強風とカテドラルの街がシーズン再開を告げた、ブエルタ・ブルゴス
WATCH強風とカテドラルの街がシーズン再開を告げた、ブエルタ・ブルゴス
約5カ月間の新型コロナウイルス感染拡大によるシーズンの中断を経験したヨーロッパ自転車界でしたが、7月下旬からとうとうレースが再開されました。
今回スペインで開催されたブエルタ・ブルゴスは、今年後半に開催予定のツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアそしてブエルタ・エスパーニャへの参戦する有力選手たちが大集合したレースになりました。
ベルギーの若き至宝、ドゥクーニンク・クイックステップ(Deceuninck-Quick Step)のレムコ・イヴェネプール(Remco Evenepoel)選手の総合優勝に沸いた、真夏のスペインでのブエルタ・ブルゴスのレースレポートをお送りします。
TOP写真:今年のブエルタ・ブルゴスを総合優勝したイヴェネプール選手。ステージ優勝した第3ステージにて。Photo by Yukari TSUSHIMA.
新型コロナ対策は厳重に
サイクリストと観客の間にもソーシャルディスタンスを確保。第1ステージにて。Photo by Yukari TSUSHIMA.
新型コロナウイルスの感染拡大により、約5カ月にわたって、レースを中断せざるを得なかった自転車界。しかし、とうとう7月下旬からレースが再開されました。スペインでの男子のプロロードレースは、真夏の名物レースであるブエルタ・ブルゴスがシーズン再開を告げることになりました。
この5日間のレース開催にあたり、UCIが規定した新型コロナウイルスの感染対策を、今回ブエルタ・ブルゴスの大会組織委員会が現場で実施することになりました。
まず、レースに出走するチームの選手とスタッフ全員にPCR検査が義務付けられました。出走チームはPCR検査の陰性証明をレース前日までに大会組織委員会に提出することが求められました。また、5日間のレースの最中にもチームには簡易PCR検査を受けることになりました。
また、レースの報道の仕方も様変わりしました。まず、レースを報道するカメラマンや記者たちにも、PCR検査の陰性証明書の提出が義務付けられました。そして現場では、報道陣が個別に選手やチームにインタビューすることは許されず、大会組織委員会が代表して選手たちに質問します。
また、スタート前のサイン台やフィニッシュラインで写真撮影できるのは、大会組織委員会が決めた公式カメラマンだけに限定されました。
出走前やゴール後の選手に観客が近づくことは厳しく制限されたため、サインや2ショットの写真を選手にお願いする観客の姿を見ることはありません。また、レース中に選手が投げ捨てる給水ボトルもファンが拾うことは許されていないようです。とはいえ、実際のレースの現場では給水ボトルを拾っている子供たちもたくさん見ました。
自転車レース界に多くの変化をもたらした新型コロナウイルス。特にレースの報道の仕方やPCR検査の金銭的な負担についてなど、これから改善していかなくてはならないことは数多くあります。
しかし、なんとかレース開催を可能にしたブエルタ・ブルゴスの大会組織委員会に対し、選手やチームスタッフ、そして報道陣からも感謝と称賛の声が聞かれました。
強風と高温に苦しむ選手が続出
第3ステージのゴールとなった強風ピコン・ブランコにて。ゴール前500m地点。Photo by Yukari TSUSHIMA.
このブエルタ・ブルゴスは、強風と寒さと豪華な大聖堂で有名なレースです。しかし、今年は風こそ強かったものの気温は40度近くまで上がり、選手たちは厳しいコンディションのなかでレースをすることになりました。
第1ステージのブルゴス市内を舞台とした157kmのレースは、毎年恒例のコースの一つ。ゴールとなるアルト・デ・カスティーリョを選手たちは2回登ることになります。
第1ステージを優勝したグロスチャーナー選手。第1ステージのゴールまでラスト500mの石畳区間。Photo by Yukari TSUSHIMA.
レースのスタート直後から逃げ集団が形成されるものの、ゴールまで残り50㎞程になってからレースが本格的に動き始めます。まず、スタートから103㎞地点で落車が起こり2選手がレースを棄権、その後強風によりメイン集団が分裂されます。
そして1回目のアルト・デ・カスティーリョ(Alto de Castillo)の登り直前で逃げ手段がメイン集団に吸収されると、登りに強いスプリンターを抱えるチームが集団を高速で引き始めます。
この日勝ったのは、ボーラ・ハンズグロエ(Bora-Hansgrohe)のフェリックス・グロスチャーナー(Felix GROßSCHARTNER)選手。2回目のアルト・デ・カスティーリョの登り口で集団を抜け出すと、荒い石畳とカーブ付きの登りを800m独走してこの日のステージ優勝に輝き、ゴール後にこのようにコメントしました。
僕向きの登りというわけではなかったけど、最後の登り口でいいポジションに着けていたから思い切って飛び出してみたんだ。ゴールするまでずっと、後ろの選手が追いつくんじゃないか、と心配しながら走っていたよ。
第2ステージは、カストロへレス(Castrojerez)からビリャディエゴ(Villadiego)までの170km。今回のブエルタ・ブルゴスのなかでは貴重な平坦ステージとなりました。
第2ステージを優勝したガビリア選手。第1ステージのスタート前にブルゴスのカテドラルを撮影中。Photo by Yukari TSUSHIMA.
スタート直後から5人の選手が逃げ集団をつくり、一時はメイン集団から5分近くのタイム差を開きます。しかし、スプリンターを抱えるワールドツアーチームがラスト30kmでこの逃げ集団を吸収すると、一気にスプリントへ持ち込みます。
最後の1kmには、カーブが1つしかないこの日のスプリントを制したのは、UAEチーム・エミレーツ(UAE-Team Emirates)のフェルナンド・ガビリア(Fernando GAVIRIA)選手。「レース中の選手たちの中には、多少神経質になっている人もいるよね。来シーズンの契約のためにアピールしたい選手もたくさんいるから、ちょっとアグレッシブに走る選手も多いし。」とレース後に語るガビリア選手でした。
登りゴールで総合優勝が決定的に
第3ステージのゴール地点のピコン・ブランコにて。ミッチェルトン・スコット(Mitchelton Scott)のジャック・ヘイグ(Jack HAIG)選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.
今年のブエルタ・ブルゴスの最初の山岳ステージとなったのが第3ステージのゴール地点のピコン・ブランコ(Picón Blanco)です。
ゴール前約8kmから登りが続き、ラスト3kmの平均斜度が9.7%。ゴール前の登りには、路面が荒れていたり、アスファルトではないセメントの舗装部分もあります。加えて、この日のピコン・ブランコには低気圧が近づいていたため、選手たちは風とも戦うことになりました。
この日は9人の選手が逃げ集団を形成し、最大でメイン集団との差が10分以上の開きます。そして96km地点で強風によるメイン集団の分裂が起こり、その後有力選手たちはピコン・ブランコの登り口からアタック合戦を開始し、ラスト2㎞地点で逃げ集団を吸収。
その直後、イヴェネプール選手が先頭に飛び出すと、ゴールまで独走します。そして、最終的にイヴェネプール選手が第3ステージを制すると同時に、総合1位に躍り出ました。「ゴール前はほんとに風が強かったよね。アタックをかけた瞬間から僕はフルパワーで走ったから、最後の数百メートルの向かい風がかなりきつかった。」と語る若きベルギー人サイクリストでした。
第4ステージは、今回のブエルタ・ブルゴスで最も平坦なステージとなりました。スタート直後から逃げ集団が快調に走り、一時はメイン集団と4分以上もタイム差が開きます。しかし、メイン集団はこの日もしっかりとレースをコントロールし、ゴールまでラスト10km地点で、逃げ集団を吸収します。
第4ステージを制したベネット選手。Photo by Yukari TSUSHIMA.
しかし、ゴール前ラスト1km地点で、集団前方が巻き込まれる落車が発生します。この落車をうまくかわしたドゥクーニンク・クイックステップのサム・ベネット(Sam Bennett)選手が約800mを独走し、この日のステージ優勝を手にしました。
「アタックしてからゴールまで、予想以上に距離があった」と語るベネット選手。ゴールした次の瞬間には倒れこんでしまうほどの激走でした。
最終第5ステージは登りゴール。ゴール地点のラグーナス・デ・ネイラ(Lagunas de Neila)に注目が集まりますが、実はこの日のステージはスタートからゴールまでひたすら登り続けるコース設定です。
第5ステージを制したソウサ選手(写真左)。写真は第1ステージのもの。Photo by Yukari TSUSHIMA.
距離も160kmと十分。そうしたコース設定にもかかわらず、この日のレースの最初の1時間の時速は何と47km/h。その後も時速43km/hでレースが進みます。
そしてラスト600mでアタックを決め、この日のステージを勝ったのはチーム・イネオス(Team Ineos)のイバン・ソウサ(Iván R. SOSA)選手。リーダージャージを着ていたイヴェネプール選手もこのステージで11秒差の3位となり、今年のブエルタ・ブルゴスの総合優勝者となりました。
今年出走するレースではすべて総合優勝しているイヴェネプール選手。レース再開後も変わりのない、彼の強さを十分に知らしめたレースとなりました。