちなみにアーセナルレディースのホームスタジアムとしても長年使われていて、U23(昨年までのU21)世代の試合にも使われるようになったのは2013-2014シーズンから。
ここで行われる試合については入場は無料。席も自由で気軽に観戦することができます。(ほかに練習場やエミレーツスタジアムで行われる場合がありますが、前者は非公開、後者は有料。会場はアーセナル公式サイトの“Fixture”のページに記載されています)
小ぢんまりしつつもイングランドらしさ溢れるMedow Park。バックスタンド側のコーナーからメインスタンドを望む
メインスタンドに入ってみると、一応“Home”“Away”の表示はあるものの、見る限り双方交じりあってのんびりした雰囲気。トップチームの遠征時にアウェイ席でよく見かけるレジェンドサポの姿もあって、彼らがどれだけ多くの試合をチェックしているかがよく分かります。
選手の家族や友達、後輩プレーヤーと思しきサッカー少年の姿もちらほら。後半が始まる直前、メインスタンドの最前列からバックスタンド側に向けて大声を出している男性がいましたが、誰に話しかけているのかと思ったら、答えていたのはなんとピッチ上のレスターの選手。「試合が終わったらここで待ってるからな!」と話しかけていたところを見ると選手のお父さんでしょうか。
こうしてちょっとした部活の公式戦ムードも漂う一方、テレビカメラとノートPCを持った記者も複数人が陣取っています。もちろん、他チームのスカウトもしっかり目を光らせているとのこと。こうした光景は、ユース世代の試合ならではです。
集まっている観客は100人足らずというところですが、売店もあってしっかり営業中。メニューは少ないもののお値段も手ごろで何となくほのぼのしています。ちなみにエミレーツスタジアムではホットチョコレートは2.3ポンドですが、ここでは1.5ポンド(どちらも2016年11月現在)。サイズも大きく味も濃厚で、冷え込む夜の試合のお供にぴったりでした。
真剣勝負のプレミアリーグもいいけれど、こののんびり感も何だかハッピーです
U23でも10代ばかりのスカッドがいかにもアーセナル
さて試合ですが、まず印象的なのは、周りが静かな分とにかく声がよく聞こえること。。大きなスタジアムでは客席からの音にかき消されて忘れがちですが、選手同士もこうして声を掛け合っているのだということを改めて思い出します。
もう一つ目についたのは、アーセナルの選手の体の小ささ。しかしこれはどうやら年齢差の影響もあるようです。通常、U23といえば23歳までの選手が出てくるわけですが、この日のアーセナルの16人のメンバー(サブを含む)は、19歳が2人、18歳が7人、17歳が6人という若さ。ほとんどU18のようなスカッドで、平均的なU23のチームと比べれば見劣りするのも無理はありません。
考えてみれば、21歳のエクトル・ベジェリンや19歳のアレックス・イウォビがすでにトップチームでレギュラー格の活躍をしているのがアーセナル。才能のある選手はどんどん引き上げていく方針が見て取れます。
配られたメンバー表で出場選手をチェック。スタメンにエンケティア、ネルソン、ドラゴミールと17歳が3人も
そんなチビッ子スカッドでも、この日の試合ではレスター相手に3-0と快勝。『プレミアリーグ2』ディビジョン1(全24チームのうち上位12チームが属するグループ)で4位に浮上する結果となりました。
ハットトリックのエンケティアは第二のイウォビになれるか!?
一番のヒーローは、1人で3得点を奪った17歳のエディ・エンケティア。長いドリブルで持ち上がってのゴールあり、裏に抜けてのシュートありで見ごたえ十分のストライカーでした。この世代でのハットトリックは、現在トップチームでブレイク中のイウォビ以来。そういう意味でも俄然注目されそうです。
また、2得点に起点として絡んだ左サイドのクリス・ウィロックは、U19までの各世代でイングランド代表に選ばれ、昨年のFAカップ、ハル戦でベンチ入りするなどすでに頭角を現している選手。トップチームのピッチに立つ日も遠くないかもしれません。
ウィロックとネルソン(7)がFKスタンバイする中、虎視眈々とゴール前を狙う右奥のエンケティア
個人的に気になったのは、この日の出場選手の中で最年長、まもなく20歳を迎えるジェディオン・ゼラレム。2013年、アーセナルのジャパンツアーの際には、わずか16歳で試合にも出場し、2列目でのセンス溢れるパス出しで日本のファンを驚嘆させた選手です。
この日はそのときより下がり目でプレーしていましたが、3列目からサラリと出したロングボールがサイドの選手にビシッと決まるなどエレガントなボールさばきは健在。昨年、ローン先のグラスゴー・レンジャーズで積んだ修業の成果がどうだったのかを含め、早くトップチームで見てみたい選手の筆頭格です。
もう1人面白かったのはセントラル・ミッドフィルダーの位置で動き回っていたイスマエル・ベナセル。小柄でよく動き、攻撃にも守備にもよく絡み、ちょっと我の強そうな感じがアーセナルには珍しい雰囲気で、こちらもどう育っていくのか興味津々。
こうしてスカウト気取りで若い選手をあれこれ評するのが楽しくて、地元のファンも試合に足を運ぶのかもしれません。
16歳で来日したときと比べるとずいぶん大人っぽくなったゼラレム。早くトップに上がってきてほしい!
試合後はロッカールームに引き上げる選手とセルフィー大会。期待のウィロックは撮影タイムにも人気者